『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、言論空間としてのツイッターについて指摘する。
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イーロン・マスク氏がツイッター社を買収し、CEOになったことで実行されたとみられる大量解雇や"仕様変更"が話題になっています。英語圏ではすでに公式アカウントを削除する企業も出始めました。
正直なところ、私はこの話題が持ち上がる少し前から、ツイッターというメディアとは距離を取り始めていました。その理由をひと言で申し上げれば、今やツイッター空間では有益な議論が激減し、殺気と罵声が飛び交う『イカゲーム』のような世界になってしまったからです。
私がツイッターの有用性を最初に感じたのは、2010年に始まった「アラブの春」でした。世界に地殻変動を起こしえるようなニュースの種が、リアルタイムで現場から次々とツイートされ、英語の速報報道も飛び交った。日本では後追いでしか報道されないこうした話題を、当時の私は熱に浮かされたように日本語訳してツイートし続けました。
そういった話題への好奇心や、落ち着いた議論がそれなりに影響力を持っていた空間に異変が起きたのは、日本では明らかに2011年の「3.11」がきっかけでした。
原発事故のパニックは多くの「反原発派」を生み、それ以外の言論人や著名人が中立的な意見を発信しようものなら「御用(ごよう)」などと激しくバッシングされるようになった。
それが一段落すると、今度は第2次安倍政権下で新たな"ネトウヨブーム"が起き、ツイッター世論はますます分断へ向かっていったように感じます。
それと、近年目立つ変化は"いいねで食べている人"の増加です。「いいね」をもらうことに特化し、その注目を原資にビジネスをしたり、収入を得たりする人が本当に増えた。
そこで目立つのは、とにかく声が大きい、揚げ足取りが得意、レスバトルの瞬発力がある、あるいは躊躇(ちゅうちょ)せず自身を切り売りする――そういった特定の強みを持つユーザーであり、極端に偏っています。
極めて複雑なテーマであっても、専門家の知見に根差した丁寧な解説より、140文字×2~3ツイートで結論を出して共感させてくれるわかりやすさに「いいね」が多くつく。
そんな「いいね」の奴隷となった人は、より発言が過激化し、暗黒面(ダークサイド)に堕(お)ちていく......。そういう事例を何度も見ました。
ただそれでも、ほんの少し前までは、検索エンジンに引っかからないまま埋もれかけていた有用な情報や報道を拾い上げる"闇市"のような場としてツイッターを重宝していました。
しかし、レベルの低いあおり記事や極論、あるいはデマや陰謀論を拡散しようとするアカウントが増えたためか、それとも仕様変更の影響なのかわかりませんが、ここ最近はそれも難しくなっています。
今後、マスクCEO流の「言論の自由」が徹底されていけば、より分断は深まり、建設的な議論の多くはかき消されてしまうでしょう。
メインストリームのマスコミがどんどん弱体化する中、言論のコモンズ(共有地)として今やかなりの影響力を持つに至ったツイッターが、いきなり"ワイルド・ウエスト=無法地帯"になることで社会にどの程度のインパクトがあるのか?
これまでの経験からその見積もりはネガティブにならざるをえず、いつでも「退会」ボタンを押せるようにプランBを練っているところです。
●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)ほかメディア出演多数。富山県氷見市「きときと魚大使」。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』にも出演