『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが「小山田問題」について語る。

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学生時代、障害者に対して行なった虐待をまるで武勇伝のように雑誌のインタビューで2回も語り、それについて反省や謝罪を(今回炎上するまで)公に示してこなかった人の楽曲が、オリンピック・パラリンピックの開会式で使われるのはまともなことかどうか。

そうした思いから、僕は小山田(おやまだ)圭吾氏の問題を英語による連続ツイートという形で発信しました。演出担当だった小林賢太郎氏の"ホロコーストいじり"問題もしかりですが、「サブカルの内輪受けだった」「悪気はなく、"露悪"という芸風だった」といった日本国内向けの言い訳は、国際社会ではまったく通じません。その甘えを手放せないのなら、世界に向けて発信する仕事は辞退するべきでしょう。

小山田氏の開会式への参画が発表された直後から、ネットでは件(くだん)のインタビューの内容が拡散されましたが、大会組織委員会、日本政府、電通といった開催側は解任などの処分に積極的ではなく、ずるずると日数を重ねました。

この「昔のことは水に流そう」「形だけ謝罪すればなんとかなる」という旧態依然としたあり方を放置しておけば、「あらゆる差別を禁じた五輪憲章を踏みにじっても、権力者たちは五輪の利権を堂々と手にできる」ことになってしまう。それがまかり通る国に五輪を開催する資格はありません。

ところが、五輪の当事者になってしまっている日本の主要メディアは、当初明らかに反応が鈍かった。一部の夕刊紙などを除けば、インタビューのエグい部分には触れず、距離感を保って第三者的に報じるだけでした。だから僕はあえて英語での発信に踏み切ったのです。

といっても感情に訴えて扇動するのではなく、文化的・社会的背景なども咀嚼(そしゃく)しつつ、事実関係を淡々と並べることに気をつけました。すると、さまざまな英語のスキルレベルを持った人たちが自分の言葉を添えて、そのメッセージを拡散しました。

それがどの程度影響したかはわかりませんが、ほどなくして英デイリー・テレグラフやガーディアンなどが、問題の小山田氏のインタビュー内容を「虐待」という言葉と共に報じました。

そして、五輪の放映権を持つ米NBCまでもがこの問題を詳細に報じたことが引き金となって、日本でも官房長官による問題への言及、有力スポンサー企業役員の開会式欠席表明といった動きが広がり、ようやく大手メディアも「騒動を報じる」という形で扱いを大きくしていった印象です。

今後は雄弁なバイリンガルがますます前に出てくることで、日本の権力やメディアの構造にあぐらをかいて既得権を独占してきた人々の地位は草の根から突き崩されるでしょう。それが国際化ということです。

しかし、これは使い方次第で"危険な武器"にもなりえる。小山田氏への批判をすべて「ネットリンチ」とまとめてしまうのは雑すぎますが、ネット上で憤りが拡散し、群集心理で他罰感情が暴走するリスクは十分に意識しなくてはなりません。

また反対に、こうした動きに違和感を覚え、「昭和の価値観」を懐かしむ人々を扇動するような発信力のあるバイリンガルが登場する可能性もある。今回、ひとりの当事者となった自分への戒めも込めて、そういったことをぐるぐると考える日々です。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。NHK大河ドラマ『青天を衝け』にマシュー・ペリー役で出演し大きな話題に!

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