『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、現代のデジタルインフラを支える労働者の問題について指摘する。
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デジタル技術の進歩がもたらす未来は希望に満ちているように見えます。例えば、理数系の教育分野では革命的な3D動画コンテンツが続々登場しており、従来の学校教育ではカバーできなかったような天才的な子供をエンパワーするためのハードルは以前よりずっと下がりました。
しかし、今の人類が抱えている課題をAIやらWeb3.0やらで万事解決できるわけではありません。特に、急速に便利になる世の中を下支えする労働者(ワーカー)の存在に、多くの受益者はあまりに無自覚です。
身近なメガプラットフォームが提供するネット通販やフードデリバリーや配車サービスも、ギグワーカーがいなければ成立しません。
また、あらゆるデータを「使えるもの」にするための識別やタグ付けはアルゴリズムだけに頼ることができず、人の作業が介在しています。ひたすら画像にタグ付けをするような作業を請け負う「ゴーストワーカー」と呼ばれる人々の賃金は低く、多くは貧しい国・地域にアウトソースされています。
その労働によって実装される便利で安いサービスを、われわれは現代社会のインフラとして当たり前に利用しているのです。
ある社会課題を解決するとうたうサービスのビジネス構造が、貧困の存在を前提に成立している。あるいは、むしろ貧困を固着化させてしまっている――こうした問題の存在から、われわれは目を背けるべきではありません。
例えば、ゲームをプレイしてNFTを稼ぐ「Play to Earn(P2E)」の流行にも、似たような問題点を指摘する声があります。
最近では、発展途上国でもかなり多くのプレイヤーがP2Eに参加しているといいます。「スマホとネット環境さえあれば、いつでもどこでも収入を得られる」。そんなうたい文句はウソではなく、フィリピンでは最低賃金の3倍ほど稼げることもあるようですから、確かに一部の人はそれによって一時的に貧困から抜け出せるのかもしれません。
しかし一方で、そもそもこの仕組みが詐欺やマネーロンダリングに利用される危険性も指摘されています。また、貧困にあえぐ人々がギャンブルで一発逆転を夢見るのは無理もないことですが、そのギャンブルが流行したからといって、現実の格差や搾取の構造が解決するわけではないのです(運営母体が海外なら、その地域に税金すら落ちないケースも多々あります)。
もちろんサービスの存在自体が悪いとは言いませんが、その流行によって社会が「やるべきことをやらないまま、やった気になっている」のだとすれば、決して筋がいいものではないと私は思います。
かつて米英で女性が社会進出し始めた頃、その家庭を支えたのは、異国から来たメイドでした。米英の基準では高い賃金ではない仕事でしたが、母国で働くより条件が良かったという人もいれば、もっと切実な事情で「他人の子守と家事」をせざるをえなかった人もいたでしょう。
それから数十年たった現在も、貧しい移民の労働で成り立つビジネスは健在ですし、さらにグローバル化とIT化で"安い国"からの労働力の搾取は国境を超えています。そのことに無自覚なまま毎日を快適に過ごし、便益だけを受け取り続けるのが本当にいいことかどうか。一度考えてみてほしいと思います。
●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)ほかメディア出演多数。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』、TBS系日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』への出演でも話題に!