『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、白人ラッパー・エミネムのパフォーマンスについて語る。

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全米で毎年1億人以上が視聴するNFLのスーパーボウルのハーフタイムショーに出演した白人ラッパーのエミネムが、白人と黒人の融合という強いメッセージをパフォーマンスで発信しました。僕個人の思い出も交えながら、このことが持つ意味を少し掘り下げてみます。

僕は最近、1970~80年代に流行したディスコミュージックを音楽的に解析することにハマっています。奴隷制時代の黒人音楽を源流にしつつ、中南米の音楽も包含する豊かなリズム、複雑なシンコペーションを含むベースライン、あふれんばかりのアイデア。めちゃくちゃすごい。打ちのめされます。

そのルーツはモータウンの遺伝子を受け継ぎ、70年代初頭にフィラデルフィアで生まれた"フィリー・ソウル"にあるといわれます。50~60年代に黒人音楽が隆盛した自動車産業の街デトロイトや工業都市シカゴと同様、フィラデルフィアも工業が栄えたことで黒人人口が増え、コミュニティができ、そこからフィリー・ソウルが生まれた。それが後のディスコミュージックにつながり、白人社会でも大ヒット――というのが大まかな流れです。

ディスコ以前の時代、エンターテインメント業界では"白人のための作品"をつくる才能のある黒人だけがもてはやされ、彼らがいくら地位を築いても黒人社会全体に恩恵は及びませんでした。

しかし70年代に入ると、ディスコカルチャーが本格的に黒人文化と白人文化の垣根を壊し始めます。当初はかつての"ブラックパワー"を受け継ぐメッセージ性が見られましたが、白人マーケットでのヒットとともに豹変し、政治闘争ではなく享楽こそが多様性を推し進める最大のエンジンになっていったのです。

個人的にも、僕が通っていた高校は週に1回、体育館がディスコとして開放されていたので、出会いの場という意味も含めて熱心に通った記憶があります。またディスコには同性愛者、女性などマイノリティにも光を当てようという文脈があり、白人社会にセクシュアリティやジェンダー、フェミニズムといった波がぐいぐい押し寄せていました。

しかし、僕が大学生になった頃にはムードが変わり、白人社会に"反ディスコ運動(Disco Sucks[ディスコ・サックス])"なるトレンドが起きます。パンクやニューウェーブの出現など流行に代謝が起きていた側面もありますが、それだけでなく暗に白人男性たちの黒人・同性愛に対する反発が代弁されてもいました。

カッコよく踊れるのは黒人、流れる音楽の演奏者も超人的な黒人ミュージシャンたち。際立つ黒人の優位性、レインボーカルチャー、ウーマンリブ......そういうものに対する白人たちの違和感が噴出。また同時に、政治の世界ではキリスト教右派と結託したレーガン政権がその違和感を巧みに利用し、現在に至る「文化戦争」の輪郭がくっきりとトレースされていきました。

......思い出話も含めて語ってしまいましたが、そんなわけで当初は黒人コミュニティから発信されたヒップホップでスターとなった白人ミュージシャンが、生放送のハーフタイムショーで人種の融合をアピールしたことには隔世の感があります(当時なら"生放送テロ"として扱われていたでしょう)。

もちろん今回も賛否両論は巻き起こっていますが、カルチャー面で米社会は着実にフラット化している。今度はもしかすると圧倒的な白人文化のヘビメタあたりでも、黒人のスーパープレイヤーが誕生するかもしれません。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』、TBS系日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』への出演でも話題に!

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