テストでもトラブルが続き、オーストラリアGPではアロンソがトラブルでリタイア、バンドーンが完走中最下位の13位だった

「今年こそ表彰台争い…」の願いもむなしく、F1復帰3年目のシーズンも厳しい船出となったマクラーレン・ホンダ。開幕前のテストからトラブルを連発し、初戦のオーストラリアGPでは最速ラップが上位勢の2、3秒落ち、最高速は10キロ~30キロも遅かった。

この深刻な戦闘力不足に対しては早くも、「アロンソがシーズン途中でチームを離脱か?」とか、「マクラーレンが再びメルセデスにパワーユニット(以下、PU)供給を打診?」といったニュースが飛び交い、さらには「ホンダがマクラーレンに違約金を支払って、今シーズンいっぱいでF1から撤退か?」といった穏やかではないウワサまで流れ始めている…。

そこで急遽、「ホンダF1救済」緊急国際会議を開催! 週プレF1解説者としておなじみ“伝説の元F1ドライバー”タキ・イノウエ氏と、イギリス人モータースポーツジャーナリストのサム・コリンズ氏のふたりを迎えて、窮地に立つホンダF1を救う策をマジメに考えてみた!!

■ホンダの戦い方はすべてが中途半端

―期待された3年目のシーズンもマクラーレン・ホンダは苦戦しているようです。

タキ 予想どおりですね。現代のF1では、仮にホンダが先行するライバルをマネて進歩しても、そのライバルがさらに進歩していたら簡単には追いつくことができません。中学受験の算数の問題でもおなじみ、「旅人算」の世界です(汗)。

コリンズ 僕も同感。だからこそ、ホンダがライバルに追いつくには「オリジナル」なアイデアが必要だ。ライバルの技術のマネや後追いをしているだけじゃ、絶対に追いつけないと思う。

―ただ、現状はそのマネすらできていないように見えます。問題はホンダの技術力不足にあるのでしょうか?

コリンズ いや、僕はむしろ経営陣の「アプローチ」に問題があると思うよ。ハッキリ言って、今のホンダF1の取り組みは中途半端なんだよ。予算も技術者の数もPU開発施設の規模も、メルセデスに到底かなわない。

ホンダは、ほかのどの自動車メーカーとも違って、「レースはホンダのDNA」をずっと掲げてきたはず。それが今やF1だけじゃなく、日本国内のSUPER GTやスーパーフォーミュラでもダメでしょう? それはホンダの経営陣がレースに「本気」で取り組んでないからだと思う。でもレースを真剣に戦わなきゃ、ホンダはホンダじゃないんだよ! 会社の経営陣がその精神を見失っているから、すべてが中途半端になっているんじゃないかな。

フェラーリが逆転し、メルセデス1強からの変化が見られた今年のF1。そこにマクラーレン・ホンダが絡む姿が見たかった!

中途半端なホンダ経営陣と技術的アプローチ

2014年からマクラーレンのレーシングディレクターを務めるエリック・ブーリエ。メディアを使い、ホンダにプレッシャーをかけている?

タキ うーん、コリンズさんはガッカリするかもしれないけど、どうやら今のホンダの経営陣の多くはレースに全然興味がなさそうですよ。何しろ八郷(はちごう)隆弘社長なんて、先日亡くなったホンダF1第1期で活躍したドライバー、ジョン・サーティースの名前すら知らなかったっていうんですから、あきれてモノも言えません。

3月に逝去したジョン・サーティース。2輪、4輪で世界チャンピオンになった伝説のドライバー。第1期ホンダF1で勝利した功績も

今やホンダの役員会では、「勝てずに恥をかいているぐらいなら、マクラーレンに巨額の違約金を払ってでもF1なんかやめちゃえ」という意見が多数派だと聞いています。それに対して何人かの役員は「違約金を払うぐらいなら、そのお金でとりあえず、このままF1活動を続けたほうが……」という意見らしいですが、まさにコリンズさんの言うとおりでそれじゃあ中途半端で、いつまでたっても勝てるわけがありません(汗)。

コリンズ 中途半端という意味では技術的なアプローチもそう。今年から、ひとりのドライバーが使えるPUは年間4基まで(5基からペナルティが課せられる)になったけど、シーズン中の開発は無制限になった。

ということは、今のPUがダメなら、あと3種類ゼロから新設計のPUを作ってもOKってこと。だからホンダはトラブルを恐れず、もっとアクティブに「攻め」の姿勢でPU開発をやるべきだ。毎レース「ドッカーン!」とPUをブローさせても構わないから、自分たち独自のアイデアで攻めて、攻めて、攻めまくる……。それを繰り返しているうちに強くなるっていうのが、かつての「ホンダ流」だったはずだ!

◆後編⇒元F1ドライバーがホンダF1に物申す!「25年以上前の栄光と重ねるから、おかしなことになる」

●タキ・イノウエ現役時代、トラブルで止まった自らのマシンを消火しようとするも、自らを助けに来たメディカルカーにはねられるというアクシデントに見舞われた。これは「F1珍事件」として今も語り継がれる。現在はモナコ在住、SNSで舌鋒鋭くモータースポーツのウラ側を語る

●サム・コリンズイギリスのモータースポーツ専門誌『レースカー・エンジニアリング』の副編集長・デジタル版編集長。F1、WECのほかに日本のSUPERGTやスーパーフォーミュラもカバー。ちなみに誕生日はタキ・イノウエと同じ9月5日

(構成/川喜田 研)