海老名市・ツタヤ図書館の内観。緑で囲った書架の部分はすべてボール紙でできた中身が空洞の“ダミー本”。同図書館が「中身空っぽの箱モノ行政」と批判される象徴でもある(撮影/海老名市民・南室勝巳)

お洒落なカフェで雑誌や本読みながら、ゆったり寛げて「サイコー!」と喜ぶ若者も多い 通称“ツタヤ図書館”。だが反面、社会教育機関としての図書館を重視する良識派の市民にとっては「機能を破壊する悪の帝国」となっている。

一体、なぜCCCが運営するツタヤ図書館はそこまで嫌われるのか――?

図書館の“一等地”である1階部分を蔦屋書店が占拠する一方、フロアの奥側のスペースには古い料理や実用書を大量に配架。手の届かない高層書架に貴重な地元の郷土資料を棚上げし、お洒落な雰囲気を醸し出すため中身空洞の本の空箱(ダミー)を壁面高層部分に大量配置。また書店方式の独自分類で本を探しにくい…等々。

開館当初、大混乱をきたした神奈川県・海老名市はじめ、ツタヤ図書館の悪評をあげ出すとキリがない。図書館が最低限守らなければならない個人情報すら、Tカードを貸出カードに使うことで漏洩(ろうえい)リスクが高まると不安視する声も根強い。実際、海老名市ではTカード付図書貸出カードを作ったら「知らない会社からDMが届いた」という事例も報告されている。

にも関わらず、この12月15日には和歌山市でCCCが運営する新図書館の計画が議論もなくスンナリ決まった。反対派住民を押さえ込む“市民不在”の議会戦術(前々回記事参照)や、多賀城市・ツタヤ図書館(宮城県、2016年3月開館)で露呈した内部文書(前回記事参照)を見るにつけ、和歌山市でも最初から「TSUTAYAありきだったのでは?」との疑念が湧く。事実、その根拠になるネタには事欠かない。

例えば、今年5月に発表された基本設計を担当したのは、代官山蔦屋書店を手がけた設計事務所アール・アイ・エー。同事務所は、海老名市立図書館の大規模改修や多賀城市立図書館も担当しているため、その時点で「CCCに決まっているのでは」と囁かれた。

5月に開催された教育委員会の会議録では、図書館の条例改正案の部分だけが、なぜか「非公開」とされた。この時点でCCCの名前が出ていたから非公開にしたのではないかと勘ぐる声も出た。

和歌山市議会の中には、武雄市の樋渡啓祐前市長と親密で「まるでCCCの営業マンみたい」と地元で揶揄(やゆ)されるほど“ツタヤ図書館推し”の議員がいることはつとに有名だ。ある市議会関係者はこう話す。

「賛成した議員の中に、武雄の例を挙げて、何年か前に『すばらしい図書館がある』んだと。和歌山市の図書館は休館日もあるし開館時間も短い、そこに学ぶべきではないかという一般質問をされた方がいました。その議員さんが『ぜひ武雄のやり方を学んでほしい』と議員全員に呼びかけ、武雄の図書館に詳しい人を呼んで学習会も開きました」

そこで、そう噂されている当のご本人で、現在、和歌山市議会の広報委員長を務める戸田正人市議を直撃すると、こうコメントした。

「自分は指定管理者制度を推進して効率的な行政をめざしているだけで、決して『CCC推し』などではない。議員の勉強会に(指定管理者を選定するプレゼンでCCCと競合した)TRCの幹部を呼んできているくらい公平な立場だ。

(候補決定から選考までの)期間の短さは全く問題ではない。1社ではなく、業界の代表的企業が出てきて提案を戦わせた結果、優れたほうを選んだということ。公開プレゼンを実施したのは、かなり透明性が高まったのではないか」

ツタヤありきだった?疑惑の採点結果

2017年11月24日に行われた和歌山市民図書館指定管理者選定の採点結果。TRCがCCCを上回ったのは、「運営・経営に関する取り組み」のみ。残りの4分野すべてにおいてCCCが圧倒的な高得点を得ている。特に「空間イメージの提案」「自主事業実施に関する取り組み」の二項目で大差をつけ「運営の基本方針・理念」でもリード。1400点中500点と、最も配点の多い「提案価格の評価」でも上回ったCCCが逃げ切った格好だ。しかし、実際に公開プレゼンを傍聴した一般市民には「TRCのほうが好印象だった」という人も少なくない

だが、一番腑(ふ)に落ちないのがその選定委員会の採点結果だ。図書館運営全般に関してはTRCが上回っていて、実際、公開プレゼンを傍聴した人に聞くと「圧倒的にTRC優勢に感じた」と言う。ところが、蓋を開けてみると「空間イメージの提案」「自主事業に関する取組」など、図書館運営とは直接関係のない部分で上回ったCCCが勝利した。

市議会関係者によれば、市当局が最も重視したのが提案価格だったというが、これも奇妙な話である。

CCCが運営する図書館は、高層書架、独自分類、Tカード導入のためのシステム改修と、いずれも高コストな作り。海老名市や多賀城市では、運営費がツタヤ化される前の2倍を超えている。とりわけ独自分類を導入するには、市内図書館における全蔵書のラベルを張り替え、システムもそれに合わせて改修しなければならず、そのための費用も莫大。

それにも関わらず、CCCがTRCよりも低い提案価格を出せたのは、そうした開館準備費用をすべて除外した「提案価格」設定になっているからだ。事実、募集要項には「システムに関する費用は市が負担するため含まれない」旨が明記されている。独自分類に関わる全蔵書ラベル総張り替え等の開館準備費用も、提案価格にはもちろん含まれていない。

これは、公平な審査とは言えないのではないだろうか? そこで、和歌山市民図書館・図書館設置準備班の宮地功班長に疑問をぶつけた。

-CCCとTRCの提案価格には、開館準備費は含まれているか?

「指定管理料の中には準備費用は含まれていません」

-CCC社が運営している他の図書館では、独自分類やTカード導入、高層書架設置等、TRC社の運営ではほぼ発生しない巨額の開館準備費がかかっていますが、その点を考慮に入れて比較しないのは、公平な選定とは言えないのでは?

「準備費用の額はまだ決まっていないが、その内容や経費については、こちらで検討した上で予算のほうはとっていきたいと思います。今後、それが莫大な費用になると、もちろん市民の方からお預かりしている税金なんでね、できるだけ安くするように準備の費用も含めて検討していきたい」

だが、莫大な開館準備費用を一切考慮に入れずにCCCを選定したのは、ネット回線の通信料金に例えれば月々の料金だけで比較したら少し安くみえるが、入会後に工事費や事務手数料などがバカ高くなることが一切考慮に入っていない選択ということになる。

そこまでして、人口36万人を擁する県庁所在地である和歌山市は、一体なぜ“火中の栗”を拾わねばならなかったのか。あるツタヤ図書館ウォツチャーはこう話す。

「和歌山市の市民図書館が移転を予定している南海和歌山市駅ビルの再開発は、国土交通省の社会資本総合整備計画に認定されている事業総額328億円にものぼる一大プロジェクトです。ここに市民文化センター、市民図書館などの公益施設のほか、商業施設や宿泊施設も建設して、中心市街地に賑(にぎ)わいを取り戻すことを目的としています。その目玉がツタヤ図書館なんですよ」

「来館者100万人!」集客目標のカラクリ

市議会関係者によれば、総事業費328億円のうち、少なくとも80億円以上は国の補助金が投入される見込みという。図書館関連でいえば、本体の事業費30億円のうち15億円が補助金、広場と駐輪場合わせると約18億円もの国費が投入される予定だ。

国の補助金をもらうためには、図書館などの公共施設の配置が必須条件。逆にいえば、図書館を入れれば莫大な補助金を得られるため、派手に施設の宣伝をして人を集めてくれるツタヤ図書館を誘致したいという思惑だろう。ある保守系の市議がその背景をこう解説してくれた。

「権限を持っているのは、あくまでも尾花(正啓)市長。来年8月が市長選挙なので、3月の議会ではCCCとの打ち合わせが遅くなる。プランを世間に早く出し、4年間の実績をアピールしたいという気持ちが強いのではないか」

そんな中、市民図書館が当面の目標とするのは年間100万人の来館者だという。果たして、そんなにも集客できるものなのか?と思うが、これにもカラクリがある。

「2016年に開業したCCC運営の多賀城市立図書館では、駅ビル全体の来場者を図書館の入館者としてカウントする粉飾まがいの手法を採用しています。和歌山でも、この方式が採用されるはずです」(前出・ツタヤ図書館ウォッチャー)

開業が予定されている南海和歌山市駅の乗降客数は1日1万7900人。そこから逆算すれば、年間100万人などは2ヵ月足らずで達成可能だ。しかし、それは図書館の利用者ではなく、駅ビルを通った人の人数に過ぎないのだが…それを過去のツタヤ図書館の例では「○ヵ月で○万人達成!」とメディアが“大本営発表”で流してくれるのだ。

かくして、地域の文化振興とは縁遠い、壁面いっぱいに大量のダミー本を飾り立てた中身のない“張りぼて図書館”がまたひとつできてしまうのか。

和歌山市では、かつて世界中に移民を送り出した歴史から、移民資料室を備えるなど貴重な資料のアーカイブを多数保持しているのだが、CCCに任せて、はたしてそれらは適切に維持・管理されるのだろうか。

ちなみに、和歌山市が国に提出している事業計画によれば、328億円を投入した一大プロジェクトが掲げている中心市街地の「人口減少抑制効果」はたったの「835人」だという。ジャブジャブ補助金をつぎ込むだけで、中身カラッポの箱物行政では地方の文化はますます先細る一方だろう。

(取材・文/日向咲嗣)