『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、アメリカで賛否を呼ぶ社会系広告について語る。
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米日用品大手のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社が展開する、かみそりブランド「Gillette(ジレット)」のCMが全米で大きな議論を呼んでいます。
皆さんにもぜひネットなどで動画を見ていただきたいのですが、いじめやセクハラなどに代表される"toxic masculinity=有害な男らしさ"を非難し、男性に対して自省を促すという内容です。
このCMには賛同の声も上がる一方、それ以上に批判が集中。最も多いのは保守的な男性層からの「男性を一方的に悪と決めつけた描き方はおかしい」という批判で、これはまあ想定内ですが、特徴的なのは、逆にフェミニズムを推進するリベラルの側からも否定的な声が多く上がっていることです。
いわく、P&Gは問題の本質も理解せず、#MeTooブームを利用しているだけだ。過去に女性モデルを性的に扱ったCMを流していたくせに、急に"転向"するなんて無節操だ......。要は「おまえが言うな」ということです。
言いたいことはわからないでもない。ただ、少なくとも今回のCMの内容そのものは、そこまで批判を浴びるものではないと個人的には思います。客観的に見て、男性に自省を促すメッセージもしっかりと伝えられていますし......。
こうした批判はGilletteブランドのみならず、P&Gのほかの"社会系広告"にも波及。例えば、マイクロプラスチックなど海洋ゴミを減らそうというキャンペーンに対しては、「今まで散々、自分たちの製品で海洋ゴミを生み出しておきながら、責任を消費者へ転嫁するような言い方はおかしい」といった具合です。
こうした問題提起を伴う広告は、やはり賛否を呼びやすい。P&Gは昨年にも、人種差別をテーマにしたネットCMで大きな議論を巻き起こしました。
また、ナイキも元NFL選手のコリン・キャパニック氏をCMに起用。彼は3年前、人種差別に抗議するため試合前の国歌斉唱中に両腕を組んで片膝をつき、大きな話題となった人物で(ちなみにオバマ前大統領は彼の行動を擁護し、トランプ大統領は激しく批判)、かなり冒険的な起用といえるでしょう。
このように、アメリカでは世論を二分する社会課題に企業が続々と参戦しています。どちらにつくでもない中庸な広告を打つのではなく、"地雷原"だとわかっていても、そこから目をそらさないことが企業としてあるべき姿である、と。
保守とリベラルの対立は激しくなるばかりですが、こうした潮流は社会全体が進もうとしている動きであるとみるべきかもしれません。
日本にはまだこうした"大波"は到達していませんが、特にフェミニズムの問題に関しては、状況が変化しつつあると感じています。先日も、僕がフェミニズム系のある問題に対してツイートしたところ、インプレッションが2000万回に到達。以前とは比べものにならない反応です。
「いいね」を押したユーザーを見に行くと、多くは、ほかのツイートでは政治的メッセージを発していない"普通の女性"でした。おそらく彼女たちは、自分では積極的に声を上げられないけれど、問題をどうにかしたいと思っている層です。
こうした声がもっと可視化されれば、男性中心の社会はいよいよ変わっていくかもしれない。そう期待しています。
●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!