都心のタワーマンションの一部では、外国人区分所有者の割合が高まっている(本文と写真は関係ありません) 都心のタワーマンションの一部では、外国人区分所有者の割合が高まっている(本文と写真は関係ありません)
最近、中華系を中心とした外国人による日本の不動産取得に関して取り上げたニュース記事を散見することが多くなった。その一部は「外国人の不動産購入を規制すべきである」という論まで展開している。

「外国人が日本の不動産を買っている」

そんなことをテーマにしてあれこれ議論するテレビの情報番組にコメンテーターとして呼ばれたこともある。驚いたことに、私以外のほとんどの参加者が、外国人に日本の不動産を買われることに否定的な考えをお持ちだった。

■漠然とした不安

そういった論調の多くは「このままでは外国人に日本の主要な不動産を買い尽くされてしまう」ことを恐れる感情がベースにあるように思える。その反面、日本人や日本企業が外国の不動産を取得することに対しては、否定的な論調を見かけることは少ない。

外国人が日本の不動産を購入・取得することには警戒感を抱いても、日本側が外国の不動産を買収することには肯定的に捉えたがるのは、少しアンバランスではなかろうか。

あの平成バブルが真っ盛りの1989年、三菱地所はニューヨークのロックフェラーセンターを実質的に買収した。その時、多くのアメリカ人はあまり愉快そうには思ってはいなかったようだが、あからさまな拒否反応を見た記憶はない。

もっとも、三菱地所のこの投資は惨憺たる失敗に終わった。数年後には、そのほとんどを買値よりも安く売却することになったのだ。

日本では、不動産を外国人が取得することにほとんど規制がない。登記できる住所と個人や法人のID証明があれば、世界の誰もが日本の不動産を取得できる。実際、多くの不動産を外国人が取得している。

外国資本による不動産取得が進んだ北海道ニセコのひらふ坂 外国資本による不動産取得が進んだ北海道ニセコのひらふ坂
実際、そのことによる不都合はあまり生じていない。一例を挙げよう。

新宿歌舞伎町一帯のビルオーナーのほとんどが台湾人か中華系の方々だといわれている。そのことによって、何か問題があるのだろうか。日本の法令に基づいて適正な管理が行われ、固定資産税などの公租が納められている限り、特に不都合はないはずだ。

歌舞伎町一帯には日本の警察権が及んでいない、なんてこともない。あの街では多くの日本人や外国人が、今日も概ね平和裏に不夜城を楽しんでいる。

「離島を丸ごと中国人女性が購入した」
「自衛隊の基地近くの土地を外国企業が取得した」
「都心の某タワマン購入者の2割が中華系外国人」

最近、ニュースメディアで見かけた、この手の話題である。

「自衛隊」や「在日米軍」の近辺の不動産取得など、日本の安全保障に関して問題がある場合は、それなりの規制が必要かもしれない。しかし、離島やタワマンにまで目くじらを立てる必要があるのか。

何年か前には「中華系の外国人が『水源』の土地を買った」というような話題もあった。日本は高温多湿な気候なので、いわゆる「水源」となる土地は多い。その一部を外国人に取得されたとして、日本全体の水道供給が危うくなるわけではない。

そもそも「水源」がある土地を外国人が買っても、できることはほとんどない。今からミネラルウォーター事業に参入するには途方もない困難が伴うはずだ。

■土地を乗っ取ることは不可能

こういったことを危惧する多くの方は、日本の不動産の帰属について多少誤解しているのかもしれない。

日本の不動産の所有権が日本人以外のものであったとしても、そこは日本の領土内である。日本の主権が及び、日本の法令が適用される。そして何よりも、多少の問題はあるにせよ、日本はれっきとした法治国家である。仮に悪意のある外国勢力に特定地域の大部分の土地を取得されたとしても、その場所を乗っ取られるわけではないのだ。

例えば、タワマンを取得した外国人が「管理費や修繕積立金なんて払いたくない」とゴネたとする。そんな場合は、裁判所にその住戸の競売を申し立て、競落額から管理費等の未収金を回収できる仕組みがこの国では機能している。日本は、権限を持った役人や政治家に賄賂を渡せばだいたいのことはOK...なんてルールがまかり通るような国ではない。

現在、東京都心におけるマンション市場では中華系の外国人が「買い手」としてそれなりに目立っている。東京のマンション価格はニューヨークやロンドン、パリ、あるいはシンガポールや北京、上海と比べても割安だとされる。折からの円安も、彼らのモチベーションを高めている。

■外国人も不動産購入可能なのは日本だけ?

「外国人が日本で不動産投資をすることによって相場が上昇し、住宅を必要とする日本人に手の届かないものになるのでは?」という指摘もある。しかし、不動産市場における外国人のプレゼンスは高まっているとはいえ、主役というわけではなく、「クセのあるわき役」レベル。そもそも彼らに相場を握られるほど、日本の不動産市場は小さくないのだ。

そもそも日本全体の不動産市場からみれば、外国人の購入が目立っているエリアはほんの一部に過ぎない。それに、彼らが日本に永住して子どもをこの国で育てでもしない限り、いずれは売却するはずなのだ。

外国人の不動産取得に対する漠然とした不安を背景に「外国人が自由に不動産購入できる国は、世界に日本だけ」などという説も飛び交っているが、これは全くのデマである。

発展途上国には外国人の不動産取得を規制している国が少なくないが、アメリカやカナダ、EU諸国の多くは原則、外国人でも不動産の取得が可能だ。ギリシャやポルトガルは、不動産投資をした外国人に永住権を付与するという誘致策もあるほどだ。

十分な資力がある人が日本での不動産購入を望むなら、国籍問わず買えばいいし売ればいい。それが市場経済の基本である。さらに、あらゆる類の規制は市場原理を歪めるということも忘れてはならない。

榊淳司

榊淳司

住宅ジャーナリスト。1962年京都府生まれ。同志社大学法学部および慶應義塾大学文学部卒業。バブル期以降、マンションの広告制作や販売戦略立案などに20年以上従事したのち、業界の裏側を伝える立場に転身。購入者側の視点に立ちながら日々取材を重ねている。『マンションは日本人を幸せにするか』(集英社新書)など著書多数

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