『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、VFX学習で垣間見えたインドの勢いについて語る。

* * *

メタバースやWeb3といった言葉が流行していますが、私もいずれそういった領域で新たな活動ができるよう、最近は3次元CGやVFXのスキルを自分なりに学んでいます。

ここ数年、映像の世界では"民主化"がすさまじい勢いで進んでいます。本格的なものを作るなら、かつては超高価な専門機材が不可欠でしたが、今では数十万円の初期投資と向上心と根気があれば、アマチュアでもハイクオリティなCG映像を制作できる時代になりました。

なお、昨今の民生用ソフトの多くはマニュアルを見ても何がなんだかわからないので、世界中の腕利きのユーザーが公開するチュートリアル動画が"教材"になります。その分野で活躍が目立つのが、インドのクリエイターたち。強烈なヒンディーなまりの英語ですが、内容は的確で、コメント欄には世界中から絶賛の声が寄せられています。

かつてはB級感が面白がられてきた「ボリウッド」(ムンバイを中心とするインド映画産業の総称)ですが、最近は独自の進化が加速し、年々クオリティを上げています。

ムンバイに設立した映像制作会社を大きく成長させ、英大手を吸収合併して誕生した世界的VFXスタジオ・DNEG社(本社はロンドン)の会長兼CEOとなったナミット・マルホトラ氏はその象徴的存在でしょう。

また、前述したようなチュートリアル動画でのインド勢の活躍を見ると、いわゆる上澄み層だけでなく"ストリートレベル"での底上げも実感できます。それはそのままインドという国の力、特に人口構成の面でも国の中心となっている若い世代の勢いであるといえるでしょう。

インド勢と日本人のクリエイターが、同じソフトの解説動画をそれぞれ公開しているケースもあります。そもそも日本勢の多くは日本語で内向きにつくっているので比較する意味もあまりないのですが、なんというか、まるで河合塾とか代ゼミのような"お勉強感"が強い。

細かいところにフォーカスし、よく言えば職人的、しかし「そんなことに時間と労力を費やすの?」という疑問も湧いてしまう。動画主も自信なさげで、「あくまで私の見解ですが......」と予防線を張る場面も目立ちます。  

一方、インド勢は小さなことは気にせず、とにかく自信にあふれ、早口で明るい。日本の職人的技術者からすれば粗も目立つのでしょうが、私はそこに限りない可能性と勢いを感じてしまうのです。

インドはいまだ苛烈な身分社会で、差別も貧困も根深い。貧困層がPCひとつで上り詰められるほど生易しい世界ではないでしょうが、多くの犠牲の上に"ドリーム"が成り立つ社会になりつつあることも事実です。

間もなく中国を抜いて世界一となる人口、その上位10%層だけでも日本の全人口より多いという圧倒的なマンパワー。

英語ができ、理数系に強く、人件費が安く、受注した仕事は根性を入れて頑張ることで世界中のIT産業やハリウッドの映像制作を下支えしてきたインドは、今やコスパでは語れない"代えがたい付加価値"を手に入れ始めています。

おそらく今後、あらゆる分野で下請けから上位レイヤーへの脱却が急加速していくでしょう。巨象覚醒――ヒンディーなまりの解説を見ながら、そんな思いに至りました。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)ほかメディア出演多数。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』、TBS系日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』への出演でも話題に!

★『モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画』は毎週月曜日更新!★