『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが「取捨選択の主導権」を取り戻すことの重要性について語る。

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ずいぶんと"いらないもの"に囲まれていたのだなと実感する日々です。もともとここ数年、世界的な議論の高まりとともに個人的な思いもあって、環境破壊や人権侵害、南北格差を助長するような商品・サービスを可能な範囲で避けていました。

それに加えコロナ禍でライフスタイルが大きく変わった結果、ファストフードやアルコールなどかつては"生活必需品"だったものに対して、ただ目の前に差し出されたものに反射的に手を出していただけだったのだ、という感覚を持つに至りました。

ネットに接続すれば、グローバルIT企業が個人のあらゆる情報をトラッキングし、ビッグデータとのかけ合わせで精度の高いターゲット広告を送ってくる。一方、テレビをつければ旧来型の広告マーケティングが押し寄せてくる。

まるでふたりの皇帝からむちゃな要求をされて年貢を収め続けるオーストリア=ハンガリー二重帝国の民衆のように、「ほら、欲しいものはこれだぞ」と自身の欲望をかき乱され、"消費の奴隷"となってしまうのが現代社会です。

そこには、常に膨満感のような「欲求を埋め続けている感覚」があります。ただ、もしかするとそれは自分の意思ではなく、無理やり押し込まれた末の膨満感かもしれません。

僕の場合、その膨満感を取り除いてみたら生活に大きなスペースが生まれました。豊かな退屈とでもいうべき自分のための時間が存在することで、こんなにもできることがあるのかと実感しています。

空いた時間の大半はほぼ自動的にNetflixの視聴に充てていた時期もあり、それはそれで充実を感じていましたが、先週お伝えしたとおり、今は数学の勉強に熱を入れ、まったく種類の違う満足感を得ています。それはおそらく、自分の行動マニュアルを自身の手で作る主導権を取り戻したという感覚からくるものです。

アルコールや「飲みに行く」という行為に関しても同様です。コロナが明けたらまた思いきり外で飲みたいという声もよく聞きますし、もちろんその価値観を否定するわけではありませんが、僕自身はおそらくもうその気持ちに戻ることはありません。

今までの当たり前が当たり前ではない環境に置かれた結果、回帰を望む人もいれば、大きく変わった人もいるということです。行動変容は強制で、意識変容はオプション。そう言ってもいいでしょうか。

これは日本だけでなく、例えば飲酒大国のオーストラリアでもノンアルコール飲料の市場が急拡大しているようです。こうして個々人が自分の消費行動と向き合うようになると、例えば「社交は好きだけど、お酒はマストじゃない」といった具合に取捨選択のフィルターがより細かくなるわけですから、一般論として「マスマーケティング×薄利多売」的なビジネスは以前より成立しづらくなるでしょう。

モノも時間も情報も、その取捨選択の主導権を取り戻すことは重要だと身をもって感じています。それは単に消費者として厳しくなるだけでなく、フェイスブックのユーザーデータから流出した情報がターゲット広告に使われ、トランプ前大統領の当選に影響したといわれるケンブリッジ・アナリティカ事件のような政治扇動からも距離を置くための手助けとなるはずです。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。NHK大河ドラマ『青天を衝け』にマシュー・ペリー役で出演し大きな話題に!

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