4月2日、東京都中央区豊海町で建設中の「ザ豊海タワーマリン&スカイ」が、販売延期と施工スケジュールの変更を、モデルルーム来訪者などの顧客層に突然通知した。翌3日には朝日新聞デジタルが売主企業の親会社である三井不動産から取材した記事を掲載。延期の理由は「コンクリートの強度検査の結果、強度を詳しく調べる必要が出てきたため」となっている。
コンクリートはマンションの躯体に用いる主要素材である。その強度に問題があることを示唆する記事は、事の深刻さをうかがわせる。
■珍しくないヒューマンエラー
ただ、マンションの「施工事故」はさほど珍しくはない。マンション分譲の大手である「三井」や「三菱」、「住友」などの名を冠した財閥系のデベロッパーでも、過去十数年の間に施工不良が原因で建て直したケースがある。しかし、具体的な情報が一般人の目からは遠ざけられている。
意外に思われるかもしれないが、マンションの建設工事はその大半が人間の手作業で行われている。基礎工事、本体建設、付帯工事、そして内装工事......。重機などの機械に頼ることがあっても、基本的にそれを動かすのは人間。また、最後の仕上げをするのも人間だ。
世の中には二つとして同じマンション、同じ住戸はない。だからマンションといえども、大量生産の工業製品ではなく、建物本体も1戸1戸の住戸もすべて人間の手作業で作られている。人間が行う作業には必ず一定の割合でミスが発生する。人間は精密な工作機械ではない。個人差はあるが、まったくミスをしない職人や作業員はいない。俗にいう「ヒューマンエラー」というやつだ。
マンションの建設でも、そういったヒューマンエラーからは逃れられない。だから、マンション建設には一定数の施工不良が発生する。様々なマンションの施工不良の中でも致命的なのは、躯体構造部分で起こるケース。つまり、鉄筋コンクリートの強度に問題が発生すると、その建物自体の存在が危険となる。ちょっとした地震で倒壊するかもしれない。ところが、そういった躯体構造部分での不良施工も時にはヒューマンエラーで発生する。
■全棟建て替えとなったケースも
私の仕事の一分野は、一般消費者からマンション購入や管理などについてご相談を承ることである。そこで様々なケースに出会うが、世に埋もれたマンションの「施工不良」事例はかなり多そうだ。
先述のように、マンションは基本的に人間が手作業で作るもの。一定の比率でミスが発生するのは当然のことだと思える。大切なのは、ミスが生じた場合にはミスだと認めてキッチリとやり直すことだろう。その点、今回の「豊海」のケースは売主企業が問題点を自ら認めて、一般消費者に対する誠意を見せたケースとして評価すべきだ。
ただし、こういう事例は氷山の一角にすぎない。過去には、マンションを支える基礎杭が建築基準法に定められた強固な地盤に達していないことによって建物が傾いているにもかかわらず、売主企業が「東日本大震災のせいです」と言い逃れていたケースもあった。
このケースでは、一部の住人が、行政が近隣エリアで行っていたボーリング調査資料とそのマンションの建築図面を照合して、「基礎杭が支持基盤に達していない疑いが濃厚」と売主企業にエビデンスを突き付けたことで、一気に「全棟建替え」という解決策に至った。
ただし、このケースでは数百戸のマンションを取り壊して建替えが完成するまでには3年の猶予期間が必要となり、高齢者の中には仮住まいで寿命を終えた方もいたという。
マンションの「施工不良」というのは本来、あってはならないものだ。しかし、人間が作るマンションには一定数のミスが発生することが避けられない。
さらに、施工不良のほとんどは、それと分からないまま放置されている。そのまま購入者に引き渡して、売主は知らぬ顔。法的には10年で責任を逃れられる。今回のように「コンクリートの強度」に問題がある場合、強度の地震でも来ない限り分からなかったかもしれない。
■長周期パルスは建築基準法の想定外
現在の建築基準法では、「震度7程度の地震でも建物が倒壊しない」強度を設定している。しかし、これは新耐震基準が定められた1981年時点の知見がベースになっている。
その後、地震に対する科学的な研究は進んだ。2016年の熊本地震では、それまで観測されていなかった「長周期パルス」という新たな振動が認知された。
この「長周期パルス」にさらされると、建築基準法に定められた耐震基準を満たしていても高層建築が倒壊する可能性があるという。そのことを熊本地震の後にNHKが特集番組で報道している。
近頃は日本とその周辺で地震が増えている。果たして「震度7」の地震がやってくると、多くのマンションに隠されている「施工不良」がどの程度露見してしまうのか、ちょっと心配な状況である。