1951年生まれ、宮城県出身。66歳。仙台商高から69年ドラフト1位でヤクルトアトムズに入団。昨年まで47年ヤクルトひと筋

「なぜ今、ヤエガシ特集なの!?」と思った読者の方には、逆にこう問いたい。「あなたの中のヤエガシは今、本当に足りてますか? 間に合ってますか?」

天性の素質、朴訥(ぼくとつ)な人柄、努力する才能、度量の広さにオープンハート……。“NO OPEN, NO LIFE”--今、日本人に最も必要なもの、それはヤエガシなのだ! 

というわけで、前編記事に続き、八重樫幸雄(やえがし・ゆきお)氏の「黄金伝説」の数々を紹介!

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【黄金伝説6】岩村明憲、青木宣親を超一流に育て上げた男

ヤクルトひと筋23年間の現役生活を過ごした八重樫はこの間、三原脩(おさむ)、広岡達朗、そして野村克也の下でプレーしている。球史に残る3人の知将の下でプレーしたのは八重樫ぐらいだ。彼は今でも「三原ノート」「野村ノート」を大切に保管し、野球道を反復学習しているという。現役引退後は、それらを生かし、バッテリーコーチ、打撃コーチ、そして2軍監督などを歴任。1軍打撃コーチ時代には後にメジャーリーガーとなる岩村明憲、青木宣親(のりちか)らを徹底的に指導。飛躍をサポートした。その指導力は折り紙付きなのだ。

【黄金伝説7】「ハチ」と呼ばれて愛される朴訥な人柄

一プロ野球選手、一指導者としてだけではなく、ユニフォームを脱いだ八重樫は東北人らしい朴訥で誠実な人柄。誰からも愛される存在だった。ノムさんをはじめとする球界の大御所たちも、彼のことを八重樫にちなんで「ハチ」と呼んでかわいがり、決して言葉数は多くないものの、いつも笑顔でみんなの話を聞いている。

宮沢賢治の『雨ニモマケズ』に登場する「丈夫ナカラダヲモチ 慾(よく)ハナク 決シテ瞋(イカ)ラズ イツモシヅカニワラッテヰル」というのは八重樫のことではないかとウワサされたことも。

【黄金伝説8】ひと晩でダルマ2本を飲み干す、超酒豪

八重樫は酒の席でもいつも穏やかでニコニコ笑顔。淡々と酒を飲み干し、気がつけば通称“ダルマ”と呼ばれるサントリーオールドをひとりで2本も空にする。それでも酩酊もせず、二日酔いにもならない超酒豪。二日酔いになったのは60歳を過ぎてから。「オレも年だね。酒に弱くなったものだよ」と言いつつ、今日も豪快にグビグビ。彼の周囲には、常に笑顔が絶えない。

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そして、数々の黄金伝説を残したヤクルト・レジェンドOBの八重樫幸雄氏と、単行本『いつも、気づけば神宮に』の著者・長谷川昌一氏のスワローズ秘話を語り尽くすイベントが、7月15日(日)「週プレ酒場」で開催された。そこで、八重樫幸雄氏を直撃!

日本酒をヤクルトで割った「ストロング八重樫」を飲みながらのゴキゲンなトークショー

―八重樫さんは、オープンスタンスを体得する以前は、一本足打法だったんですよね?

八重樫 入団6年目ですかね。王さんを育てた荒川コーチがヤクルトに来て、半ば強制的に一本足をやらされたんです。荒川さんのご自宅で、パンツ一丁でバット振らされてね。

―それまでずっとスクエアで打ってきて、いきなりやらされて一本足って、できるものですか?

八重樫 それはできましたね。でも、ボールには当たらなかったですけど(笑)。

―ダメじゃないですか。

八重樫 正直、自分に一本足は合わないと思ってたけど、当時はコーチに言われたら「はい」しか言えない時代ですから。でも、打てないから二本足に戻したんですが、一本足のクセがついてしまって、全然、タイミングが合わなくなって。

―要は、フォームをバラバラにされてしまったと。

八重樫 はい。でも、終わってみれば、40歳過ぎまで現役でできたのは、あの頃の練習があったからです。とにかく振り込んだからね。

―で、その後、目が悪くなったために、どんどんオープンスタンスに。

八重樫 神宮のバックスクリーンにコカ・コーラの赤い看板が設置されたんですけど、その頃から背の高い投手のボールが消えるようになったんです。僕はあの看板のせいで乱視になったんですよ(笑)。

―で、眼鏡をかけたと。

八重樫 ええ。でも、当時は眼鏡のフレームが今みたいなノーフレームじゃなかったから、打席でボールがフレームに重なったりして、それでどんどん体が開いていったんです。

―自分でちょっと開きすぎだなと思ったことは?

八重樫 対戦投手によって調整はしたんですよ。アンダースローの投手の時は一番、開いてたかもね(笑)。

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明るく、家族的なことから「ファミリー球団」ともいわれる東京ヤクルトスワローズ。その独特のチームカラーの正体を掘り下げ多数のレジェンドOB、現役選手、首脳陣らを取材した単行本『いつも、気づけば神宮に』は絶賛発売中!

(取材・文/長谷川晶一 写真/下城英悟)