今年のキャンプでは新球種の習得や体に負担のかからない投球動作の微調整などに取り組む五十嵐 今年のキャンプでは新球種の習得や体に負担のかからない投球動作の微調整などに取り組む五十嵐

最強軍団ソフトバンクを牽引するイケメン剛腕、五十嵐亮太。いまだ進化を続けるリリーバーの秘密に往年の大投手、江夏豊氏が迫る。

前編記事「江夏豊の“親心”「亮太はあんな苦労はしなくていいのにな」では、ヤクルト時代の苦悩やメジャー挑戦の意義を明かした五十嵐。後編では、チーム最年長選手(今年37歳)として若手への接し方や江夏氏への思いを語る!

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江夏 19年目にして、そういうチャレンジをするというのは頼もしいことだよ。じゃあ、これからのあなた自身のピッチングについて、目指すところはある? 例えば、あくまでもセットアッパーが最終的なポジションなのか。それとも「もう1イニング後ろ」なのか。

五十嵐 チームの事情もありますし、その中でいかにいい仕事…チームにとっても、自分にとってもいい仕事をするかが大事だと思うんです。現状では、デニス(・サファテ)が抑えをやるのがチームにとってベストだと思うので、僕は8回という場所をしっかり守って投げ続ける。

江夏 それが今のあなたの最大の仕事だと。

五十嵐 はい。でも、気持ちの上ではクローザーは目指し続けたいですね。それに、もしデニスがケガをしてしまったような時には絶対、僕がクローザーをやるという準備はしたいです。

江夏 常にそういう用意はある、と。それにしても、ソフトバンクというチームは今、ずばぬけて強いよね。

五十嵐 よくそう言っていただくんですけど、やってるほうは、そんなにずばぬけているとは思わないです。

江夏 そうか?

五十嵐 やっぱり、ちょっとしたスキを見せたり、自分たちがベストを尽くさない限りは負けるんですよ。だから、常に自分たちが最高のパフォーマンスを出せるような準備をしていく、チームの中でそういう雰囲気づくりをしていく必要がありますね。手を抜くようなことはさせない先輩たちがいる、というのも大事だと思いますし。

江夏 そういう意味じゃ、あなたは今やチーム最年長なんだよ。そのへんの心の持ち方とか、若手に対する接し方はどう? 若手はみんな、あなたの背中を見て、ついてきているわけよ。

 江夏氏はヤクルト時代の五十嵐の苦悩を知っているだけに「今のあなたの勇姿を見て嬉しい」と絶賛 江夏氏はヤクルト時代の五十嵐の苦悩を知っているだけに「今のあなたの勇姿を見て嬉しい」と絶賛

「若い選手への接し方は神経を使います」

五十嵐 もちろん行動で示すことも大切ですし、言葉で伝えることも大切ですけど、選手によりますね。この選手にはどのタイミングでどういう声をかけるのが正しいのか、っていうのは、ちょっと神経を使います。

伝え方を間違ってしまうと、若い選手は「自分はそう思わないし」とか、ただ反発してしまうこともあるので。そのへんに神経を使いつつ、あんまり道を逸(そ)れすぎるようなら「ちょっと違うよ」と伝えるような距離感で見ていたいなと。

江夏 そこまで神経を使うようになったんなら、すごい成長だな。

五十嵐 若い頃からお話しさせていただいているので、そういうふうに感じていらっしゃるんでしょうけど、僕、もう37になるので(笑)。

江夏 ごめんごめん(笑)。

五十嵐 初めてお会いした時はクソガキでしたけど、実は僕、1年目の時に小谷コーチ(正勝[ただかつ]現・ロッテ二軍投手コーチ)に「おまえは江夏さんの投球フォームを見ろ」って言われて、動画を何百回も、本当に何百回も見たんですよ。

江夏 ふっふっふ(笑)。

五十嵐 だから、1年目のフォームは完全に江夏さんの真似だったんです。

江夏 そんなこと、今さら言われたら照れくさいよ。よし、今日の話はこれで十分。もう終わろう(笑)。

五十嵐 ええっ、もう終わりですか!? もっと話しましょうよ! もう僕に聞くことないんですか? 江夏さんが話に飽きたのなら仕方ないですけど(笑)。

江夏 また話す機会はナンボでもあるよ、これから。

五十嵐 今、すごく楽しいなと思って。技術の話とかもいいんですけど、こういうふうに一歩、二歩、深いところまで話していただける方って少ないので、なんかこう、心に入ってくるというか。

江夏 照れくさいんだって。

五十嵐 はい。なんかすみません(笑)。こんな貴重な時間、もうちょっと楽しみたかったですけど、江夏さんに嫌われたら困りますからね!

江夏 とにかく、ケガだけはしないように頑張ってよ。常に見とるからな。今日はありがとう。

五十嵐 はい、ありがとうございます!

 ヤクルト時代の五十嵐の苦悩を、江夏氏は敏感に感じていたという ヤクルト時代の五十嵐の苦悩を、江夏氏は敏感に感じていたという

●五十嵐亮太(いがらし・りょうた) 1979年生まれ、北海道出身、千葉県育ち。97年、敬愛学園高校からドラフト2位でヤクルト入団。2年目の99年から中継ぎとして台頭し、04年には当時の日本人最高球速タイ(158キロ)をマーク。09年オフにFA宣言し、メジャーリーグのNYメッツへ移籍。パイレーツ(メジャー登板なし)、ブルージェイズ、ヤンキースと渡り歩いた12年オフ、ソフトバンクと契約し日本球界復帰。一軍では一度も先発がなく、デビューから675試合連続リリーフ登板中(日本記録)。オールスター出場6回

●江夏 豊(えなつ・ゆたか) 1948年生まれ。阪神、南海、広島、日本ハム、西武で活躍し、年間401奪三振、オールスター9連続奪三振などの記録を持つ伝説の大投手。日本球界におけるリリーフ投手のパイオニアでもある。通算成績は206勝158敗193セーブ

(構成/高橋安幸 撮影/五十嵐和博)