モーリー・ロバートソン「挑発的ニッポン革命計画」 『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、変わりゆく日本社会で「取り残されつつある人々」について考察する。

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かつてサラリーマンの街といわれ、ワイドショーやニュース番組の"街の声"収録の代表地でもあった東京の新橋や有楽町エリアを歩き回ってみると、驚くほど見事に高齢の日本人男性客ばかりいる古い飲食系商業ビルがいくつかあります。

街はそれなりに多様で、若者も女性も外国人も、さまざまな人たちがいるのに、そこはまるで遠心分離機できっちり分けられたかのよう。その街を"楽園"として占拠してきた記憶を持つ人たちが、「今まで俺たちも頑張ってきたよな」とお疲れさま会をしているようにすら見えてしまいます。

米『ニューヨーク・タイムズ』は先日、「Japan's Labor Market Has a Lesson for the Fed(日本の労働市場にはFed〈米連邦準備制度。雇用や物価の政策を管轄〉にとっての教訓がある)」と題した経済記事を掲載しました。

同記事は、日本で女性の労働参加率が急上昇しアメリカを超える水準になったことは政策のおかげでもあるけれども、政府や経済学者の予想を超えて女性たちが「働きたがっていた」ことが最大の要因であると指摘。管理職の割合が低い、非正規雇用が多いといった課題は残りつつも、アメリカが参考にすべき事例であると紹介しています。

この「課題」は制度的にも社会の姿勢としても当然是正されていくべきことですが、従来の既得権層である高齢男性層が労働市場から退場していくに従い、自然と解消されていく側面もある。今後はよりフェアな、個人の能力や頑張りに応じた"格差"の勾配が生まれるでしょう。

そして、日本社会における従来の既得権層を追いやるもうひとつの存在が外国人です。

これだけ若い労働力が不足しているわけですから、政府も経済界も、本音の部分では移民の増加を望んでいることはおそらく間違いありません。少子高齢化の副作用として"票の力"が強くなってしまっている高齢者たちに表向きは配慮しつつ、労働市場にはなし崩し的に外国人が増えていくはずです。

一般的に移民政策について、カナダ、オーストラリア、シンガポールなどはうまくやっている国といわれています。一方で近年、ドイツなど欧州の国々では、政情不安定な国から逃れてきた不法移民をどこまで許容するかという課題が社会に突きつけられています。アメリカでも移民政策を巡る分断が(トランプ前大統領による扇動も手伝って)正念場を迎えています。

ただ、忘れてはならないのは、どの国も「そもそも移民を受け入れるかどうか」というレベルの議論をしているわけではありません。人道面のことを抜きにしても、先進国が社会を強くし、経済を成長させ続けるためには「受け入れる」の一択しかない。30年間経済を成長させられなかった日本で「やっぱり移民政策は間違いだ!」と叫ぶのは、言葉を選ばずに言えば「周回遅れ」です。

とはいえ外国人が増えることで、一部地域の治安の悪化や文化的な摩擦が起きることはおそらく避けられません。そこでナショナリズムや排外主義、軋轢や分断をコントロールしていく役割が、政策や社会的議論に求められます。

従来の日本社会における「普通」が失われていくという変化を受け入れられない人々には、居酒屋で「お疲れさま」とビールをつぐことくらいしかできることはないのです。