『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、日本の「エロ漫画」文化の今後について語る。
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コンビニ大手2社が、8月末までに全国で成人向け雑誌の販売を原則、中止すると発表しました。
今回の状況を俯瞰(ふかん)してみると、いろいろな場面で「#MeToo」の流れが加速し、雑誌『SPA!』も炎上し......というなかで、社会的な議論がなされるより前に、企業側の判断で一方的にふたが閉ざされたように見えます。東京五輪もあることだし、面倒なことが起きる前にやめてしまおうと。
ここで気になるのは、日本で独自に進化を遂げてきた「エロ漫画」という文化の今後です。漫画やアニメは国内の法律・条例による表現規制とはこれまで必死に戦ってきたわけですが、こうして「西洋基準」と「資本家の判断」によって過剰コンプライアンスが横行し、その結果として「押し切られてしまう」ケースが今後は増えていくのかもしれません。
すでに、海外のフェミニストや人権団体は日本の漫画やアニメを攻撃し始めています。日本のエロ漫画は実在の少女が性的搾取されているようなコンテンツとはまったく異なる遊びの文化ですが、その"文化翻訳"がなされていないので、欧米側に壮大な勘違いがある(エロ漫画の異様な想像力、フェティシズムごとの細分化、そして匠[たくみ]の技術......といったあたりは、欧米ではまったく生産されていない文化領域です)。
以前、国連特別報告者が誤ったデータを基に「日本は女子高生売春天国だ」と断罪(後に撤回)したケースがありましたが、それと同様に断片的な情報だけをつなぎ合わせて、「日本はロリ&少女搾取国家だ」という物語をつむぐ"正義の人"も出てくるでしょう。
そこで白日の下にさらされた日本の"HENTAI"を、英『BBC』や『ガーディアン』のような海外メディアが徹底的に"おもちゃ"にする......。そんな流れが起きる可能性は十分に考えられます。
例えば、シーシェパードのような過激な活動家団体がコミケ会場に乱入して、ただただその場にいる人の気分を悪くするような"いやがらせパフォーマンス"をするかもしれない。
欧米ではコミケに出ているエロ漫画の一部だけが切り取られて紹介され、その活動家団体の行為が称賛、もしくはある程度の理解をもって受け止められるかもしれない。それを見た日本社会は、「くさいものにふたをする」ように規制を強化していく......。最悪のループです。
そうなる前に、日本の"HENTAI"は議論を仕掛け、存在証明をするしかないと思うんです。「議論した時点で今の居心地のよさはなくなってしまう」という意見もあるでしょうし、それもよくわかりますが、ブラックバスは間もなく湖に放たれる。このまま何もしなければ、いずれ"楽園"は消滅してしまうでしょう。
注目すべきは、フェミニズムは「変態」に対しては弱い、ということです。DV反対、シングルマザーの権利、子供を産まない権利......といった面では強く主張できても、エロティシズムや"プレイ"の領域になると、杓子(しゃくし)定規に判定しづらい。
女性が自らHENTAIを望んだ場合、欲望の解放として認めるべきかもしれない。SMだって、ドMの女性が本当に自分から望んでいる場合は......といった具合です。言語化されていない文化を言語化していく作業が、日本の"HENTAI"を守ることになるかもしれません。
●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!