『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、ハリウッドで黒人差別を訴え続けてきたスパイク・リー監督の"新境地"となる作品について語る。

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映画監督スパイク・リーがプロデュースを手がけたNetflix映画『シー・ユー・イエスタデイ』は、非常に現代的な素晴らしい作品でした。

主役は天才的な頭脳を持つ高校生の黒人の男女で、タイムトラベルを可能にするリュックサックを作るというB級SFモノっぽい始まり。ところが、少女の兄が白人警官に手違いで射殺されてしまい、それを救うためにふたりが過去へタイムトラベルするところから物語は急展開し、黒人差別問題を新鮮な視点で絡めながらストーリーが進んでいきます。

特筆すべき点は、SFというフィクションのなかに、黒人差別にまつわる多面的な問題を内包させている点。「黒人vs白人」という2項対立構図に簡単に収束させず、黒人目線(主人公の男女はカリブ海地域の小国ガイアナからの移民という"マイノリティ黒人"です)で黒人社会の"あるある"を描いているため、自分が白人であるとか、黒人であるとか、そんなことは関係なく伝えたいことがダイレクトに響いてきます。

過去のスパイク・リー作品は、基本的に「白人が黒人を差別する構図」を勧善懲悪的に描くスタイルでした。例えば、ニューヨークのブルックリンを舞台にした1989年公開の『ドゥ・ザ・ライト・シング』はオバマ前大統領がミシェル夫人と初めて見に行った映画として知られ、高い評価も得ていますが、僕が当時見たときは「昔に比べて差別もマシになったのに、なぜ分断と憎しみをあおるような映画を作るんだ」と感じてしまった。多くの白人も、自分自身が責め立てられているかのような後味の悪さを感じたと思います。

もちろん、ハリウッドの世界で30年以上、作品を通じて黒人の怒りを訴え続けてきたスパイク・リーの功績には素直に感服します。彼が厳しく指摘してきたように、ハリウッドはあらゆる形で"ホワイトウォッシュ"をやってきた。今年のアカデミー賞で作品賞を含む3部門を受賞した『グリーンブック』にしても、そうした批判を受けています。

『グリーンブック』は黒人ピアニストと白人の運転手兼ボディガードの交流を描いた作品で、1962年に実際に行なわれたコンサートツアーを元にしています。

ただ、実はこの白人運転手兼ボディガードは、実際には存在しなかった人物。つまり、史実をねじ曲げて「心ある白人がかわいそうな黒人を助ける」という"感動ポルノ"に仕立てているという見方もできるわけです。

ハリウッドは今も白人中心社会で、こうした"ホワイトウォッシュ"を常套(じょうとう)手段とし、白人に向けた作品づくりをしている――。アカデミー賞の受賞会場にいたスパイク・リーは、『グリーンブック』の受賞が発表されると席を立ち、無言の抗議をしています。

スパイク・リーはそのストロングスタイルゆえ、話題作を発表しても彼を支持するファンが熱狂する一方、社会には期待されたほどの対話が生まれなかったという側面もあります。ところが今回の『シー・ユー・イエスタデイ』で、彼は新境地を見せた。

全世界を市場とするNetflixが多様性をウリにしており、「対白人」という構図にこだわる必要すらなかったからでしょう。このような作品が世に出て、多くの人が称賛しているのは、世界が変わりつつあることの証(あかし)だと僕は思います。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『報道ランナー』(関西テレビ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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