『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、選挙や国民投票でフェイクニュースを投下したフェイスブック騒動から提示された課題について語る!
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2016年の米大統領選や英国の国民投票に際し、フェイスブック(以下、FB)の個人情報を分析してピンポイント広告やフェイクニュースを投下する"心理兵器"が使われたとのスキャンダルが欧米社会を揺るがせています。前回配信記事ではその黒幕である英ケンブリッジ・アナリティカ社(以下、CA社)の元幹部の告発を紹介しましたが、その後も英議会などで次々と"爆弾証言"が飛び出しています。
例えば、米大統領選や英国民投票ではCA社からの資金を受けたカナダのデータ分析会社が有権者を"誘導"するためのソフトを開発し、FBから不正に流出した約5000万人分の個人情報がその"素材"として使われた。あるいは、米英の選挙より前にCA社が関わったナイジェリアの大統領選では、クライアントの対抗馬候補がイスラム教徒だったことから、イスラム国(IS)の"首斬り動画"を盛り込んだ動画CMを作成してネガティブキャンペーンを展開し、イスラエル企業に外注して相手陣営に対するハッキングも仕掛けた...。
こうした事例に共通するのは、選挙においてCA社が社会の分断を深める煽動(せんどう)を行ない、それが金儲けの種になったという点です。特に米英の選挙に関しては、FBも単に個人情報の管理が甘かったというだけでなく、広告収入を優先するあまり分断工作を野放しにした点において、社会的な責任は免れないでしょう。
世界的なテクノロジー企業が関与したこの騒動は、われわれにも重大な課題を提示します。大規模な世論誘導、分断工作を仕掛けられたら、日本社会は耐えられるのか――?
残念ながら、僕の結論は「否」です。日本人はディベートが苦手で、英語報道から隔絶されているため情報量が少なく、視点の多様性に乏しい。そして異常なまでに潔癖。森友問題にしても、その潔癖性のために「問題を一切認めない側」と「重箱の隅をひたすら責め立てる側」の稚拙な議論に終始し、マルバツで答えを求めるあまり、議論をぶつけ合って両サイドの意見を積み上げられない。
思い切って言いますが、そんな日本人の体質を体現しているのが安倍昭恵さんだと思います。危うい放射能デマに乗っかって反原発運動に共鳴したかと思えば、教育勅語に涙するあの無邪気さと脇の甘さ。首相夫人として「利用価値が高い」がゆえに様々な陣営に狙われやすいのは事実ですが、彼女自身の"揺さぶられやすさ"は日本人の体質そのもの。安倍1強体制がどうこう、という単純な問題ではありません。もし日本の有権者全体を揺さぶることが「金になる」と判断されたら、あっという間に心理兵器は言語や大陸の壁を越えて上陸してくるでしょう。
米英で「移民」や「イスラム」に不安を感じる人が狙い撃ちされたように、心理兵器は社会に多大なストレスがかかっているときに最大の効力を発揮します。日本でも、例えば2011年の東日本大震災と原発事故の直後に米英で使われたレベルの心理兵器が投入されていたら、世論は簡単に揺さぶられ、社会はもっとズタズタになったでしょう。ただでさえ当時、メディアやSNSで飛び交った"正義の仮面をかぶったデマ"に飛びついた人があれだけ多かったのですから。われわれはあの経験から何かを学ぶ必要があります。
●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson) 国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)、『けやきヒルズ・サタデー』(Abema TV)などレギュラー多数。
■2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した待望の新刊書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!