最近、メディアに掲載される記事で「マンション管理に関する問題点」をテーマとするものをよく見かけるようになった。この分野に社会の関心が高まることは、悪くないと思う。
この国には1960年代以降、およそ700万戸の分譲マンションが誕生した。分譲マンションとは1住戸ずつに区分所有権が設定されている集合住宅のことだ。
分譲マンションの管理については、1962年に施行された区分所有法にて規定されている。この法律は何度も改正されてきたが、その基本的な骨格は変わらない。ハッキリ言って、この区分所有法には大きな欠陥がある。この欠陥は、やがてこの国に解決しがたい社会問題を惹起するはずだ。
主な欠陥は二つある。
ひとつは、分譲マンションの出口戦略が極めてあいまいであること。現制度では日本中に廃墟化した分譲マンションの成れの果てをばらまくことになるだろう。
そしてもうひとつは、マンション管理。現行のマンション管理制度では「悪い奴ら」がやりたい放題に甘い汁を吸える仕組みになっていることだ。そこで本稿では、この「マンション管理」の大きな問題点について多少の解説を試みたい。
■欠陥だらけの区分所有法
日本のすべての分譲マンションには、区分所有者を組合員とする管理組合が形成されている。区分所有法に定められた管理組合運営の基本は、多数決をベースとした「民主主義」である。それ自体は悪いことではないが、問題は「悪意の人物」が登場することがまったくといっていいほど想定されていない点にある。
実のところ、現在の分譲マンションの管理組合は「利権の巣窟」である。特に戸数が多いマンションの場合は、管理組合に集められる管理費や修繕積立金の総額は年間で「億」単位になることは珍しくない。
そのお金をどう使うかを決めるのは、実質的に管理組合の理事長(区分所有法上は「管理者」)である。現行の区分所有法では、管理者、つまり理事長が管理組合の運営を私物化して自己の利益を図るような場合、これを是正あるいは排除することはほぼ不可能である。
例えば、億単位での出費になる大規模修繕工事で、理事長が請負業者と談合してその一部をキックバックさせたとしても、それを暴くことは著しく困難だ。少なくとも、そういうことが露見した事例を私は知らない。逆に、理事長が管理組合のお金を横領していると疑われるケースならゴマンえば、実にカンタン。それでいてバレることは100%ない。管理組合による強権的かつ理不尽な支配が約30年にわたり続いた渋谷区幡ヶ谷の「北朝鮮マンション」も、私物化の一例だ。
■大規模修繕という巨大利権
逆に理事長が悪意の人物ではなく、そのへんのどこにでもいる「いい人」であった場合でも、危険である。管理組合の理事会が「いい人」ばかりのボンクラ体制である場合は、管理会社からタカられることになる。
例えば、管理会社の言いなりとなって管理費や修繕積立金支出をさせられるということが起きるのだ。特につけ込まれやすいのが、大規模修繕工事である。
鉄筋コンクリート造の分譲マンションは「12年に一度」程度の割合で大規模修繕工事をやるべき、と国土交通省が定めるガイドラインで表示されている。ちなみにこの頻度には、何の根拠もない。私は国交省とその天下り先であるマンション管理業界が考え出した「陰謀」ではないかと疑っている。
なぜなら大規模修繕工事には、通常1戸あたり150万円程度の費用が発生する。100戸のマンションなら1.5億、500戸なら7.5億だ。これはもう「利権」レベルだろう。それを発注するのは管理組合で、受注するのは、多くの場合は管理会社だ。管理会社が受注する場合の利益率は3割をくだらない。場合によっては5割以上にもなる。
先日、あるメディアに出た記事に、管理会社から1.7億円で提案された大規模修繕工事を、別の施工会社に見積もり依頼したら同じ内容で6千万円で発注できた‥というのがあった。まあ、ありがちな話である。管理業務を受託している管理組合の修繕積立金に関して、管理会社は将来の売上としてカウントしている。ボンクラな管理組合からはぼったくり放題、というワケだ。もちろん、ぼられた分を負担するのはそれぞれの区分所有者だ。
民主主義という政治システムには「有権者が賢明な判断を下す」ということが期待されている。同様に現行の区分所有法は、理事長が「善良な管理者の注意義務をもって職務を果たす」ということを前提に設計されているわけだが、これは少なくとも現在の状況にはそぐわない。
日本の分譲マンションの管理をより健全に導くためには、区分所有法の早急な改正が望まれる。