『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、「アスペルガー症候群」という呼び名の是非について語る。

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9月に米ニューヨークで開かれた国連気候変動サミットでの"怒りのスピーチ"が話題となった16歳のスウェーデン人環境活動家、グレタ・トゥンベリさんは、自身が「アスペルガー症候群」であることを公言しています。

アスペルガー症候群は、広義の自閉症のうち知的障害を伴わないタイプで、対人関係が苦手、興味の対象が非常に限定的といった特徴がある一方、興味のある対象についてはすさまじい集中力や記憶力を発揮することもあるとされています。

グレタさんは、アスペルガーを「ひとつの才能であり私の誇り」と語っています。こうした考え方は近年かなり広がっており、関連書籍も多く出ていますし、歴史上の偉人や有名な経営者などについて「あの人たちもアスペルガーだ」と取り上げる類いのネット記事も少なくありません。

ところが、一方で最近ではこの「アスペルガー症候群」という呼び名の是非が議論になっています。

この呼び名の由来はオーストリア人小児科医のハンス・アスペルガー医師です。第2次世界大戦中のナチス統治下のオーストリアで、(今で言うところの)アスペルガー症候群の症例を世界で初めて報告したアスペルガー医師は、ナチスに入党せず、こうした障害を持つ子供たちを「特別な才能がある」と主張し彼らの命を救った......というのが通説でした。

1980年代にイギリスの精神科医ローナ・ウィング氏が、アスペルガー医師にちなんで「アスペルガー症候群」というタイトルで論文を発表し、自閉症の一類型として呼び名が定まったという経緯があります。

しかし近年、そのアスペルガー医師の経歴に疑いの目が向けられています。その内容は『アスペルガー医師とナチス 発達障害の一つの起源』(エディス・シェファー著、山田美明訳、光文社)に詳しく記されていますが、要するに「ナチスに抵抗した心ある医師」という評価は、戦後に本人が仕込んだ"アリバイ"が広まった結果であり、実際には彼はナチスの安楽死プログラムに積極的に協力した記録があるというのです。

一部の自閉スペクトラム症の子供を「彼らの集中力や記憶力は武器として使える」と"特殊サイボーグ"のように見立て、ほかの"役に立たない"子供たちの安楽死には協力した―これが真実なら、アスペルガー医師はナチスの残酷な優生学的施策の実行者だったことになる。

こうした疑いを受け、米精神医学会ではアスペルガー症候群という診断名を廃し、ほかの自閉性障害などと一緒に「ASD(自閉スペクトラム症)」に統一する動きが進んでいます。

すでに定着したアスペルガー症候群という呼び名(当事者たちが誇りを持って自身を"アスピー"と呼称しているケースもあります)をどう考えるかは難しい問題です。ただ、少なくともグレタさんがアスペルガー症候群かどうかということと、彼女の主張内容は切り離して冷静に見るべきでしょう。

彼女を支持する欧米のリベラルは「彼女がアスペルガーであること」を感動物語として扱う傾向が強く、逆に反対する人々は彼女を陰に陽に揶揄(やゆ)し、嫌悪感を示す。

双方に言えることですが、大事なのはそこではありません。いくら彼女自身のことを議論したところで、彼女が訴える環境問題の解決にはつながらないのですから。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『報道ランナー』(関西テレビ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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