RIZINの主催者、榊原信行氏。PRIDE消滅以降、8年ぶりに格闘技界に“復帰”した

12月29、31の両日、さいたまスーパーアリーナで開催されるMMA(総合格闘技)の新イベント『RIZIN FIGHTING WORLD GRANDPRIX 2015』(以下、RIZIN)。

このイベントが“PRIDEの復活”と言われる所以(ゆえん)は、PRIDEの主催者だった榊原信行氏の“復帰”にある。そこで、榊原氏へのロングインタビューを敢行!

エメリヤーエンコ・ヒョードルの復帰戦、桜庭和志vs青木真也、さらには元大関・把瑠都(ばると)のMMAデビュー戦など早くも話題を振りまいているが、榊原氏曰く、RIZINには「三本の矢」というキーワードがあるという。ひとつ目の矢は「完結」で、PRIDEを象徴するファイターたちに引退の舞台を提供するというものだったが…。(インタビュー前編「PRIDEファイターの引退の舞台をつくる」参照)

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―では、ふたつ目の矢は?

榊原 「息吹」です。ノスタルジックなPRIDEの同窓会をやって「完結」するだけでは意味がない。次につながるものを生み出していかないと。我々には次の10年、20年を見据えたスターを誕生させるという使命もある。特に今回デビューするギャビ・ガルシアというブラジルの女子選手には注目してもらいたいです。

―女性なのにシウバをスパーリングで絞め落としたという柔術家ですね。

榊原 柔術の世界選手権を14回も優勝していて、僕は女子最強ではなく人類最強だと思ってます。188㎝の長身で140㎏あったんですが、MMA転向のため50㎏減量し今は腹筋が6つに割れています。

PRIDEも、今のUFCも、すでに他団体でMMAの実績のある選手が結集するという意味での「世界最高峰」の舞台だった。だけど、これからは選手を一からつくっていくことも必要。我々は「10年後の桜庭和志」を育てていきたい。今後はレスリング協会などとも提携して、ポテンシャルのある若い選手を育成し、競技を普及していきます。

本当は「1億円争奪!」くらいにしたかった…

10月8日に行なわれた開催発表記者会見には、出場選手たちも登場。左から、青木真也、RENA、エメリヤーエンコ・ヒョードル、桜庭和志、ギャビ・ガルシア

―では、3つ目は?

榊原 「未来」です。やはり世界中の強いヤツらが目指す場所、未来に向けて輝ける場所という機能を果たしていかないと。そのためにRIZINは団体ではなくフェデレーション(連盟)として機能させたい。

―フェデレーション?

榊原 世界にはUFCをはじめ様々な団体がありますが、それらと競合するわけではなく、我々は競技会を開催する主催者になります。例えば、UEFAチャンピオンズリーグというのは、UEFA(欧州サッカー連盟)が主催する欧州一のクラブチームを決める大会ですよね。

それを世界規模で、格闘技界でもやりたいんです。世界中の団体に呼びかけて、我々の世界選手権に出ませんか?と。つまり我々のリングに上がるのは、その選手の契約先の団体が送り込んできた代表選手という形になる。

その試金石となるのが、29日に1回戦、大晦日に準決勝と決勝戦を行なうヘビー級トーナメントです。優勝賞金はたかだか50万ドルですが、今後は賞金もスケール感も大きくしていきたい。サッカーのチャンピオンズリーグなんて、優勝賞金約80億円ですからね。金額によってはUFCだって王者を参戦させると思うんですよ。今回も本当は「1億円争奪!」くらいにしたかったけど、他にお金がかかってしまって(苦笑)。

―しかしそれは、各団体にとって当然リスクも大きくなります。自分の団体のチャンピオンが負ける可能性もあるわけだから。彼らがRIZINに選手を送るメリットは?

榊原 例えば、「ONE FC」というアジアの団体は日本では知名度が低いけど、RIZINに出た代表選手の試合が世界中で中継されれば認知度も上がる。そういうメリットを提供したい。今の格闘技界の問題として、せっかく団体が王者をつくっても、UFCなどの圧倒的な資金力を持つところに引き抜かれてしまうという現状があるわけでしょう?

*「ONE FC」…2011年に設立されたアジア最大の団体。青木真也がライト級王座を保持している

―かつて、PRIDEもリングスからヒョードルらを引き抜いたり、逆に別の団体から引き抜かれそうになったりしたこともありましたよね。

榊原 そうですね。しかし、今の僕は、各団体で頑張って磨かれてきた選手はその団体の顔としてそこに置いておくべきだと思うようになりました。そして、例えばポーランド「KSW」の王者がRIZINに出るなら、ポーランドのファンが日本まで応援しに行こうぜ、となってくれれば。これはUFCには絶対にできないことなんですよ。

*「KSW」…2004年設立の欧州最大の団体。かつてPRIDEで戦ったパウエル・ナツラらが参戦

PRIDEは企業としてのディフェンス意識が低かった

―気になる国内の放送は、フジテレビによる地上波中継が発表されました。

榊原 国内的に考えると、放送パートナーがどこになるかは非常に重要ですし、フジテレビが再び我々と組んでくれるのはすごいことです。しかし、今の世界の状況に鑑(かんが)みると、日本の地上波放送をゴールにしているだけではビジネスとしては成立しない。

RIZINは全米での生中継が決定しており、9500万世帯が加入しているスパイクTVで放送され、無料で見られます。世界50ヵ国以上で放送されているユーロスポーツとも交渉している。他は韓国、ブラジル、シンガポールをはじめとしたアジア…ロシアでも生中継をしたいという話があり、まさに世界的規模の格闘技の祭典になります。

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そもそもPRIDEが消滅したきっかけはフジテレビの撤退だった。2006年6月、明確に理由を示さぬまま突然、放送を中止。スポンサーが次々と離れていき、経営が立ち行かなくなった。そこで救いの手を差し伸べたのが、UFCを主催するズッファ社。07年、PRIDEを買収し、UFCとの2大ブランドとして継続していく…はずだった。

だが、ズッファ社によるPRIDEは一度も開催されることはなかった。PRIDE買収の際、ズッファ社が榊原氏に課したのが「7年間の競業禁止」。つまり、7年間は格闘技ビジネスに関わってはいけない。今回の“復活”は、その禁が解けたことによるものだ。

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―今回、コンプライアンス的な部分はどうなっていますか?

榊原 もちろん、僕らは100%、コンプライアンスを守ります。9年前を振り返ると、まだコンプライアンスという言葉自体が出てきた頃で、僕らは企業としてのディフェンス意識が低かった…というより、当時は防御なんていう意識はなくひたすら攻め続けていた。信用力、資金力、ディフェンス力、どれをとっても企業としての成熟度が足りなかった。

―当時、「企業力」という概念は持っていた?

榊原 なかったです。ソフトとしていかに面白いものがつくれるか、そればかりで。当時は僕も40歳ちょっとで会社経営なんてしたことなくて。その点、今回は弁護士、公認会計士、税理士を含めコンプライアンスはプロに任せ、コンプライアンス室もつくって警察庁や検察庁のOBの方にも入っていただきました。ただ、あまりそこのディフェンスを固めると、何かあるんじゃないかと余計な疑いをかけられそうで、そこが歯がゆいところですが(笑)。

●この続きは、明日配信予定!

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(取材・文/“Show”大谷泰顕、編集部 撮影/山本尚明、乾晋也)