『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが新型コロナウイルスの源流にある格差社会について語る。
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日本社会は危機に直面したとき、権力者を叩く傾向がある――新型コロナウイルス禍でパニックに陥った日本に対し、そんな分析を寄せた海外メディアがありました。
確かに、福島第一原発事故では民主党政権と東京電力の対応に人々は怒りの矛先を向け、今回の騒動でも、自民党・安倍政権と厚生労働省はすさまじい罵声を浴びています。
もっとも、その後の世界各国へのウイルスの広がりに対する反応を見る限り、これは必ずしも日本に限った話ではありません。多かれ少なかれ、どの国の人々も"生贄(いけにえ)"を探すことでなんとか溜飲(りゅういん)を下げています。
大きな不安が身に降りかかったとき、誰もが「説明」を欲しがります。どうしてこんなことになったのか。誰に責任があるのか。えたいの知れない「WHY」に対する答えを聞かせてほしい――それが見つからない場合、しばしば人はとりあえず大きなものに石を投げるわけです。
ただ、その前に握った石を置いて、自分の手を見て考えてほしいと僕は思います。今、あなたを脅かしているのはウイルスかもしれないけれど、その奥に潜んでいる、「本当の恐怖」とはなんなのか?
新型コロナウイルスは、最初に感染者が広がった中国・武漢市の市場で売られていた野生動物が発生源ではないかとの説があります。
世界第2位の経済大国となっても、中国では地域によって野生動物を食用にしたり、漢方などに使用したりする文化がありますが、その野生動物の捕獲や販売をなりわいとする人々の多くは貧しい層でしょう。つまり感染拡大の源流には、格差社会の"下側"の生活があるわけです。
「格差がウイルスを発生させた」とまで断言することはできませんが、経済、医療、情報......といった格差が感染拡大の加速装置になってしまったこと、そしてその格差が問題の早期解決を難しくさせたことは明らかです。
この状況を野放しにしてきたのは誰か。それは一部の政治家だけでもなければ、大企業や大資本家だけでもない。豊かな先進国に住む人たち全員が、(自覚していたかどうかは別にして)資本主義にとって都合のいい独裁国を放置し、おいしい思いをしてきたのです。
人権が保障されないまま不当に安い賃金で働かされる人たち。生活のために働く工場が自然破壊を進め、公害や災害というしっぺ返しを食らってしまった人たち。その上に、われわれの生活は成り立っている。
世界全体がいびつな形のまま豊かになり、感染症はまるで格差の下層から逆流するかのように先進国へと広がったのです。
コロナ禍の影響で中国の多くの工場が操業を停止し、大気汚染物質の量が急激に低下したそうです。
逆に言えば、どれだけその汚染源を中国に押しつけていたのか。「汚染するな」と批判するのは簡単ですが、その工場で作られた「安くて便利なもの」は誰のためか。自分たちは豊かな社会の中で、格差がひどい、少子高齢化で将来は不安だ、などと悩んでいるけれど、世界の不幸に目を向けたことがどれだけあったか。
このような社会の仕組みを是正していくのは誰か。国や国連が決めてくれる――そうした"逃げ"が世界の格差を維持しています。じゃあ、自分は何ができるのか。それを考える契機が今なのかもしれません。
●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!