『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、"日本版"週休3日制の問題点について語る。

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日本でも「選択的週休3日制」導入の検討議論が始まりました。政府は、1日休みが増えれば子育てや介護などがしやすくなる、もしくは空いた1日でボランティア活動や兼業的な仕事にも就けるなど、「多様な働き方」を推進できるとしています。

しかしながら、政府が考えているのはどうやら「1日分給与が減る」という話のようです。これは、企業からすれば体のいい"部分的レイオフ"。いま社員として働いている人の多くは、結局は副業を探して「休日」にも働くことになるでしょう。多様な働き方という美辞麗句は、ひも解いてみれば要は「みんなでギグワーカーになろう」という話になりかねません。

しかも、これまで企業に所属していた人はシビアなギャラ交渉をする習慣や覚悟がないので、フリーランスより安く仕事を請け負ってしまうと思います。そうなると、さまざまな立場の働き手の間で、熾烈(しれつ)な過当競争が繰り広げられる。そんな地獄絵図も想像できてしまいます。

ニュージーランドやスペインではすでに試験的に週休3日制が導入されており、スペインの実験プログラムでは、1日休暇が増えたことで従業員の生産性は上がり、企業の利益も増えたといいます。

また、余暇が増えたことで男性が家事を行なったり、通勤分の交通量が減ってガソリン、電気、紙の消費量など環境負荷が低減したり、ファストフードの摂取量が減ったり、うつ病などのメンタルヘルスや生活習慣病が改善したり......という研究報告もあったそうです。

ここで注目すべきは、スペインのモデルでは給与が「据え置き」だということ。これらのメリットは、収入が変わらず、休みだけが増えたことで生じているわけです。

興味深いのは、この実験プログラムを提案したスペインの左派政党マス・パイスに所属する政治学者イニゴ・エレホン氏の「なぜいまさら中国と競争をしなければいけないのか?」という根源的な指摘です。

あらゆる"作業"を機械が代替できるようになれば、給与は据え置きのまま休暇が増え、従業員はアイデアなど「人間の仕事」に集中できるはずだった。ところが、資本主義国はそちらに向かわず、人件費の安い独裁国へと雇用を流出させ、機械化と組み合わせることで支出を極限まで抑え、利益を拡張した。

これは資本主義の当然の帰結ではあるが、中国のような国と同じ土俵で競争することには持続可能性がなく、中長期的に見れば行き詰まることは自明だ―

この指摘を踏まえるなら、週休3日制を実装するのであれば、現在の社会構造、企業の利益構造そのものに疑いの目を向けるような視点を持つべきでしょう。

1日休みを増やすから、給与が減る分は別の仕事で稼ぎつつ、子育ても介護も「自助」で頑張れ――。そんな思惑が透けて見える日本版・選択的週休3日制は、むしろ現状の構造を変えたくない人、破綻(はたん)寸前の社会保障システムを"延命"させて逃げ切りたい既得権益層にとって、極めて都合のいいロジックです。

そもそも現状維持を是として生産性の向上や富の再分配に手をつけず、格差拡大の元凶となった人々がさらなる自助努力を促すというのは、たちの悪いジョークにしか思えません。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。NHK大河ドラマ『青天を衝け』にマシュー・ペリー役で出演し大きな話題に。

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