『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、これまで韓国と関わってきた実体験から韓国への思いを語る。
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今から23年前の話です。1996年、僕は自主制作のアルバムを発表し、アメリカ人のミュージシャンとともに日本・韓国・中国を回る弾丸ツアーを決行しました。
経費は自費で、韓国と中国への渡航もビザなし。現地の知人に頼んでライブ会場で演奏させてもらったり、あるいは飛び込みで演奏させてもらったりと、今思えばかなり無謀なツアーでした。
先日、旅行中の日本人の女性が乱暴される事件が起きた韓国・ソウルの弘大(ホンデ)にあった「ブルーデビル」というライブハウスで問題が発生しました。この日のライブは、韓国でタレント活動をしていた知人が奔走してくれて実現したもの。
冒頭で英語の曲を何曲か演(や)ったものの、どうも反応がよくないので、日本語歌詞の曲を演奏することにしました。当時の韓国では(今も"暗黙の規制"は一部残っているようですが)、日本の音楽や映画を公の場で流すのはご法度。でも、僕らはパンクバンドですから、何かしら爪痕を残したい......。
そんな気持ちから勢いで演奏を始め、しばらくたった頃、ステージ脇の通訳の男性が「警察がこっちに向かってます!」と告げてきます。急遽(きゅうきょ)ライブを中断し、会場を後にした僕らは難を逃れたのですが、その後、手引きをしてくれた知人は署で事情を聞かれる事態になりました。
翌日、その知人タレントから「今夜、自分のラジオ番組に来てほしい」と頼まれ、僕は快諾しました。ところが、なんと番組は即席の"謝罪会見"に仕立てられていたのです。
僕はただ英語で「韓国が好きだ」と言うことしか許されず、あとは彼ともうひとりのパーソナリティが韓国語で、僕が言ってもいない謝罪の言葉を勝手に"通訳"するという放送でした。不届き者の外人パンクロッカーが日本語の歌を歌ってしまったが、こいつも今は反省している。そして韓国のことが好きだと言っている――といった具合に。
誤解しないでいただきたいのですが、こんな経験があっても、僕は韓国のことが嫌いではありません。当時の韓国は民主化宣言から約10年しかたっておらず、表現の自由が建前でしかなかったという事情もあります。
それでも、ツアーの2日目に怪しげなコンクリート打ちっぱなしのパンククラブでライブを行なった際には、10代中心の観客に英語で「いいか! おれのじいさんはな、韓国人だったんだよ!」と叫んだら、驚くほどノリノリで盛り上がってくれました(もちろんこれはジョークです)。
しかし、かといって韓流ファンのように手放しで韓国が好きなわけでもない。愛憎入り交じった複雑な感情があります。それ以前にも何度も足を運び、あの国の人と関わってきた実体験をもとに生まれた感情。
楽しいこともたくさんあったし、約束を反故(ほご)にされるなど、いやな思いをしたことも何度もある。だからこそ今、日本のメディアで韓国の"反日活動"が報じられても、僕は自分なりの解釈をもって「感じ取る」ことができる。これは財産だと思います。
メディアの断片的な情報だけで一喜一憂しても仕方ありません。韓国は極めて近い隣国なのですから、自分の目と耳で"一次ソース"に触れてください。そうして生まれる意見は有機的なものとなり、両極に振り切れることはなくなるでしょう。
●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『報道ランナー』(関西テレビ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!