角界期待のホープ「寺尾2世」、西前頭二枚目の阿炎政虎。

今年の初場所から幕内で2場所続けて10勝を挙げた、期待のホープ。

TVインタビューでは天真爛漫な笑顔を見せ、時にはカメラに向かってピースサイン。そして、夏場所6日目の18日には横綱・白鵬から金星奪取!

前編記事に続き、“相撲界のニュータイプ”阿炎政虎(あび・まさとら)を直撃した!

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「あの頃の阿炎は、慢心以外の何物でもなかったんじゃないですか?」

当時をふり返って、錣山(しころやま)親方はこう突き放す。

「(15年九州場所で)幕下に落ちることは想定内でした。だって、私があれこれアドバイスをしても、何も言うことを聞かないんですから…。でも、横綱・鶴竜の付け人を務めたり、部屋の力士から厳しいことを言われたりするなかで、コツコツやっていくことを学んだのだと思います」

こうして阿炎は、昨年の名古屋場所で十両に復帰。続く秋場所では10勝し、4人による十両優勝決定戦に臨んだが、緊張するであろう土俵下で笑顔を見せるなど、リラックスモード。そして見事、優勝を決めると「僕は明るい性格なので、相撲を盛り上げようと思った」と笑顔の理由を語った。

さらに今年初場所、待望の新入幕を決めると、阿炎のビッグマウスがさえ渡る。

「初場所では、三賞(殊勲賞、敢闘賞、技能賞)を全部取ります」

記者会見でこう言い放ったのだが、これは相撲界ではかなりのレアケース。しかもこのとき、角界は元日馬富士(はるまふじ)の暴行問題が発端となった騒動に揺れ、メディアは連日、大相撲の話題を報道していた。阿炎は言う。

「新入幕のときは、不祥事の影響で記者さんが多かったから驚きました。でも、そういう場で大きいことを言って成功したら目立つじゃないですか? 自分を盛り上げるためにもああいう発言をしたんです」

そして、この場所、阿炎は10勝5敗で敢闘賞を受賞。公言した三賞トリプル受賞こそならなかったものの、阿炎の存在は全国区となった。

ファンサービスもしない力士ってプロとしていいのかなって思うんです

阿炎政虎の師匠、元関脇・寺尾。

続く春場所も戦闘モード全開。初日は白星を飾ったものの2日目に魁聖に敗れると、

「全勝優勝を狙っていたのに…。今日、負けたことは、記憶から消します」

と、悔しがる。その後は高熱が出た影響もあって、11日目を終えて6勝5敗となったが、そこから4連勝し、初場所に引き続き2桁、10勝をマークしたのだ。

「(ライバルで、友人でもある)阿武咲(おうのしょう)は3場所連続で2桁勝っているので、絶対に負けたくなかったんです。今場所は三賞はカスリもしなかったけどね(笑)」

と、どこまでも、現代っ子の阿炎。だが、そうした言われ方は本人的には不満らしい。

「僕は現代っ子、現代っ子っていわれますけど、現代に生きてるんだから、現代っ子に決まってるじゃないですか。あと、大人たちは『ゆとり世代だから、いいよなぁ』とか言うけど、『ゆとり』をつくったのは皆さんたちじゃないかって思うんですよね」

ビッグマウスといわれることに対しても、

「自分は決して大きいことなんて言ってないんですよ。本場所に行って、負けるつもりで相撲を取っている力士なんて、誰ひとりとしていませんよ。誰もが思っていることを、正直に言っているだけです。逆に何も言わない、ファンサービスもしない力士ってプロとしていいのかなって思うんです。ファンがいなかったら相撲界は存続できないじゃないですか。これ、全部、書いてもらっていいですよ」

と、意に介さない。そんなところも阿炎の魅力なのだ。

5月13日から始まった夏場所では、初めての横綱、大関戦が組まれる。

「(以前、付け人を務めた)鶴竜関との対戦が今から楽しみです。横綱は僕の相撲を全部わかっているので、ビビらないで思いっきり向かっていくだけ。そして将来的には、師匠(の最高位=関脇)を超えることが目標ですね。僕にとって師匠は憧れの存在でもあるので、師匠に取り口が『近い』と言われることはうれしいんですが、『似てる』っていわれるのはちょっと違うんですよね(笑)」

現役時代の寺尾は、土俵上での美しい所作にこだわった力士でもあった。

「夏場所では僕の所作と、足が高く上がる四股を見てもらいたいです」

ニュータイプの力士、阿炎に大注目だ。

(取材・文/武田葉月 撮影/ヤナガワゴーッ!)

●錣山親方(しころやま・おやかた)1963年生まれ、55歳。現役時代は元祖イケメン力士として人気を博し、最高位は東関脇。引退後、04年に錣山部屋を創設した。

●阿炎政虎(あび・まさとら)1994年5月4日生まれ、24歳。埼玉県越谷市出身。本名、堀切洸助。身長187cm、体重140kg。得意技は突き、押し。初土俵は2013年5月。最高位は西前頭二枚目(2018年五月場所)。好物はシーフード味のカップ麺。