『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、便利さと引き換えに人々が奪われたものについて問題提起する。

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ここ最近、Amazonなどの通販サイトや各種口コミサイトの不正レビュー問題がたびたび取り沙汰されています。こうした事例はあまりに一般化しすぎていて、しばしば「だまされる側にも問題がある、気をつけよう」といった自己責任論でやり過ごされる印象がありますが、本質的には消費者をだます側、そしてそれを放置する運営側に問題があることは強調しておくべきでしょう。

また、似たような話でいえば、Facebookは前回の米大統領選挙でおびただしい数のフェイクニュースを放置し、選挙結果に大きな影響を及ぼしたといわれます。しかし結局、今年の大統領選でも政治広告の掲載を容認し、運営側として厳密な事実確認も行なわないと明言しました。

便利さと引き換えに、われわれは多くのものを失っている――。これが最近の僕の大きな問題意識です。

カナダの活動家ナオミ・クラインはずっと以前から、グローバル企業が社会をゆがめ、人々からあらゆるものを搾取していると強く非難してきました。僕はこれまでその見解に一定の理解を示しつつも、やや現実離れした愚直すぎる正義論に完全に同意することはできませんでしたが、米トランプ政権の3年間を経て、少し感覚が変わりつつあります。

この3年間、アメリカでは独占的な新自由主義が野放図に展開され、一方で中国は独裁的な資本主義をより加速させました。両国の振る舞いに世界が振り回され、ポピュリズムの隆盛とデモクラシーの自壊が同時進行で起きています。

グローバリズムにより競争が激化しているのは間違いありませんが、では、大多数の一般の労働者たちはなんのために競争をしているのか?

世界のトップ数パーセントの"上澄み層"を支えながら、ささやかな、パンくずのようなごほうびを得るためだけに争うことを強いられているんじゃないか? やや過激な物言いになりますが、現代にはそんなディストピアが広がっているように思います。

それを止めるには、ただ怒りを表明するだけでなく、やはり自分から生き方を改めるしかありません。先進国の豊かさは途上国の安い労働力に支えられ、ファストフードやファストファッションは搾取の上に成り立つ。

AmazonもFacebookも人々の生活をある意味で豊かにしたけれど、その「ラクさ」に身を委ねた結果、購買意欲や投票行動さえコントロールされている。

しかし、超巨大企業を批判するだけでは、その「ラクさ」を裏からなぞっているも同然です。それよりもその原因を、われわれが自らの内に抱える怠惰さ、そしてその表れである現在のライフスタイルに見るべきでしょう。

「変化」を性急に求める環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの言動に対し、"大人"は「社会を変えるのは簡単ではない、若いから言えるのだ」と言います。それはそのとおりなのですが、もはやムリヤリにでも変わらない限り次のステップに進めないところまで来ているのも事実でしょう。ならば、まずは「変わる」ことを前提に議論をする必要があります。

このシステムに骨の髄までのみ込まれているという無力感も理解できますが、それこそが"麻薬"です。誰かに怒りを向ける前に、自分もまた弱者を生み出す構造の"共犯者"であることに気づくべきでしょう。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!!!

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