『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、現代のディズニー作品に感じる"強烈な変化の予兆"とはーー?

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アメリカ発のエンタメ作品において、ダイバーシティ、ジェンダーイコーリティが急速に進んでいます。

例えば、今年のエミー賞で23部門にノミネート、複数部門で受賞した配信ドラマ『ワンダヴィジョン』。

人間と人造人間が結婚し、郊外の街で新生活を始めるというまったく新しいカップル像を描いたマーベル関連作品ですが、その多様性への意志はスタッフィングにも及んでおり、脚本家8人のうち4人が女性。制作現場にもさまざまなバックグラウンド、多様な視点を持つスタッフが意図的に採用されたといいます。

また、最近の『スター・ウォーズ』シリーズのスピンオフ作品でも、こうした傾向は顕著です。そこで描かれる女性像は、とにかく戦闘能力が高く、知能も優れ、冒険心にあふれている。

生きるか死ぬかの場面でも、男性のヒーローに守られる立場ではなく、自己決定権を持ち、自らの腕力と技術と知力で勝ち抜く。スター・ウォーズ初の実写ドラマシリーズ『マンダロリアン』に登場する女性戦士などが象徴的です。

ちなみにマーベルやスター・ウォーズは現在、ディズニーの傘下にあり、『ワンダヴィジョン』も『マンダロリアン』も「ディズニー+」で配信されています。時代に合わせて作品に多様性を盛り込むというディズニーの宣言はダテではないどころか、実際の作品は時代のずっと先を行っているといっていいでしょう。

女性は可憐(かれん)でか弱く、どんなおてんばな女の子も年頃になれば"白馬に乗ったすてきな王子様"に憧れ、恋をする――このあたりが、以前のディズニーの典型的な女性像です。

しかし、今のディズニーが描く女性は王子様を待たず、自ら白馬を駆り、武器を持ってならず者相手に戦う。むしろ自身が粗暴なならず者であることも珍しくない。かつてハリウッドで長年、「理想的な男女像」を築いてきたディズニーが、自らの手でそれを解体しているのは実に興味深いことです。

また、「正義」に対する考え方にも大きな変化があります。かつての"アメリカン・ジャスティス"のような絶対的正義はもはや存在せず、最近のディズニー作品ではさまざまな立場からの正義が描かれている。

しかも、そこにはしばしば難民の視点、先住民などマイノリティの視点、気候変動に関する最新の知見など、実際の社会問題が脚本に落とし込まれ、それを解決するために戦う人の姿が描かれているのです。

これは言い方を変えれば、子供に対して世界で最も大きな影響を与える企業のひとつであるディズニーが、近年はその力を使って「世界を変えていく」ことを明らかに目指しているということでもあります。

おそらく今のディズニー作品を見て育つ子供たちは、上の世代とはまったく違うジェンダー観や正義観を持つでしょうし、複雑すぎる問題を解決することをあきらめて内向きになる大人たちとは違い、自分たちから変えていくという意識をより強く持つのではないでしょうか。

そんな世代がつくり上げていく新しい社会は、その価値観に適合できない大人(とりわけ男性)にとっては極めて居心地が悪いかもしれません。それほど強烈な変化の予兆が、子供向け、大人向け問わず最近のディズニー作品からは漂っています。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。NHK大河ドラマ『青天を衝け』にマシュー・ペリー役で出演し大きな話題に!

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