初日から力の入った見応えのある熱戦が続いている今夏の高校野球甲子園大会。
前編記事「野球部員の“やめない化”が進むワケ」に続き、マニアを唸らせる味わい深いネタを発信しつづける野球専門誌『野球太郎』の持木秀仁編集長と、同誌で執筆しているライターの田澤健一郎氏にTVや新聞からは伝わらない高校野球の最新事情を語ってもらった!
― 高校球児といえば丸刈りですが、一時期は丸刈りにしない高校が話題になりましたよね。でも最近では髪を伸ばしている球児を見かけることが少なくなった気が…?
田澤「丸刈りじゃない強豪校といえば、神奈川県の慶応義塾高(今夏、神奈川大会敗退)ですね。ここはもう、“エンジョイベースボール”の名で知られる通り、丸刈りじゃないことがチームカラーとして定着しています。
実は90年代に“脱・丸刈り”が広まりかけた時代があるんです。仙台育英(宮城代表)や天理(奈良代表)も丸刈りじゃなかった。でも、結局は定着せず、今は丸刈り。揺り戻しなのかもしれませんが、取材をしていると選手によっては昔ほど丸刈りへの抵抗感がなくなっている印象も受けます。
“高校野球といえば、やっぱ坊主でしょ”といった具合に、一種のステイタスとして受け入れられているというか。まあ、今の選手は“高校で野球をやる”と決めた時点で坊主は了解済みなんじゃないですかね。丸刈りがイヤで野球をしない、やめるというのはもっと下の世代、小学生や中学生の問題のような気がします」
― では最近、流行している“甲子園ファッション”といえば?
持木「高校野球のファッションで変わったことといえば、野球カバン。かつてはショルダータイプが主流でしたが、数年前からリュックタイプが流行しています。なぜトレンドが変わったか? 野球リュックをいち早く取り入れた遊学館(石川大会敗退)の山本雅弘監督は、就任からわずか1年4ヵ月で同校を甲子園初出場へと導いた指導力のある方ですが、その理由について『肩掛けカバンだと片方の肩に負担がかかって体のバランスがおかしくなるだろう』と言っていました。
さらにいえば、ユニフォームの胸部にある校名は以前は刺繍、もしくは圧着マーク(高校名のマークを熱と圧力で貼り付けるタイプ)がほとんどでしたが、今は印刷技術が上がって、昇華式プリントと呼ばれるものが常識になっています。これは特殊なインクでユニフォームの生地とマークを一体化させるので通気性が保たれ、ごわついたり汗で蒸れたりすることがない。やはり、昇華式プリントをいち早く取り入れた遊学館の山本監督は『刺繍だと汗や雨で濡れて重くなるが、コレだとその心配がない』と言っていました」
― TVの映像だけでは伝わらないところで、いろんな変化が起きていたんですね!
田澤「最近は帽子も変わってきていますね。野球界では帽子のツバを曲げず、真っ平らにする選手が増えていて、DeNAの筒香(嘉智)選手や広島の菊池(涼介)選手も真っ平ら。日本ハムの西川(遥輝)選手もそうですが、『視野を広げるため』と話しています。まだ少数派ですが、高校球児の間でもチラホラ見かけるようになってきて、今回の甲子園出場校でいえば、秀岳館の選手は昨年から見かけますね。
今どきの高校生全般にいえることかもしれませんが、彼らはヒップホップが身近なんですよ。物心ついた時から日本語ラップが当たり前にあった世代だし、取材をしていても、最近の高校球児はヒップホップ好きが多いんだなと実感する。ラッパーってキャップのツバを真っ平らなまま被るスタイルだから、その影響もあるんじゃないかと(笑)。
ピンチの時に笑っている選手が増えた理由
― 逆に、甲子園では帽子のツバを山型に激しく曲げている選手も見かけますよね?
田澤「元々、ツバはそんなに曲げないスタイルが一般的だったんですが、帽子のツバを激しく曲げる“甲子園ファッション”の走りだったのが、94年夏の甲子園準優勝投手で、そのルックスから当時アイドル的な存在になった樟南(鹿児島大会敗退)の福岡真一郎投手といわれています。以来、帽子のツバをグッと曲げる選手が激増して定番化しましたが、来年あたりは帽子のツバが真っ平らな選手が目立つようになっているかもしれませんね」
― バットやグラブやボールなど高校野球グッズの今どきの事情は…?
持木「バットは大きく変わっていますね。少し古い話になりますが、まず、91年に甲高い音が出ない“消音バット”が高校野球で採用されるようになりました。その理由としては『カキーン!』という金属音が選手や球審に聴力障害をもたらす恐れがあることが判明したこと、練習場の周辺の住宅地への騒音を配慮したことが挙げられます。
そして現在、高校球児が使っている消音バットはその当時から比べればかなり重たくなっています。2000年代初頭に『900g以下』の軽量バットの使用が禁じられたため。それまで重量については規定がなかったのですが、メーカー側の開発で金属バットの軽量化と反発力アップが格段に進んでいった。その結果、『高校野球としては打球が強すぎて危ない』と高野連が問題視するようになり、重量規制が導入されたというわけです」
― ちなみに最近、甲子園をTV観戦していて非常に気になることがあるのですが…ピンチの時に笑っている選手が増えていませんか?
田澤「今が特別多いかはわかりませんが、まあ、いますよね。理由として考えられることは監督の指導方針の多様化でしょうか。特に若い監督にありがちですが、選手にのびのび野球をやらせるために必勝ではなく“必笑”、常勝ではなく“常笑”といった言葉を根づかせる人もいます。高校野球の指導って自己啓発的な教えを好む傾向があるな、と思います」
持木「今の高校生は小さい時からビデオやデジカメ、スマホで写真を撮られることに慣れている世代ですからね。ピンチに陥っても、ある意味、カメラ映りを気にするくらい心に余裕を持っているというか、自分を客観的に見ている。『今、すっげーピンチなんだけど、笑っているオレ』みたいな(苦笑)。伝令部員がマウンド上で顔芸とかで選手を笑かそうとしているのを見ると、『あ、きっとこの選手は「熱闘甲子園」で取り上げてもらいたいんだろうなぁ』なんて思ってしまいます。あくまで私の主観ではありますが(苦笑)」
― では最後になりますが、優勝時に人差し指を空に突き上げるポーズ、そろそろ変えれば?って個人的に思っています。
田澤「“人差し指ポーズ”は04年の86回大会、駒大苫小牧(南北海道大会敗退)が全国優勝を決めた時にやったのが始まりで、今では甲子園だけでなく地方大会でも定着していますが、残念ながら、次に流行りそうな歓喜のポーズは地方大会でもまだ出てきていませんね(苦笑)」
こうした視点で球児たちの熱闘を眺めると、また違った楽しみ方にもなるのでは。果たして、この夏はどんな名シーンが飛び出すか? 甲子園から目が離せない!
(構成/興山英雄)