昨年2月に引退した旧式車両を大輸送!

1年前、ひとりの鉄オタが歴史ある鉄道車両を買い取った。千葉県内に仮置きされていたこの車両が、ついに鉄オタの元へと引き渡された。

想定を超える難しいプロジェクトとなった輸送の模様を週プレ本誌が独占レポート!

■鉄オタの自宅に運ぶはずが…

箱根の山を60年以上走り続け、昨年引退した箱根登山鉄道の110号電車をひとりの“ホンモノ鉄”が買い取ったのは、昨年3月のこと。その2ヵ月後、車両は箱根から千葉県いすみ市にある鉄道車両の展示施設「ポッポの丘」へと運ばれた。

この輸送の模様を本誌にてレポートした際「ポッポの丘から鉄オタの元へと運ばれるのは、10月頃」と書いた。

ところが、埼玉の鉄オタの元へと運ぶ計画を立てている段階で新たな課題が発生。計画を練り直すため、輸送は延期されていた。

そしてこの春、ついにすべての環境が整い、名車両が鉄オタの元へと陸送された。

週プレ本誌が、この輸送計画を入手したのは3月下旬。そこには作業完了まで1週間以上にわたる日程が書き込まれていた。ちなみに昨年、箱根からポッポの丘まで運ばれたときの作業日程は4日ほど。なぜ今回はその倍近くの時間がかかる工程となったのか。輸送会社の担当者に聞くと、

「オーナーさんのご自宅の周りの道路が狭く、車両を入れることができなかったんです」

そこで、車両をカットして、半分だけ自宅へ持っていくプランを提案したが、オーナーから「1両丸々家に置きたい!」との強い要望があり、一度車両を半分にカットして輸送、切った車両を自宅で再びくっつけるという、複雑な作業を行なうことになった。

当初は昨年10月に陸送を行なう予定だった。だが、輸送会社にとっては初めての経験のため、今回の作業と同じ手法で車両を運んだという、千葉県松戸市の昭和の杜博物館に展示されている車両を見学・取材するなど、下準備が必要になった。そのため作業が延期されていたというのだ。

最初に行なわれた作業は、台車(車両の車輪のついた走行装置)の輸送。箱根からポッポの丘へ運ばれた際に取り外され、別の倉庫に保管されていた台車は大型トラックで運べる大きさ。作業初日の午後3時、手際よく荷台に積まれると高速道路へ。渋滞する時間帯を避けるため、サービスエリアで時間調整をし、深夜、高速道路を使って埼玉へ。再び時間調整の後、翌朝、住宅街の狭い道路をドライバーが器用なハンドル操作で進んでいく。着いたのは、線路だけが敷かれたまっさらな土地。自宅に運ぶと聞いたので、民家の庭先に運ぶと思ったのだが…。

「オーナーさんは、この土地に家を建てる計画を立てていて、今回そこに箱根登山鉄道の購入話があって『新しい家に電車を置きたい!』となったそうです。家を建ててからでは、車両を入れる作業が難しくなるので、家を建てるのをいったんストップさせているそうです」(作業担当者)

このオーナー、以前も独立して自分の病院を開院する際、購入した鉄道車両を敷地のどこに配置するかを考え、列車を一番いい場所に置いてから、空いた土地に病院を建てたという筋金入りの鉄オタ。自宅も同じ段取りで建てていたとは…鉄道愛にブレがない。

トラックに積まれた台車は、スタンバイしていたクレーン車で線路の上に運ばれ、最初の作業は終了した。

【STEP1】台車はひと足先に目的地へ。

比較的運びやすい台車は圏央道や東北道で埼玉へ。30tほどある車両を置くため、設置先の土地は一度地盤を固め直したという。

いよいよ始まった切断作業

■4人の作業員で大きな車両本体を切断

作業3日目、いよいよ車両本体の切断だ。大がかりな作業になると思いながらポッポの丘に向かうと、作業員はわずか3人。車両の床下部分のパーツや、屋根の上の空調設備など、切断や輸送の際に邪魔になるものをテキパキと取り外し、作業が終了。

4日目に内装や窓枠取り外し作業を終え、5日目、いよいよ切断が始まった。

4人の作業員が集まり、電動カッターを持ったふたりが慎重に切断を進めていく。国鉄時代に活躍した特急電車や寝台車、昭和の時代に活躍した地下鉄の車両が並び、周囲からはウグイスの鳴き声が聞こえる、ポッポの丘。そんなのどかな場所に、金属をカットする音が鳴り響く。朝10時に始まった作業は、およそ5時間で終了。土日の休みを挟んで、作業6日目。ようやく運び出しが始まった。

朝9時に現場へ向かうと、運び出し用のクレーン車と20tのトラック2台がスタンバイ。作業員は7人ほどだ。

トラックへの積み込み作業は午前10時すぎに作業が始まった。クレーンで引き上げるための枠をカットした車両の前半分に通すと、引き上げ開始。切り出した断面が丸出しの車両が空に浮かび上がる。

真っぷたつになった車両をじっくり眺めていたかったが、作業はテキパキ進み、5分もかからずにハーフサイズの車両がトラック付近に運ばれ慎重に荷台へと下ろされる。

30分ほどで積み込みが完了すると、同じ要領で後ろ半分の車両パーツも、もう1台のトラックへ。1回目の作業でコツをつかんだのか、2回目の作業は20分ほどで終了した。

その後、荷台と車体の固定作業を経て、午後1時前に積み込みが完了。交通渋滞が解消される午後8時の出発に備え、いったん休憩となった。

【STEP2】大胆! 車両を真っぷたつに切断!

切断作業は、このようなハンディ電動カッターで行なわれた。カットする位置や内装への影響がないかを確認しながら慎重に進める。

【STEP3】2台のトラックに車両を積み込み。

トラックへの積み込みは、真っぷたつに切った車両を空中に浮かべるという、ダイナミックな作業。これを7人で行なうというから驚きだ。

◆昨年2月に引退した箱根登山鉄道を“ホンモノ鉄”が引き取り! 箱根~埼玉間 陸送の旅【後編】

(取材・文/渡辺雅史[リーゼント] 撮影/田中一矢)