『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが日本の「ワクチン嫌い」について語る。

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日本でも新型コロナのワクチン接種が始まりました。開発から臨床実験、承認までの異例の速さや、散発的に出てくる副反応に関する報道などに"なんとなくの不安"を覚え、「できれば接種せずに済ませたい」と考えている方もいるかもしれません。

「反ワクチン(anti-vaccination)」の歴史は古く、宗教的な立場から接種に反対する思想の歴史は18世紀にさかのぼります。また、近年はもう少しマイルドな「ワクチン忌避(vaccine hesitancy)」と呼ばれる傾向が世界中で問題視されています。

昨年9月、医学誌『ランセット』電子版に掲載された情報によれば、世界149ヵ国を対象にワクチンに対する信頼度を調査した結果、「ワクチンが安全」と答えた人の割合が少なかった3ヵ国はモンゴル、フランス、そして日本でした。

しかも日本は、ワクチンの有効性を疑う人の割合も非常に多い。欧米のように過激な反ワクチン運動は目立っていませんが、「潜在的ワクチン忌避層」とでも呼ぶべき人々が多いのではないかという推測も成り立ちます。

もうひとつ気になるのが、基本的に海外で流行する陰謀論を冷ややかに見る人が多い印象がある日本で、なぜか昨年の米大統領選挙の際に「Qアノン」が一部の人々に相当深く染み込んだことです。Qアノンの"感染経路"が明らかでないなか、ワクチン接種に関する誤情報や、副反応の話題へのアツい反応を見るにつけ、個人的には危機感を覚えています。

現在、欧米で展開されている反ワクチン運動は、ソーシャルメディア上でQアノンの巨大な陰謀論と結びつき、より問題が複雑になりつつあるのですから(例えばアメリカでは、ナチュラリストだった人が反ワクチン陰謀論に染まり、そこからQアノンにまで転げ落ちるといった事例があります)。

日本では同調圧力がコロナ感染拡大を抑えてきたとの見方もありますが、そんな空気でも飲み歩かない、会食を控えるといった"世間のルール"から逸脱する人が一定数いることの背景には、「そんなもの守ったところで自分にはメリットがない」「社会からなんの分け前ももらえない」といった意識の広がりもあるでしょう。

そうした"暗黙の社会契約"が今後ますますもろくなっていくなら、「ワクチンで集団免疫を」という考えに積極的になれない層が増えてきてもおかしくありません。

自身の感情、それも賛否が分かれるような事象に関する感情を肯定してくれるような情報には、「何かおかしいかも」とうっすら感じていても飛びつきたくなる。デマや偏見や差別は、そうやって社会に浸透していきます。

「潜在的ワクチン忌避層」もまた、接種はなんとなくイヤだという感情を後押ししてくれる情報なら、真偽が不確かでも同意(いいね)をしてしまうかもしれません。

政府や科学者が正しい数字や確率を論理的に導き、安全性や有効性を説いたところで、ワクチンを忌避しているすべての人を納得させることは難しい。説得のためには、科学的な厳密さとは別の"温かみのあるコミュニケーション"が不可欠ではないかと思います。

しかし、科学リテラシーの高い人ほど、そういうコミュニケーションが苦手なことが多いのもまた事実。こうした懸念が杞憂(きゆう)に終わることを祈っています。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中。

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