今年4月、ジェスレル・コラレス(パナマ)に敗れ、王座から陥落した内山高志。大晦日に行なわれる再戦にかける覚悟を前編記事に続き語るーー。
その黒星を“絶望”と呼んでいいはずだ。4月27日、内山高志はジェスレル・コラレス(パナマ)とのWBA世界スーパーフェザー級王座統一戦に敗れた。2R2分59秒、KO負け。それは、6年3ヵ月守り抜いたベルトを失うと同時に、キャリア26戦にして初の敗北だった。
さらに、長年の夢であった本場ラスベガスでの試合が遠のく敗戦でもある。37歳の内山にとって、悔やみきれない黒星。それでも元チャンピオンは、立ち上がった―。
■“渡らない”という選択肢はない
―大晦日(おおみそか)、コラレスとのダイレクトリマッチ、勝算は?
内山 ぶっちゃけ正直言うと、コラレスとの相性は悪いと思うんです。身長が低くて、踏み込みのスピードがあるタイプが苦手なことは、以前からわかっていたんで。ただ、負けたままというか、前回一方的にやられたんで、あのやられ方じゃ終われないなと。
試合で全部を出し切って、それでも「全部上を行かれたな」って負けならいいんです。でも、前回はほとんど何もやってない。それに、勝算や理屈じゃないんです。逃げたくないんですよ。なんか、しつこいんです昔から。性格がねちっこいんです(笑)。
―コラレス以外のくみしやすい相手を再起戦の相手に選ぶこともできたのでは?
内山 それは、全く考えませんでした。ただ、コラレスとやりたいだけなんで。それに、再戦に対して怖さは全くないんです。逆にワクワクします。だって、今回の試合、面白いじゃないですか。お客さんにとっても。いつもは「今日も勝つんだろ」みたいな空気がありましたよね。今回は、前回の倒された記憶が鮮明に皆さんにも残ってる。初めてかもしれないですね。「この試合、大丈夫なの!?」って空気のなかでの試合は。
だから、僕の中でも楽しみです。緊張感があって、絶対盛り上がりますよね。お客さんが楽しんでくれるのが一番なんで。
―落ちるかもしれない橋を渡るという決断は、賢くはないと言う人もいませんか?
内山 僕たちボクサーは、落ちるか落ちないかわからない橋を渡るのが仕事ですから。その橋を渡りきったひと握りのボクサーだけが、名声やお金を得て生活ができる。そもそも少ないわけです、橋の数が。その道を、みんなが先を競うように殺到するんで、当然熾烈(しれつ)な争いが生まれる。だから、“渡らない”という選択肢はないですし、渡らないならボクサーではない。
―なるほど。
内山 それに、僕は高校からボクシングを始めてますが、そもそもエリート選手じゃありませんでしたしね。だから、負けることに対して免疫もある。大学1年で同期がレギュラーになるなか、控えどころか荷物番でしたし、初めて日本一になったのも大学4年。他のチャンピオンと比べて遅いんです。
しかも、他のチャンピオンは負け数が多くてもひと桁なのに、僕だけ二十何敗。僕は何度も負けて、そのたびに少しずつ壁を乗り越え、今にたどり着いた。何度も負けたことが、僕の原点にある。だから今回も、コラレスという壁を必ず乗り越えられると思ってます。
何度倒れたって、人は立ち上がればいい
―大晦日、多くのファンも、内山選手の勝利を願っていると思います。
内山 ありがたいです。ただ、一番勝ちたいと思っているのは僕です。
―唐突な質問ですが、内山選手にとって“強さ”とはなんですか?
内山 やっぱり、どれだけ自分を持っているかってことだと思います。自分の信じたことを、周囲の意見や世間の空気に流されたり、屈せず貫き通せるか。ボクシングが強いとかどうとかなんて、強さとはまったくの別物というか。
―前回敗れたとはいえ、11度の防衛成功は日本歴代2位の記録です。その謙虚さは、どこから来るものですか?
内山 わかんないですけど、いまだにサインを求められると恥ずかしいですからね。『本当に欲しいんですか!?』みたいな。たまにいるじゃないですか、求められてもいないのに『サイン書こうか?』とか言っちゃう選手。間違っても、そういう人間にはなりたくない(笑)。
―では最後に、大晦日の一戦に期待するファンにメッセージを。
内山 勝敗まではお約束できません。でも間違いなく、挫折したって、何度倒れたって、人は立ち上がればいいという姿勢を、闘う姿をお見せできる試合をしようと思っています。応援、何とぞよろしくお願いします。
●内山高志(うちやま・たかし) 1979年11月10日生まれ、埼玉県春日部市出身。ワタナベボクシングジム所属。ニックネームは“KOダイナマイト”。2010年、WBA世界スーパーフェザー級王者となる。今年4月の敗戦までチャンピオンとして君臨。26戦24勝(20KO)1敗1分け
(取材・文/水野光博 撮影/大村克巳)