『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、日本社会にも潜む"ステルス人種差別"について語る。

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Black Lives Matter(BLM)運動が世界的な広がりを見せるなか、米医薬品大手のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が、アジアや中東などで肌を白くさせるために使用される「美白化粧品」の一部の販売を中止すると決定しました。

このニュースに対し、日本では「欧米社会で起きた問題を理由に、アジア人の美白に対する価値観まで否定するのは行きすぎだ」といった声も上がっています。

歴史的経緯を振り返れば、アジアや中東、アフリカの多くの社会では、欧米列強による植民地化が進んだ時代以降、露骨な"白人崇拝"が存在してきたといえます。

肌の白さは身分や貧富の差を示す――グローバルに展開する化粧品メーカーはその風潮を理解し、「美白」のマーケティング戦略を立てた。つまり「肌の白さ」を売るのも、消費者がそこに価値を見いだすのも、差別の上に成り立っているという実態があります。

こう書くと、さまざまな反論が飛んできそうです。それはインドや中東だけの話だ。平安時代から続く「日本古来の美白の価値観」には差別意識など内包されていない。そもそも日本には露骨な人種差別がないのに、BLM運動に伴う面倒な議論を勝手に持ち込むな......など。

確かに欧米社会には、人権の理想とは程遠い人種差別が今も存在しています。僕自身の経験を振り返っても、アメリカで育った少年時代は「アジア人」と見なされ、学校を牛耳る白人からも、自らも強烈な差別を受けている黒人からも、攻撃された経験があります。

ただし、それと比較して日本を「差別のない社会」だということはできません。日本にも人種差別や民族差別は厳然として存在し、その特徴は欧米の露骨な差別とは逆の"ステルス性"にあります。差別が言語化されず、それを議論することがタブーとされ、多くの人が黙ってシャッターを下ろす――在日朝鮮人の問題などは典型的な例ですね。

そして、日本社会にも「白人崇拝」はあります。誰もが口では「差別はいけない」と言うし、それを守っているつもりだけれど、心のどこかに「有色人種より白人のほうが上」だと刷り込まれている。

例えばハーフモデルという存在を考えても、最近では黒人ハーフやアジア系ハーフのモデルも確かに活躍していますが、人数では圧倒的に白人ハーフが多い。こうした白人ハーフを見て「やっぱりハーフはきれいだよね」と無邪気に言う人々の心に、果たして差別心はないと言い切れるでしょうか。

なぜ白い肌やヨーロピアンな顔立ちがより美しいとされるのか――そんな疑問を意識することすらないほど、白人崇拝が無意識の領域に"沈着"しているのではないでしょうか。

やや過激な言い方をすれば、これは"隠れた白人至上主義"ともいうべき社会の病巣の一種です。今後、日本が国際社会の一員として、本当の意味で多様化を進めるなら、このことについてきちんと議論し、是正する必要があるでしょう。

BLMをめぐる議論もそうですが、日本社会は「厄介な議論を持ち込むな」と、さまざまなことから目を背けてきました。これから必要なのは、自分に変化を迫るものを突っぱねるのではなく、向き合っていくという姿勢ではないでしょうか。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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