著名人や芸能人などの感染ニュースを見て、「ウイルスは差別をしない、平等だ」などと思ったら大間違い。残念ながら、新型コロナのリスクは格差社会の「下」へ行けば行くほどより高くなっているようだ......!

『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが語る。

■日々の生活そのものの感染リスクが高い人々

新型コロナウイルスの感染拡大が深刻なアメリカで、公的機関などによる「人種別の死亡数・率の傾向」が報じられ始めました。なかでも物議を醸しているのが、アフリカ系アメリカ人(黒人)の死者数が人口の割合に対して極端に多いという事実です。

例えば、米中西部イリノイ州シカゴでは人口に占める黒人の割合は約30%ですが、新型コロナによる死者では約70%。ウィスコンシン州のミルウォーキーでは、黒人の人口は全体の3分の1程度でありながら死者の80%超を占めています(共に4月上旬までのデータ)。

感染爆発を起こしたニューヨーク、デトロイトやニューオーリンズなどでもこの傾向は同様で、「感染者」の割合は白人に比べて少し高い程度なのですが、「死亡率」となると白人と黒人で極端に大きく差が開いているようです。

理由はひとつではないでしょうが、その根底に貧困や格差の問題があることは間違いありません。貧しいがゆえの生活習慣から来る慢性的な疾患――新型コロナの重症化リスク要素といわれる高血圧、喘息(ぜんそく)、糖尿病、心臓病などを抱える人の割合は、白人に比べて黒人のほうが高い。

しかし、低所得者が住むエリアは病院が少なく、日頃からまともな医療を受けられていないケースも多いといいます。

一方で、在宅ワークが可能な職業に就いている割合は白人に比べて低く、低賃金かつ外出禁止令下でも"生活に欠かせない仕事"として通常業務を続けざるをえないサービス業で働く人の割合が高い。

そしてマイカー保有率が低く公共交通機関を使うしかない、狭い居住空間に多世代で住まざるをえない......など、そもそも高い感染リスクにさらされた生活を送っているケースが多いのも特徴的です。

有名政治家や芸能人など著名人の感染や死亡のニュースを見るにつけ、新型コロナは「全人類に平等にリスクをばらまいている」ように錯覚してしまいがちですが、マクロで見ると、やはり歴然とした"命の選別"が存在する。つまり、社会的弱者のほうがより死に追いやられる可能性が高いということです。

■中心部と郊外で空気が真逆のスウェーデン

アメリカのみならず世界各地で厳しい都市封鎖や外出制限が行なわれるなか、ひときわ目を引く独自路線を取っている国が北欧のスウェーデンです。政府は国民に自粛を促してこそいるものの、何かを強制することもなく、あくまでも国民の自助努力や自制心を信用する。そんな政府を国民も信頼する。そんな構図でしょうか。

首都ストックホルムなどでは長い冬を終え、春の到来を喜ぶ市民たちがマスクをすることなく外出を自由に楽しんだそうです。街中では飲食店やカフェに加え、スポーツジムやバーなども営業しているところが少なくない。もちろん平時に比べれば"自粛モード"ではあるものの、世界中を覆う悲壮感や危機感のレベルとはまったく違います。

4月9日時点で同国の感染発覚者の死亡率は約8%と、近隣国であるノルウェー(2%)やデンマーク(4%)と比べても高い。それでも個人の自主性を重んじてそれぞれの社会生活を送ることを選択してきたのは、個々人が正しく恐れ、正しく行動しさえすれば、ウイルスに勝てると信じていたからでしょう。

感染拡大が進んだことで政府の方針が変わる可能性もありますが、「冷静に未知の感染症を包摂しよう」という明確な意思が感じられます。

ただし、そんな大人の国でさえ、格差による"命の選別"は存在します。米紙「ワシントン・ポスト」によれば、感染で多数の死者が出ているストックホルム郊外のヒュースビー地区では、市中心部の牧歌的な雰囲気とはまったく違い、通りには誰もおらず、人々は屋内で最大限の警戒をしながら暮らしているそうです。

同地区に多く暮らしている中東などからの移民や難民は、英語は少し話せたとしてもスウェーデン語はほとんど理解できません。そのため情報をきちんと取得することもできず、構造的に社会の底辺に閉じ込められており、生まれながらにして「貧しさを押しつけられてきた」という言い方も間違いではないでしょう。

そんなエリアで多数の死者が出ている――それもまたスウェーデン社会の一面です。豊かな層は、自助努力や自己責任のなかで自由を謳歌(おうか)できているけれど、社会の底辺では貧しさゆえに高いリスクを負わされた人々が、「自由」の名の下に放置されているような状況もあるわけです。

アメリカであれ、スウェーデンであれ、新型コロナには世界各国の暗部をこじ開け、むき出しにするという"副作用"があるのかもしれません。それはもちろん日本に関しても同じです。

日本では夜の繁華街、とりわけ公式発表でいうところの「接待を伴う飲食店」での感染例が目立っています。そこで働く人たちのうちごく一部は、メディアに登場したりSNSで人気を博したりといった成功者かもしれませんが、おそらく多数は社会的・経済的弱者(そこで働く以外に選択肢があまりない)。働きに出れば感染リスクが高く、休めば収入が絶たれるという方がほとんどでしょう。

そして、これから新型コロナの影響による経済不況の到来が予想されますが、往々にしてその不況はそういう人々の生活から締めつけていく。続いてパート、フリーランス、非正規雇用......。

海外でマイノリティや移民にツケが回されているように、日本ではこうした形で"選別"がなされることは避けられそうにありません。政治家はもちろん、一般人であっても今、その厳しい現実から目をそらすべきではないと僕は思います。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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