アクロバット相撲とも称される宮城野部屋・石浦(左)、木瀬部屋・宇良(右)

小よく大を制す! だから相撲は奥が深くて面白い!! 

先日の秋場所では、ふたりの十両力士が熱い声援を受けた。ともに身長173cmと小柄な体ながら、素早い動きと巧みな技で大型力士と渡り合い、“アクロバット相撲”とも称される宇良石浦を直撃した!

■宇良「憧れの力士? 特にいないです」

大相撲秋場所直前の9月2日、両国国技館で横綱審議委員会稽古総見が行なわれた。

横審の委員、相撲協会上層部の面々が見つめるなか、早朝から番付順に稽古が進んでいく。そして、午前8時過ぎ、十両力士同士の「申し合い」稽古が始まる。

相撲を取って勝った者が、次の稽古相手を指名する申し合いは、意欲的な者でなければ、相手に“買って”もらえず、稽古ができない。土俵はひとつ、相撲を取ることができるのはふたりだけ。それゆえ、競争率は高い。

「次、お願いします!」

そのなかで、手を挙げて積極的に存在をアピールしていたのが、今場所、東十両筆頭に番付を上げた宇良(うら・24歳)である。173cm、127kgの小柄な体ながら、今年5月の夏場所、所要7場所で新十両を決めた角界の新星だ。

その宇良の横で、虎視眈々(たんたん)と申し合いのチャンスを狙っていたのが、173cm、111kgの石浦(いしうら・26歳)だ。関取最軽量ながら、昨年春場所の十両昇進から9場所連続でその地位を保っている曲者(くせもの)だ。

ふたりの小兵を取り囲んでいるのは、阿夢露(あむうる)、東龍(あずまりゅう)ら190cm超、そして剣翔(つるぎしょう)、朝弁慶(あさべんけい)ら160kg超えの十両力士たち。体重別制度のない大相撲の世界とはいえ、彼らとの体格差はあまりにも大きい。

それでも、この日、宇良は体格差などものともせず、高い競争率の申し合いで実に19番の稽古を重ねた。石浦との稽古も1番実現した。

「(普段は所属する木瀬部屋の力士との稽古なので)今日みたいにいろいろな部屋の力士と稽古できるのは、しんどいけど勉強になりますね。今はとにかく“押す”力をつけたいと思って稽古をしています」

稽古後、宇良は大粒の汗を拭いながらそう語った。7月の名古屋場所まで、負け越しはおろか、連敗すら一度もない。これまでのところ順風満帆な力士人生を歩んでいるように見えるが、本人はこう首を振る。

「(周りからはそう見えるのかもしれませんが、)何度もギリギリのところをくぐり抜けてきているんです。なんで今、ここ(プロの世界)でやれているのか、自分ではわかりません」

取材に訪れた巡業では偶然、ふたりの取組が実現。レスリングを思わせる取り口に観客も大いに盛り上がった

宇良の取り口の原点は相撲とレスリング

ぶつかり稽古を終えた宇良。当然ながら、才能だけで勝てる世界ではない

この宇良が注目を集めている最大の理由は、抜群の運動能力を生かし、小さな体から繰り出す多彩な技にある。

関西学院大時代に何度か繰り出して脚光を浴びた「居反(いぞ)り」をはじめ、「足取り」や「腰投げ」など、これまで大相撲の世界では、あまりお目にかからなかった珍手を次々と披露し、“アクロバット相撲”と称されている。

「子供の頃に憧れた力士? 特にいないです。(大型力士も増え、)昔の小さい力士が(今の相撲で)勝てるかはわからないし、時代に合った相撲を取りたい」

素っ気なく語る宇良の取り口の原点は、4歳から始めた相撲と、小学校3年生から始めたレスリングとの“二足のわらじ”にある。

高校入学とともに相撲中心の競技生活にチェンジしたものの、大学時代にはすでにレスリングの技を取り入れた奇手を披露し、大学3年時には、代名詞ともなっている居反りをレパートリーに加えた。

居反りとは、上からのしかかってきた相手の懐(ふところ)に潜り込み、両手で相手のヒザを押し上げて、後ろに反って相手を倒すという技で、レスリングの「飛行機投げ」に似ている。相撲の流れのなかでタイミングをつかむことはもちろん、足腰と背筋力の強さが伴わないと成功しない大技でもある。

決まったときの華やかさが半端でない半面、一歩間違えれば、相手に押しつぶされて、首などを痛める危険性がつきまとっている。

だが、当時60kg台だった宇良は肉体改造に取り組み、筋力をアップさせ、体重を増やし、相手を押す力をつけることによって、それを自らのものとした。そして、大学4年時には学生相撲の無差別級で3位に入った。

「この頃からですね。相撲を楽しく感じてきたのは…。体が大きくなって勝てるようになってきたら、もっと強くなりたいと思うようになったんです」

そして昨年春、関西学院大から初めてのプロ入り力士となった後も肉体は進化を続けている。

「食べ物には気をつけています。スイーツも食べませんし、お酒も飲みません」

本人はそれ以上語らないが、入門時107kgだった体重は現在、127kg。ほんの3、4年前の約2倍にまで増えた。

「やるしかないんです。これについていけなかったら、(番付が)落ちますから」

◆後編⇒『“小よく大を制す!”最軽量関取の石浦 「食べることが苦手なんです」』

●宇良(うら)本名・宇良和輝(うら・かずき)。1992年生まれ、大阪府寝屋川市出身。木瀬部屋所属。関西学院大の相撲部時代にレスリング経験を生かした奇手の使い手として大きな注目を集める。2015年3月場所の初土俵以来、先場所まで負け越しも連敗もなし。現在は東十両筆頭(自己最高位)。身長173cm、体重127kg

●石浦(いしうら)本名・石浦将勝(いしうら・まさかつ)。1990年生まれ、鳥取県鳥取市出身。宮城野部屋所属。日大卒業後、総合格闘技の道場通い、オーストラリアへの留学などを経て角界入りし、23歳で初土俵を踏んだ異色の経歴の持ち主。現在は東十両6枚目(最高位は東十両5枚目)。身長173cm、体重111kg

(取材・文/武田葉月 撮影/村上庄吾)