『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、九州電力の不当行為を批判する。
(この記事は、3月15日発売の『週刊プレイボーイ13号』に掲載されたものです)
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宮崎県延岡市と九州電力が激しいバトルを演じている。
延岡市の読谷山(よみやま)洋司市長が市100%出資の新電力設立の構想を打ち出したのは今から3年前のこと。安価な電気を供給して市民生活を支援するのと同時に、その収益を新たな市の財源にしようという一石二鳥の計画だ。地球温暖化対策にも貢献できる。
ところが、事業計画を策定し、これから必要な予算案を市議会に提出しようという段になって、突然、九電が「新会社は赤字経営になる」と市議会や関連団体などに触れ回り、新電力構想を妨害する動きに出たという。
これに読谷山市長が激怒、電力システム改革の柱である「小売全面自由化を妨害し、かつ地方自治を侵害する行為である」と抗議声明を出すとともに、今年2月24日付で監督官庁の資源エネルギー庁長官と規制緩和を進める河野太郎規制改革相に通報して調査を要請した。
延岡市の説明によれば、九電が新電力の巨額赤字の根拠としたのは容量市場の動向だったという。容量市場は昨年新設された電力関連の市場である。発電所の維持には巨額の固定費がかかる。
もし、その固定費を発電会社が賄えないと必要な発電所が維持できず、電力の安定供給ができなくなる。そこで、電力小売業者に発電所維持のための応分のコストを負担してもらうため、日々の必要な電力を売買する卸電力市場とは別に、4年後の発電能力を売買する容量市場が設立された。
電力小売会社は販売シェアに応じて分担金支払いを強制され、その資金は国の窓口機関を通じて発電会社に分配される。
しかし、昨秋にあった容量市場の初取引でついた約定価格は1kW当たり1万4137円と、発電所の維持に必要とされる9425円を大幅に超える高値になった。自前の発電所を持たない新電力の多くは巨額の拠出金支払いのために赤字転落必至。倒産や廃業につながる懸念がある。
延岡市によれば、九電は中国地方で赤字に陥った新電力の財務データを入手。これを利用して、延岡市の新電力も「巨額赤字の計上は必至」と議員などに説明しているとされる。
だが、延岡市のホームページにアップされた九電への抗議文でも指摘されているように、新電力はまだ設立されておらず、その供給構造の詳細も定まっていない。
なのに、容量市場の取引で赤字となった中国地方の新電力とたまたま経営形態が似ているというだけで、設立されてもいない延岡市の新電力も赤字になると主張するのはあまりに乱暴だ。原発維持を図る九電が、自治体経営の新電力構想を嫌って、これを潰しにかかったと疑われても仕方がない。
心配なのは、こうした大手電力による新電力イジメの拡大だ。巨大発電所を所有する大手電力が、昨年のように容量市場で約定価格を高値誘導すれば、合法的に新電力潰しができる。
以前に本コラムで指摘したとおり、容量市場は自然エネルギー推進の大きな障害だ。大手電力が発電と小売りを行なう体制も廃止が必要である。このままでは、自然エネルギーの拡大はできず、菅総理が掲げる「2050年カーボンゼロ」政策のためには原発しかないというとんでもない結論になってしまう。
河野大臣は、自ら進めている容量市場の見直しを急ぐとともに、大手電力の不当行為について厳正な調査を行なうべきだ。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。