『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、シーインの日本初出店で気になったこととは――?

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Z世代に世界的な人気を誇る中国発のアパレルEC「シーイン(SHEIN)」が11月13日、東京・原宿に日本初の常設店をオープンし、テレビを中心に大きな話題となりました。

2012年に誕生したシーインは、圧倒的な安さとAIを駆使した多様でスピーディな商品展開を武器とし、主にインフルエンサーを通じて人気を獲得していったわけですが、すでに欧米ではさまざまな「問題」が指摘されていました。

例えば、中国国内の製造工場で働く人々は、非常に過酷な労働環境に置かれていること。有名ブランドなどからのデザイン盗用疑惑が頻発しており、著作権侵害で複数の訴訟を起こされていること。幼児用ジャケットや財布など一部の商品に、安全基準を大幅に超える有毒な鉛の成分が入っているとの指摘を受けていること......。

米ニューヨーク・タイムズは今年9月、環境や人権への関心が高くエシカル消費を心がけているはずのZ世代が、その倫理観にまったく合致しないシーインというブランドをなぜ熱く支持するのか、というテーマの検証記事を掲載しました。

あるハイブランドのデザインに酷似した29ドル(約3900円)の靴を購入したというインフルエンサーの若者は取材に対し、偽物を支持するわけではないと前置きしつつ、「私たちの世代の多くは2000ドル(約27万円)の靴を買う余裕なんてない」「自分の貧困のほうが人権より重要な問題」「大手ファッション業界はどの企業も口で言うほどSDGsを実行していない」などと語っています。

そこから見えてくるのは若者のむき出しの"本音"であり、同時にその世代を取り巻く貧困問題をも浮き彫りにして、社会構造について考えさせる内容でした。

私が気になったのは、そんなブランドが初の常設店をオープンするのに際し、日本のメディアの多く(主にテレビ)がその盛り上がりをあまりにも無邪気に伝えていたことです。

しばらくすると、海外の動きを受けて日本でも問題意識のある報道がようやく(少しは)目立つようになりましたが、当初のように企業の広報や代理店が届けたいポジティブな情報だけを垂れ流しにする姿勢は、もはやSNSインフルエンサーと大して変わりません。

あれだけの種類の商品をなぜ毎日のようにリリースできるのか。そもそも、なぜこんな低価格を実現できているのか。安さの裏側にある本当の理由、そしてそれを成立させている構造的背景について、知っていて見て見ぬふりをしたのか、それとも知ろうとすらしなかったのかわかりませんが、いずれにせよ特権を託されたメディアが、社会課題をとらえようとする精神を放棄していいはずがありません。

ただでさえ最近は、モラルもファクトチェックもない徹底的なSEO戦術のみでクリック数を稼ぐウェブ媒体が、世論に与える影響が拡大しつつあるのを感じます(何しろ検索すると上のほうに出てくるのですから)。

その節操のなさを、マスメディアが後追いしているようにすら見えるのは非常に根深い問題です。20年以上、給料も物価もほとんど上がらない"不思議の国"にとって、シーインのような問題は紛れもなく当事者意識を持つべきテーマなのですから。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト、ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)ほかメディア出演多数。富山県氷見市「きときと魚大使」。昨年はNHK大河ドラマ『青天を衝け』にも出演

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