『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが注目を集めるオンラインサロンについて語る。

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つい先日、米『ニューヨーク・タイムズ』に社会学者のマイケル・ゴールドハーバー氏のインタビュー記事が掲載されたことが話題になりました。

彼は早くから、将来的にインターネットが民主主義を脅かす可能性を予言し、「attention economy(アテンション・エコノミー)=注目の経済」という概念を1997年に発表しています。

ネットが発達し社会が情報過多に陥っても、人間の「attention(注目・関心)」は有限であり、そのギャップによって「attention」は希少性の高いリソースとして経済的な価値を帯びる。

多くの注目を集めるスターと無名の人の"格差"はあらゆる領域で広がり、それは次第に権力をもたらす。すると、成功者はその権力を必ずしもポジティブな目的で駆使するとは限らなくなる―といった内容です。

今の世の中を見渡してみると、この予言は少なからず的中しています。ゴールドハーバー氏が今回のインタビューで「outrage(アウトレイジ/憤り)の増幅を得意とするSNSのプラットフォームが社会を歪(ゆが)めている」と指摘するとおり、例えば陰謀論の広がりも、attentionを集められる成功者と支持者たちとの"憤りを軸にした共犯関係"がもたらしたといえるでしょう。

attentionを"元手"に勢いづくのは政治運動ばかりではありません。例えば、新型コロナ禍でコミュニケーションがネットに依存するなか、盛り上がりを見せる「オンラインサロン」はその典型かもしれません。言論人や経営者が"信者"を囲い込むビジネスは昔からありましたが、最近は芸能人やアスリートもこぞってサロンを開設しています。

ここからは僕自身の大学時代の経験談です。僕は当時、心酔していたビート詩人、前衛芸術家、神秘家に次々と"弟子入り"をし、積極的に彼らの思想、行動パターン、果ては言い回しのクセまで模倣し、自ら"同化"していきました。

外野から「ちょっと変だよ」と価値観を否定されると、むしろ信念は強化され、「平凡な人に否定されている」という実感がさらなる優越感をもたらしたことを覚えています。今思えば、その時点で僕は"カルト的な世界"に足を踏み入れかけていました(溺れる前になんとか戻ってこられましたが)。

もちろん単純な同一視はできませんが、現代のサロンビジネスと、当時の僕が没入したような思想グループにはいくつかの共通点が見いだせます。主宰者と会員の間に妙な"熱い絆(きずな)"が存在する。

会員同士が主宰者への憧れや忠誠心を競い合う。「自由意思でのびのびと自分を解放できる空間」という共有幻想とは裏腹に、実際は主宰側が金銭や労働力を巻き上げるスキームである。コミュニティ内でセクハラ、パワハラ、中傷、金銭の略取といった不祥事が起きても、対処のガイドラインがはっきりと設置されていない......。

現在注目されている「Clubhouse(クラブハウス)」にしても、同意見の仲間が認識を増幅させ合う"エコーチェンバー"的な構造にオンラインサロンが飛びつかないはずはありません。

僕自身、仕事で期間限定のサロンに名を連ねています。今はまだ多くがファンクラブ然とした無邪気な存在かもしれません。が、いずれいくつかのサロンが"カルト的"になっていくための「具材」がすでにエンベッドされているように思えてなりません。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中。

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