『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが世界の教育コンテンツについて語る。

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実は今、猛烈な勢いで数学を学び直しています。この夏に東京藝術大学の音楽プログラミングの短期講習にゲスト講師として招かれることになり、その下準備として「Max」というプログラミング言語を復習していたところ、深い理解のためには基礎となる数学の知識が必要だということにあらためて気づいたのです。

高校の数ⅡB(微分・積分など)から始めて、Maxの中核をなす「高速フーリエ変換」の理論を自分なりに理解するところまで至りました。

学び直しの際に利用したのは海外の教育コンテンツで、これが本当によくできている。なかでも、世界中で子供向けの教育コンテンツを無料提供している「KahnAcademy(カーン・アカデミー)」から分派して2012年に誕生した「Brilliant(ブリリアント)」というサービスは秀逸で、Kahn Academyでは満足できないレベルの人向けに、数学や科学、工学を専門的に教えてくれます。

僕が感動を覚えたのは、高速フーリエ変換のベースとなる「フーリエ解析」の解説です。実際の動画を見ていただくのが早いのですが(というより言葉で説明しても伝わりません)、概念を視覚的に理解させるべく動画が作り込まれていて、スッと頭に入ってこない部分も繰り返し見ることで「とらえられる」ようになっている。

40年前にこんな"教材"があったら、僕は大学在学中に数学から逃げ出すことはなかったでしょう。当時の自分を「おまえが悪いんじゃなく、教え方が悪いだけだぞ」と慰めてあげたいです(笑)。

その一方で、インターネット上には日本語限定の教育コンテンツもたくさんありますが、それらの多くがあまりにもアップデートされていないことに愕然(がくぜん)とします。だって、微分の説明に方眼紙を使っているんですよ。2020年代に方眼紙! それに、数学用語の日本語訳や漢字の当て方も前時代的で、こちらも理解の妨げになっていると感じます。

質の高い教育コンテンツをキャッチアップして、その軌道に乗っていける能力がある人は、どんどん知的レベルを上げていくことができる時代です。Kahn Academyの登場で示されたのは、世界中どこにいても、ネットにアクセスできる環境さえあれば、そして簡単な英語ができさえすれば、多くの子供たちが教育格差を乗り越えられるというグローバル規模の「教育の民主化」の現実でした。

こうした「民主化」はあらゆる分野で同時多発的に起こっています。例えば音楽では、体系的な音楽教育を経由しなくても音楽理論は学べるし、音楽理論を知らなくても、そして楽器が演奏できなくても音楽を制作できるようになりました。

それによって、ストリートレベルでものすごい才能が花を咲かせています。ダンスもしかり。YouTubeやTikTokのダンス動画が、世界中の子供たちを覚醒させ、才能がストリートから掘り起こされています。

自身が育ってきた環境のせいもあって興味や潜在能力を磨ききれず、「こんなはずじゃなかった」「あのとき勉強しておけば」と、くすぶったまま大人になった人はたくさんいると思います。しかし、その気にさえなれば、いくつになっても能力を引き出すことができる環境は手の届くところにある時代です。僕自身が今、そのことを痛感しています。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。NHK大河ドラマ『青天を衝け』にマシュー・ペリー役で出演し大きな話題に!

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