2ℓのミネラルウォーター20本を一度に運んだことがありました2ℓのミネラルウォーター20本を一度に運んだことがありました

連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長のチャリンコ爆走配達日誌】第26回

ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!

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ウーバーイーツの配達員が使っているリュック。皆さんはあのリュックに対してどのようなイメージをお持ちでしょうか?

あんなデカいものを背負って道路をウロチョロされるのはジャマだと、イライラするドライバーの方もおられるでしょう。人がたくさん行き来する商店街であんなのを背負って自転車を漕いだら危ないだろ、と感じる歩行者の方もおられるでしょう。マンションのエレベーターにあのリュックを持ったまま乗ってくるのはちょっと、と思われるマンションにお住まいの方もおられるでしょう。

こうやって書いていくと「ホント、すみません。なるべく迷惑をかけないように工夫します」としか言えないですね......。

デカくてジャマと感じているであろうリュック。「小型のリュックで運べばいいのに」と思われる方もいるでしょう。実はあのリュック、小型のサイズも売っていて、配達しているとたまーに小型のものを使っている配達員も見かけます。ですが、そのような配達員は少数派。なぜなら、あのデカいリュックでなければ入りきれない量の配達をすることもあるのです。

今回はこれまで6年間、5500回以上の配達で遭遇した、いろいろな「過去最大」のエピソードを紹介します。

まず、「過去最大重量」の配達は、ウーバーイーツマーケットからの依頼。以前、「一体どこにあるんだ!? 謎のスーパー『ウーバーイーツマーケット』」でも少し触れましたが、この店はウーバーイーツが運営するデリバリー専門のスーパーマーケットのようなところで、食品や日用品を販売しています。

最大の特徴は、ウーバーイーツによる配達サービスを行なっているスーパーマーケットやコンビニエンスストアより価格が少々安くなっていること。扱っている商品も日持ちするものが多いため、ほとんどの方がまとめ買いをされます。

そんなウーバーイーツマーケットに商品を受け取りに行った時のこと。運ぶ商品の内容をしっかり確認せずに店まで行くと、渡されたのは2ℓのミネラルウォーター20本。

以前、スーパーや酒屋からの配達で2ℓのミネラルウォーター6本を運んだ時は、「こちらの方が運びやすいでしょう」という店側の配慮もあって、ダンボール箱に入ったままの状態で商品が渡されました。配達先の方にも「箱に入ったままでOK」という確認も取れたので、リュックに入れず、自転車の前カゴに6本入りの箱を載せて運びました。

今回渡されたのは、ひとつの袋に4本ずつ入った大きなレジ袋4つ。ですが、リュックに入れられるのは8本が限界です。

運ぶものが多い時、アプリで運営側に「運ぶものの量が多すぎる」と報告して、配達員の応援を呼ぶことができます。その機能を使うことも考えたのですが、時刻は深夜2時。この時間、銀座や日本橋にいる配達員はごくわずか。場合によっては応援を呼んでも誰も来ず、配達を終えて戻ってきたら残りのミネラルウォーターの配達の依頼が来るかもしれません。

過去に分割配達で同じ届け先まで何度か往復してBAD評価を受けたことがあるので、前もって注文者に「配達を分割してもいいか? 一度に運ぶ場合は自転車の前カゴにも入れるためレジ袋に穴が開いてしまう可能性もあるが大丈夫か? 分割したらバイクの配達員に当たる可能性もあるので、商品の半分は早く到着する可能性もあるが、分割しなくていいか?」といった内容のメッセージを送信。「コイツ、自分が運ぶ量を減らしたいだけだな」と見透かされたのか「袋に穴が開いても大丈夫です。一度に運んでください」と返信が届いたため、リュックに8本、前カゴに12本を入れて配達。配達先はエレベーターのないマンションの5階でした。

ちなみに先日ウーバーイーツマーケットを訪れたら、「2ℓのドリンク8本以上の場合は数名の配達員に荷物を分けること」という店のスタッフに向けた注意喚起の張り紙があったので、このようなことはもう起こらないかと思います。


一度に運んだ「料理数の過去最大」は46品。今年9月、台風13号が関東地方に上陸するのではといわれた日に記録しました。

台風は上陸する前に熱帯低気圧に変わり、東京も雨の影響がほぼなかったのですが、台風に備えて会社に泊まって待機する方も多かったのでしょう。そして「ウーバーでも頼むか」と提案する上司も多かったのでしょう。この日は5~10人分の料理をオフィスへ運ぶ依頼が殺到しました。

そんな中、銀座にあるビルまで運んだのが、たこ焼き屋とタコス屋からの注文。最初にタコス屋で料理を受け取り、次にたこ焼き屋で料理を受け取り。その両方の料理を銀座のビルまで運ぶというもの。

最初のタコス屋で手渡された料理だけでリュックの中はパンパン。ただ、ミネラルウォーターの時のような重量ではなかったのと、普段は2件の配達で600円前後しかもらえないのに、台風の予報が出ていて配達員が少なかったためかこの配達は2件で3200円だったため、「配達を分割してもいいか? 分割すると時間がかかるが大丈夫か? 一度に運ぶ場合は自転車の前カゴに入れる形になってしまうが、雨が止んでいるので商品が濡れることはない」と、先ほどとは少々トーンの異なるメッセージを送信。先方からの「一度に運んで大丈夫」との連絡をもらってからたこ焼き屋へ。

そして渡されたのは、タコパでもそんなに作らないだろうと思うほどの量のたこ焼きと、大量のお好み焼き。なんとか前カゴに入れることができましたが、商品を運んでいる時、リュックの中や前カゴの中の商品がバランスを崩して傾かないよう神経を使い、配達が終わった時はぐったりしました。

「過去最大のプレッシャー」がかかったのはケーキの配達。コロナの影響で外出が制限されていた2020年。外出も最小限にと言われていたことから、クリスマス当日は例年以上に料理の配達が多くなっていました。

そんな状況で受けたのがクリスマスケーキの配達。洋菓子店で渡されたのはケーキの入った大きな箱。上の部分にセロハンが貼られていて、中が見えるタイプの箱だったのでのぞいてみると「メリークリスマス&お誕生日おめでとう」の文字。

おそらくコロナでお誕生会も開けず、クリスマスなのにどこへも行けず、ケーキも買いに行けない中、ウーバーで注文することを思いついたのでしょう。ケーキが斜めになって箱に生クリームがベッタリついてしまってはクリスマスと誕生日が台無しになってしまいます。

そこで、リュックを背負うといつもより遅めのスピードで自転車を漕ぎ、段差があればサドルから腰を浮かせてリュックの中が揺れるのを抑えつつ目的地まで配達。いつもだったら15分ほどで行く距離を30分近くかけて慎重に運びました。その日は赤い上着をきていたので、届け先でインターホンを押すと、後ろの方から「サンタさんだ!」という子供の大声が聞こえました。

無事に運び終えた時は、とりあえずホッとしました。

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渡辺雅史

渡辺雅史わたなべ・まさし

フリーライターとして雑誌や書籍への執筆をするほか、ラジオ番組やテレビの番組の構成作家としても活躍。趣味は鉄道に乗ること。国内の全鉄道路線に乗車したほか、世界20の国・地域の鉄道に乗車。

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