名実ともに"球界ナンバーワン左腕"に成長した菊池雄星。「小学生のときから著書を読み、憧れの大投手だった」と語る"レジェンド左腕"江夏豊氏との初対談が、『週刊プレイボーイ』本誌の「江夏 豊のアウトロー野球論」にて実現。

コントロールの極意や後輩・大谷翔平への思いなどを明かした前編に続き、エースとしての自覚から今年の目標まで語った!

■開幕投手に課せられた自由と責任

江夏 あらためて昨年、16勝で最多勝、1・97で防御率のタイトルを獲って、奪三振はリーグで2位というのは立派な成績だよな。どう? 周りの見る目も変わってきた?

菊池 変わったと思います。特に若手からは、いろんな質問をされることも増えました。

江夏 そのあたり、若い人が自分の背中を見てるな、と感じる?

菊池 はい。去年まではあまり感じていなかったんですけど、今年に関しては、変なことをしたらまねされてしまいますし、手を抜いてもまねされてしまいます。なので、常に見られているという感覚は持ちながら、振る舞いだとか、言動も注意していかなきゃ、ということはあらためて肝に銘じたいと思います。

江夏 ああ、いいことだ、いいことだ。そうして人間、成長して大きくなっていくんだからね。ただ、数字に関しては、去年の数字といってももう過去のものなんだ。またゼロからのスタートになるが、今年はどうだろう?

菊池 本当に勝てる保証はどこにもないので、またゼロからつくっていかなきゃいけない、という自覚はあります。でも、いいオフの過ごし方ができましたし、自信を持って臨めると思います。

江夏 そんなあなたに対して、あらためて、辻監督が全幅の信頼を置いているんだよね。今日、ブルペンで話をして強くそう感じたんだけど、ふり返れば去年の今頃、南郷キャンプに来た自分にまず監督が第一声で話したのがあなたへの期待だった。それともうひとつ、まったく無名に近かった源田という新人を「開幕から使いますよ」と言っていた。

実際、ものの見事に使って、新人王を獲らせたんだよね。そういう意味では、辻監督はすごい目を持っていると思うよ。現役時代、西武で"同期"だった自分としてはうれしい気持ちもある。

菊池 同期だったんですか?

江夏 辻選手が新人で西武に入ってきた年、自分が日本ハムから西武に来たからね。言ってみれば、当時の西武では"同期の新人"じゃない? そんな間柄で今もけっこう親しく話をするんだよ。それで、監督からもう聞いたか?

菊池 あっ、開幕ですか?

江夏 そう。

菊池 伺いました。

左バッターをいかに抑えられるか

江夏 ようし(笑)。開幕投手を監督から通達される、ということはピッチャーにとって一番「エースの自覚」になるんだよな。これが一番の、信頼度の高さの表れだと思うし、言われたほうはそこで初めていろんな意味で責任というものが生まれてくるんだよね。

菊池 責任は感じますね。

江夏 うん。責任ということは、開幕日に備えて、すべて自分で自由に調整していくことでもあるよね。例えば、オープン戦に投げるイニング数、球数といったものを全部、自分で計算して。大変は大変だけど、自由にやるほうが身になるし、自由の裏返しとして責任があるんだから。開幕日、楽しみにしているよ。

菊池 ありがとうございます。

■先発したらマウンドは降りたくない

江夏 投球内容に関して、昨年からどこか変えたところはあるかな?

菊池 今、フォークを少し練習しています。今までカーブとスライダーの2球種がメインだったので、今年は落ちる球のフォークを磨いていきたいなと思っています。

江夏 去年は放っていなかったの? フォークは。

菊池 投げるとしたら、1試合に2、3球ぐらいですね。それも点差がついたときのツーアウトランナーなしとか、そういう限られた場面でしか投げることはなかったです。

江夏 現代はバッターの技術がかなり高度になってきているから、真っすぐ、カーブ、スライダーだけで抑えることは難しいよな。今年は思い切って、怖がらないで、チャレンジしていくといいよ。

菊池 やってみます。

江夏 そして、これはあなたにとってあまり聞きたくない話だと思うけれど、昨年は16勝を挙げた割に、ひとつの球団にかなり負けているんだよね。

菊池 はい......。

江夏 ソフトバンクにプロデビュー以来1勝もできずに12連敗。なんでだ?

菊池 いろんな原因があると思います。僕自身も把握できていないところが......。

江夏 ふっふっふ(笑)。

菊池 映像を見返しても、クセはまったく出ていないし、理由はわかりません。ただ、いい左バッターが多いんで、左バッターをいかに抑えられるか。勝つためにはそういうことが大事になるんじゃないかと思います。

目標は200イニング

 昨年以上の成績を残すべく、今年はカーブとスライダーに加え、フォークを磨いていく 昨年以上の成績を残すべく、今年はカーブとスライダーに加え、フォークを磨いていく

江夏 うーん。特にその、対ソフトバンク戦に限って制球が乱れる、ということもなければ、特別に苦手なバッターというのもいないんだろう?

菊池 もう、満遍なく打たれています(笑)。

江夏 満遍なくか(笑)。じゃあ、今年は満遍なく抑えて、12連敗でストップして、勝ち星を挙げられるように。

菊池 わかりました。

江夏 今年の目標は?

菊池 長いイニングを投げたいです。200イニングをひとつの目標にしています。

江夏 年間200イニングちゅうことは、年に28試合先発するとしても、1試合に7回以上は投げないと。

菊池 そうですね。「雄星が投げる試合は中継ぎ、抑えの方を休ませる日だ」って言われるぐらいになりたいです。実際、そんなふうに言われていた涌井さん、岸さんを見てきて安心感があったので、僕もそういうピッチャーになりたいなと思います。それで僕、江夏さんの本を小学生のときから読んでたんです、実は。

江夏 ありがとうな(笑)。

菊池 えへへ(笑)。その本に、「先発したらまず最初に狙うのは完全試合、次にノーヒットノーラン、完封、完投」と書かれていて。その心構えはすごく必要だなと思っています。本当に、先発したらマウンドは降りたくないんで。できる限り、9回までマウンドに立っていたいです。

江夏 結果はどうであれ、その気持ちが大事なんだよ。

菊池 そう思います。

江夏 常にそういう気持ちでボールに相対して、ケガをしないようにがんばってくれよ。

菊池 がんばります!

江夏 よっしゃ、今日はありがとうな。

 憧れの大投手である江夏豊氏から 憧れの大投手である江夏豊氏から

(構成/高橋安幸 撮影/五十嵐和博)

●菊池雄星(きくち・ゆうせい) 1991年生まれ、岩手県出身。花巻東高校では3度甲子園に出場。1年夏に1回戦敗退、3年春に準優勝、3年夏に準決勝敗退。2010年、ドラフト1位で西武ライオンズに入団。2011年6月30日のオリックス戦でプロ初勝利。2013年4月13日の楽天戦で初完封を達成し、オールスターに初選出。2016年には初めて開幕投手を務め、自身初の2桁勝利を達成。2017年は1.97で最優秀防御率、16勝で最多勝を獲得。奪三振は1位の楽天・則本昂大と5個差のリーグ2位だった

●江夏豊(えなつ・ゆたか) 1948年生まれ、兵庫県出身。阪神、南海、広島、日本ハム、西武で活躍し、年間401奪三振、オールスター9連続奪三振などのプロ野球記録を持つ、伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ。『週刊プレイボーイ』本誌で「江夏 豊のアウトロー野球論」を連載中