
10数年に1度の周期で行われる大規模修繕工事は不正の温床!?(写真はイメージです)
日本で分譲マンションが本格的に供給されたのは1960年代から。以来、約60年以上に渡って分譲されたマンションの総戸数は約704万戸(2023年末時点・国土交通省)。都市部ではかなりメジャーな住まいのスタイルとなった。
しかし、分譲マンションには様々な社会的問題が潜んでいる。そのひとつが、区分所有者で構成されるマンションの管理・維持を目的とした管理組合のガバナンスについてだ。
大阪府にある管理会社の社員が、業務を受託しているマンションの管理組合から総額9億円を横領していた事件が2025年2月に発覚。この手の事件としては被害額がかなり高額なので話題になった。また、2015年には新潟県にあるリゾートマンションの管理組合理事長が、総額11億円を着服した事件が発覚し、当時としてはちょっとした騒ぎとなった。
管理組合に集まる管理費や修繕積立金の横領が発覚する事件には、大きく2パターンある。ひとつはその管理組合を担当している管理会社の社員が行なうもの。これは明確に犯罪であり、比較的検挙されやすい。
もうひとつは管理組合側の理事長や会計責任者などが帳簿をごまかすなどして、こっそり私物化してしまうケースだ。これも会計書類の改ざんや偽造があれば発覚しやすい。
しかし、こういう「犯罪型」のケースは氷山の一角に過ぎない。実は、日本の分譲マンションの管理組合には「犯罪」として暴くことが困難な、グレーな不正がかなりの割合で発生していると推測されるのだ。
■横行するキックバック
それは、管理組合の理事長などが管理費などを直接横領するのではなく、業務を発注した業者と癒着するやり方だ。これは、10数年に一度行われる大規模修繕工事などにおいても横行している。
例えば200戸程度のマンションであれば、大規模修繕は3億円くらいの予算で行われることが多く、発注の決定権のある理事長や主要な理事に対し、業者からのキャッシュバックが発生する余地が十分にあるのだ
そうしたなか最近では、「大規模修繕コンサルタント」などという肩書を持つ「専門家」がウジャウジャ出現している。彼らの中にはかなりの割合で、クライアントである管理組合よりも自分の利益を優先させる輩が混じっている。
戸数の多い物件ほど、管理組合が動かす予算も多額となり、理事長はじめ上層部が高額なキックバックを受けられるチャンスも高まるといえる
彼らは自分と同じ嗜好をもった人間を見分けるのが上手だ。理事長に"魚心があれば水心"で接近。「三社の相見積もりを取りますがA社が最安値を提示する予定です。理事会を上手くA社でまとめてくれれば理事長様には受注額の1%、300万円をバックさせます」などと打診するのだ。
先方からの申し出にすんなりOKしてしまう理事長はまだマシである。中には自らそういうシナリオを描けるコンサルタントを自分で見つけてきて、「君の指定する業者が受注できるように理事会をまとめるから、2%バックできるか?」と持ちかける理事長もいるのだ。
私が垣間見た中で最もひどい事例では、築10年そこそこの分譲マンションで起こった。
そのマンションはどう考えても大規模修繕工事など必要ないのに、強引に理事会をまとめ、総会の決議を取り付け、実施してしまった。ただし、理事長のやり方に不信を抱いた区分所有者が猛反対したため、工事実施議案の採択の際にはかなり揉めた。
そのケースでは、管理業務を受託している管理会社(大手財閥系)と理事長が裏でつるんでいたようだ。理事長は大規模修繕工事が終わった直後に混乱の責任を取るような恰好で辞任。数年後、その所有していた住戸が競売にかけられて、出て行った。おそらく、理事長の権限で組合のさまざまな支出をキックバックという形で自分の懐に還流させていたのだが、それが途絶えたので住宅ローンが払えなくなったのだろう。
■性善説の区分所有法
この事例が示すように、分譲マンションの管理組合ではいったん理事長になってしまえば、管理費や修繕積立金の何パーセントかを自分に還流させることはわりあい容易である。そして、ほぼバレない。
私自身、業者と癒着した理事長が横領や背任で摘発されたケースを知らない。前述のような手法で自分の懐を潤している理事長はたくさんいるはずだ。
現行法ではこういった「犯罪」が暴かれることはほとんどない。この国にある約704万戸の分譲マンションの何割かで、この類の実質的「犯罪」が行われている可能性がある。
しかし、なぜこんなことがまかり通っているのか? それは、今の区分所有法が「悪意の理事長」の登場を想定していないからである。理事長に選ばれた者は必ず組合の利益のために職務を遂行する、というのが前提なのだろう。
改めるとすれば、「悪意の理事長」を想定することである。組合運営に関するすべての書類や資料を、区分所有者の要請があれば閲覧可能にすることだ。そうすれば不正を働きにくくなる。
あるいは会社法並みに「監査」機能を高める手法もある。いずれにしても今の区分所有法を放置すれば、マンション管理組合で起こる「犯罪」はますます横行することになるだろう。
