『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、新型コロナウイルスにまつわる陰謀論について語る。

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あの世界的アーティスト、マドンナが1500万人以上のフォロワーを抱えるインスタグラムで新型コロナのワクチンに関する陰謀論を拡散し、運営側から警告を受けて投稿が削除されるという事件がありました。

問題の投稿で、彼女は「COVID-19の治療薬の効果はすでに証明されているが、ワクチン研究が長引くほど得をする実力者が邪魔している」などとコメント。共に添付されたのは、「多くの病気の原因は、夢の中で悪魔と性交し"悪魔の精液"が体内に広がることだ」といったトンデモ論を主張している医師の演説動画でした。はっきり言えば、相当ヤバい人のヤバい主張を、世界的な著名人が拡散したという事例です。

マドンナに限らず、最近は世界的なF1レーサーやアーティストらが反科学的な発信を連発し、多くの一般人は科学者の難解な見解よりも著名人の"言い切り"になびいています。

最も有名なのは、「ビル・ゲイツがワクチン開発に積極的なのは、人体にマイクロチップを埋め込み世界中を監視したいから」という陰謀論。そんな話を信じる人がいるのか......と思われるかもしれませんが、アメリカではかなり広がっています。

これはアメリカ人が"情弱"というわけではなく、不安定化した社会ではどこでも起こりえることです。3・11直後の日本でも、どれだけの放射能デマや原発デマが流れ、それが支持されたか。今後、日本でもコロナの死者数が激増すれば、陰謀論に傾倒する人も続出するでしょう。

ところで、僕は"陰謀に対する抗体"をそれなりに保有していると自負しています。なぜなら、若い頃にそちらの世界にどっぷり漬かった経験があるからです。

特にハーバード大学時代は3年ほど休学し、東洋哲学からスピリチュアルに至るまで精神世界の書籍を読みあさり、新興教団の支部長やフリーランスの教祖、霊能者らを歴訪して対話を重ねました。

大学で物理の基礎を学んでいたにもかかわらず、いや学んでいたからこそ、「この世界は電気、磁力、引力など"見えない秩序"に動かされている」という考え方を検証するうちにオカルトに至ったのです。詳しくは別の機会に述べますが、科学的な検証のプロセスと並行するような論理展開で"神秘"を組み立てることは可能です。

とはいえ、「科学のメソッドで非科学をやる」という僕独自の方法論から、スピリチュアルの世界にはさまざまな矛盾が見えてきました。僕は「奇跡が起きた」という主張をムリヤリのみ込もうとはせず、「奇跡を否定する絶対的な法則はない」を出発点にハーバードで叩き込まれたディベートのスタイルを持ち込み、"教祖"たちに多くの疑問をぶつけました。

その結果、"面倒な信者"として最終的には各所で出禁を食らったわけですが、その過程で僕としても徐々に、「誰も本当のことを言っていない」ことに気づいたのです。

このように僕はたまたまストリート仕込みの"抗体"を持っていますが、不安な状況下では多くの人が陰謀論にすがりたくなるというのもよくわかります。この問題に特効薬はなく、結局は個々人が不安と向き合うしかない。「誰かが救ってくれる」「正解を教えてくれる」などと思っていたら、その心の隙間を狙ってデマや陰謀論が入り込んできますよ。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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