『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、日本の大麻推進派へ提案することとは――?
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欧米では医療用のみならず嗜好(しこう)用大麻の合法化・非犯罪化の流れが加速し、アジアのタイでも今年1月にTHC(精神活性成分のテトラヒドロカンナビノール)含有量0.2%未満の嗜好用大麻が合法化されました。そんななか、日本でも大麻をめぐる法改正について、厚生労働省の専門家委員会で検討が始まりました。
そこで出た案は、「医療用を解禁する一方、嗜好用には『使用罪』を新設する」という方向性だったようです。覚醒剤などとは違い、日本では大麻の「売買」や「所持」は違法である一方、「使用」は処罰の対象ではなかったため、新たに「使用罪」をつくろうというわけです。
しかし、これは世界の流れとは真逆です。もちろん欧米がすべて正しいわけではないけれど、日本では大麻をめぐる議論に関して正しい基礎知識の啓蒙(けいもう)や透明性のある検証が行なわれているとはお世辞にも言えない。むしろ国民の関心の薄さをいいことに、既存の体制に都合のいい枠組みが維持、あるいは拡大されているように見えてしまいます。
欧米は薬物汚染がひどく、大麻くらいは解禁しないと秩序が保てない。日本はそんな状況ではないのだから、罰則主義を正しく貫くべきだ。大麻解禁反対派の代表的なロジックはこんなところでしょう。
しかし、その現状認識は正確ではないと私は考えます。例えば日本の覚醒剤押収量は、コロナ禍で一時的に減ったものの、基本的に右肩上がり。普通に考えて、薬物汚染はそれなりに広がっているとみるべきでしょう(欧米と同レベルとは言いませんが)。
「ダメ、ゼッタイ」型の社会運営ではハードな現実に対応しきれない――ドラッグに関しては、ここからあらゆる議論を始めるべきと考えます。
ただし、いざまともに議論しようとすると、日本の従来からの大麻推進論者の存在が足かせになる可能性があります。ハイになりたいという本音を隠して「人権」や「自然」を押し出し、大麻は依存性もない、ゲートウェイドラッグにもならない、なんの不都合もない......と熱く語られたら、普通の人は引く。
しかし、彼らは長年それをやってきた。大麻推進派はボブ・マーリーの世界観に漬かり切った"ラスタな人々"――少なくとも外からそう見られていることは紛れもない事実です。
大麻を解禁したら当然、社会にリスク因子は増えます。それをまず認めましょう。その上で、新たな産業やカルチャーの創出などの恩恵がリスクを上回るという主張を努めてロジカルに説明すべきです。
また、大麻推進派の多くは左派ですが、私の提案は"右との融合"です。アメリカでも大麻解禁が進んだ州では、ヒッピー系の活動家(左)と規制を嫌うリバタリアン(右)が双方から"挟み撃ち"をして、大多数の中間層=「大麻は隠れて吸う分には問題ない」派を動かしました。
日本では現在、なんとあの安倍晋三元首相が自民党内の産業大麻の勉強会で最高顧問を務めています。大麻推進派の中には、イデオロギー的に安倍さんを受け入れられない人も多いでしょうが、物事を前に進めるには崇高な理想だけでなく"汚い取引"も必要です。
現在の議論のあり方を変えるためにできることを、推進派の方々には冷静に考えていただけたらと思います。
●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』、TBS系日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』への出演でも話題に!