スケートボード・女子パーク東京五輪2020金メダリスト・四十住さくら選手が「X Games」に出場!

"天真爛漫"という言葉が、まさしく彼女にふさわしい。四十住(よそずみ)さくら、20歳。昨年の東京五輪2020のスケートボードで、金メダルを獲得。4月22日(金)より、日本で初の開催となる「X Games」に出場、そこでも頂点を狙う。

「優勝する自信はある」と言い切る天才がたどってきた道程、将来の夢など、これまで明かしたことがないエピソードや本音に人気スポーツキャスター・中川絵美里(なかがわ・えみり)が迫る。

■五輪決勝で見せた大技はほぼ、ぶっつけ本番

中川 東京五輪2020の決勝では、1本目の最後に空中で体を1回転半させる「バックサイド・ファイブフォーティー」(以下、「540」)を連発する肝の太さと勝負強さを見せつけていました。あれほどの大技、しかも連続となれば、それまで相当練習を重ねて、実戦でも何度か成功させてきたんですか?

四十住 いえ。ぶっつけ本番というか。しかも、練習の段階では「540」を連続させるのは1回しか決まったことがなかったんですよ。

中川 え!? 

四十住 本当は、「540」は間に(ほかの技を)入れる予定やったんですけど、失速するし、ちょっとハイエア(高さのある滞空)がないからどうしようかと。でも連続で「540」をやる選手はおらんから、連続でやってみようって、決勝の前日に決めて。

中川 前日ですか! それって、かなりの冒険ですよね。

四十住 そうですね......。それまで、ひとつずつやったことはあったけど、連続でやるのは五輪の決勝本番を含めて2回ぐらいでした。

中川 それでも、絶対やってやろうと。

四十住 本当は3本目にやる予定だったけど、予選の後の練習で肉離れを起こしてしまいまして。3本目にやったランを当初の予定では1本目にやるはずだったんですけど、ケガしている脚を使うトリック(技)やったから、じゃあ「540」の連続を先にやろかって、1本目にやったんです。

中川 肉離れは当然治っているわけでもなく......。

四十住 痛かったですよ、腫れてたし(笑)。

中川 そこは、気合いで?

四十住 はい、気合いで(笑)。

東京五輪決勝ではケガをしながらも見事なトリックを連発。スケートボードパーク部門初代女王に輝いた(写真/YUTAKA/アフロスポーツ)

中川 世界王者のサンドロ・ディアス選手(ブラジル)から初めて「540」を教えてもらったときは怖さがあったとおっしゃってましたが、その恐怖心はどうやって克服して技をものにしたんですか?

四十住 ひたすら練習でした。毎日100回ぐらい回ってましたね。でも、なかなか乗れやんし、怖さにも勝てやんから、自分に対して悔しくて悔しくて。それやったら、すでに持ってる技を究めたほうがいいんちゃうかって思って、一時期はもうやめようかと。

中川 その思いを踏みとどまらせたのは?

四十住 五輪が延期になったことで、練習時間が確保できたことですね。コロナ禍で大会もなかったですし。思いがけず1年近く、じっくり練習できたわけです。毎日やり込んでいたら、いつかは神様が乗せてくれるやろって。

中川 マスターするまでに、どのくらいかかりました?

四十住 結果的に2年近くかかりました。本番で成功できたから、本当に良かったです。

金メダル効果で、食事も寝床も激変!

中川 五輪を経験する前と、その後では周囲の環境や反応を含めてだいぶ変わりました?

四十住 自分は特に変わってないんですけどね、でも、急に"友達"が増えました(笑)。

中川 それは......あんまりよく知らない人からも連絡が絶え間なく来たという感じですかね。金メダルを獲(と)ったこともあって、LINEやメールなどでの祝福も相当だったのでは。

四十住 160件ぐらい。とりあえず、全員に「ありがとう」って返しておきました。

中川 えらい!

四十住 表彰式の最中も、着信履歴がひっきりなしで。後で控室に戻ってきて携帯電話を見たら、すごいことになってました。中継を見ればわかるやろ、電話に出られるわけないやんって思いました(笑)。

中川 反響がすさまじいですね。

四十住 大会後のインタビューで、焼き肉が食べたいって言ったら、皆さんが連れていってくださったり......。朝昼晩、3食焼き肉という日もありました。

中川 大会期間中の選手村でもすごかったですか?

四十住 そうですね、部屋から一歩出たら囲まれてしまって。各国の選手とバッジ交換するのが選手村での慣習みたいで。金メダルを獲った日の夜は、食堂まで普通は3分で行けるのに、15分もかかってしまうぐらい大行列で。結局、部屋に引き返して、カップ麺を食べて寝ました。

四十住さくら(左)×中川絵美里

中川 まさに金メダル効果ですね。そのなかでも、とりわけうれしかったことはなんでした?

四十住 五輪後、遠征先のホテルの部屋がグレードアップしたこと! それと、五輪の開催前に地元の和歌山で有名な時計専門店のオオミヤさんから凱旋(がいせん)パレードの提案を受けて。

「結果を気にせず、五輪を楽しんできてください」って。その言葉がすごくうれしかったです。「さくらちゃんを見てスケボーを始めました」っていう子供たちの声もうれしかったですね。

中川 どの選手も、五輪の緊張の度合いは別格だと。四十住選手はいかがでしたか?

四十住 すごいすごいってみんな言ってたけど、私は出るのが初めてやし、大舞台という意識はそこまでは......。確かに選手村に入ったら、今までのイベントとは少し空気が違うと感じたけど、やっぱりピンとこなくて。ただ、五輪が終わった後で、すごい大会に出たんやなって、肩の力が抜けましたね。無意識のうちに「日の丸」を背負っていたんやなって。

■日本一になるため、母から受けた特訓

中川 四十住選手の強さの源流について知りたいです。お兄さんの影響で、小6で始める前はほかのスポーツをやっていましたか?

四十住 全然。むしろ、体育の授業とか嫌いやった(笑)。

中川 私の勝手なイメージなんですけど、スケートボードは運動神経が良くないと難しいのかなと。

四十住 あまり運動神経は関係ないと思います。好きか、嫌いか。私は好きやから。

中川 親御さんは、スケボーを始めることに関しては?

四十住 反対でした。「やっぱり男のコのスポーツやし、女のコがやったらあかん」と。当時は、少しヤンチャなイメージを持たれてしまっていたし。今でこそ五輪の種目になったから、スポーツとして認められるようになったけど。

中川 どうやって説得を?

四十住 日本一になるまで頑張るって宣言したんです。そしたらお母さんが、「日本一になるためには毎日こういうメニューをやらなあかんよ」って、メモを渡してきて。

中川 お母さんがメニューを作るってすごいですよね。

四十住 基礎というか、例えば、ペットボトルを飛び越えるジャンプを50回とか。それを毎日続けられるんだったら、お母さんも応援するって。それから毎日、夜遅くなっても、その課題が終わってなかったら公園とかに行ってやってたんです。私がやめたいって言わないから、お母さんも帰りたいって言わない。

四十住さくら(左)×中川絵美里

中川 お母さんがずっと付き合って、見守ってくれた。

四十住 そう。それから一回もやめたいって言わないでずっと続けてきたから、おかげさまで今に至りました。

中川 当時、その課題をクリアするといっても、そう簡単にできるものではないじゃないですか。心が折れたりとかは?

四十住 日に日に上達しているのが実感できたから、それが楽しくて。ひとつひとつ課題をクリアしていくのも魅力に映ったんです。それに、お母さんからはできやんことをやれって言われてなかったし。

中川 やればできると信じて続けたんですね。学業との両立も大変でしたよね?

四十住 学校に行く前、朝6時に起きて、家の前で練習やって、お兄ちゃんにうるさいとか言われて(笑)。で、学校行って午後3~4時に帰ってきて、5~7時まで塾へ行って、そこからパークに行って、夜中の1時、2時まで練習しての繰り返しでしたね。

中川 睡眠時間が......。それでもつらくはなかったですか?

四十住 全然。当たり前やと。

中川 練習場へ通う車中でもスケボーの動画を見ていたそうですね。

四十住 見ながら寝てた(笑)。

中川 そこまでスケボー漬けの日々だと、例えば学校とかではやりの話題についていくことは......?

四十住 全然ついていけなかったです(笑)。今でもそうです。でも、人と違う生活をするのもいいかなって。普通の生活はいつかできるし、アハハ。

四十住さくら

■王者であり続けるための"さくら式"セオリー

中川 続いてお聞きしたいのは、強さの秘訣(ひけつ)です。五輪での裏話をお聞きして、ここは無理しない、ここは勝負どころという見極めがすごいなと。セオリーがあるんですか?

四十住 技をいっぱい入れ込んで、100パーセントガチガチにいくと、どこかで失敗すると思ってるから、80パーセントぐらいで滑るのが一番気楽なんですよね。

中川 腹八分がちょうどいいし、調子いいと。その嗅覚はいつから備わっているんですか?

四十住 私、初めて大会に出たときからずっとライン(トリックの構成)は自分で考えてるんです。選手によってはコーチが組んだり、お父さんが組んだりしてる場合もあります。でも、自分のことは誰よりも一番自分がわかるわけですよ。だから、私は自分で決めてますね。

中川 勝負へのこだわりのポイントはありますか?

四十住 技をゴチャゴチャ入れると、無駄に頑張っちゃってるようであんまり美しく見えないという考えがあって。きれいに余裕で滑ってるようにするために、流れるようなメイク(構成)をしています。

中川 技のレパートリーって100種類ぐらいあるじゃないですか。コーチもつけないなかで、どのように習得したり生み出したりしていくんですか?

四十住 SNSで技の動画を見たりだとか。あとは、技の組み合わせ方でこれは前例がないっていうのを考えたり。

中川 なるほど。パークを滑る以外のトレーニングは?

四十住 してないです。

中川 基本、ひたすらパークで滑るわけですか。

四十住 だって、6時間も滑った後に筋トレとか入れたら、さすがに死にますよ(笑)。よけいな筋肉をつけて、動きが鈍くなったら意味ないですしね。

中川 パークについて、さらに伺わせてください。北京冬季五輪で活躍した平野歩夢(あゆむ)選手はスノーボードとスケートボードの二刀流ですが、スケートボードにおいて、パークとストリートの二刀流は、目指そうと思えばできるものですか?

中川絵美里

四十住 目指そうと思えばできなくはないけど、私は目指そうとは思わないです(笑)。

中川 別モノですか?

四十住 ええ。一応、私、ストリート部門では、日本一に2回なっているんですけど......。

中川 そうですよね、2016年と17年に優勝されていますよね。

四十住 当時、ストリート部門で男子に交じって8位以内に入賞すれば、プロ入りが確約されたんです。プロを目指すにはまずストリートをやらなければならなかったんですよ。パーク部門はなかったですしね。ただ、パークに似た凹の形状のハーフパイプだけはあって、それが好きだったんです。

中川 パークが好きな理由はなんですか?

四十住 滑っているときの感覚もそうですけど、スケボーを始める際に、お母さんとの約束でパッドを必ず着けるというのがあって。ストリートだと、パッドを外している人が多いんですけど、レールなんて、転んで頭ぶつけたら危ないじゃないですか(笑)。

パークも高さがあって滞空時間が長いから危険はあるけど、そのぶんパッドを義務づけられるので、安全面でもパークが好きですね。

中川 パークに専念してからはすんなりなじめましたか?

四十住 最初は飛ぶ=エアが苦手で。慣れるまでにめっちゃ時間がかかりました。

中川 東京五輪でパーク部門が種目に決定してからはまだ日が浅かったこともあり、短い調整期間で大変でしたよね。

四十住 でも、東京五輪で(西矢[にしや])椛(もみじ)や堀米(雄斗)くんも金メダルを獲って盛り上がったし、国内にも徐々にパークが増えているから、次のパリ五輪を目指そうと思ってる子たちにとっては環境、条件がいいと思います。あと2年は練習できるから、日本全体のレベルが上がるのが楽しみですね。

中川 堀米選手に取材したとき、アメリカはパークの数も、ストリートの理解度も日本とは比較にならないと。四十住選手は日本にいて、そういう意味での難しさというのは感じたことはありますか?

四十住 私が参戦しているパーク部門は専用施設で行なっているので。確かに、競技とは関係ない普通の建物の手すりや階段で滑るのはあかんけど......。ゆくゆくは、自転車のような移動手段としては許してほしいなって思います。

中川 そんな状況でも東京五輪ではメダルラッシュでした。日本は"スケボー大国"と言っても過言じゃないです。強みはどこにあると思いますか?

四十住 パークに限って言えば、日本って、各施設まで遠い。まだまだ数が少ないから。それに使用料もかかるし。だから、パークに行ったら全力で練習するという意識が高いですよね。

海外の人は、パークが身近すぎて遊び半分で練習している人も多い印象なので。限られた環境、条件だからこそ真剣に取り組むのが、日本の強みだと思います。

1月の成人式での写真。「メダリストになれたことで注目してもらえ、会いたい人にもだいたい会えた」。次に会いたい人を尋ねると、「キムタク。松潤、ニノも会いたい。そしたら、嵐は制覇(笑)」。競技を離れれば、素朴な20歳の女のコだ(写真提供/ベンヌ)

■新技は10以上。「X Games」で優勝を

中川 今や、"無双"のポジションにいる四十住選手ですが、いよいよ「X Games」が日本で開催されます。

四十住 スケボーやってる人なら誰しもが絶対に出たいっていう憧れの舞台ですからね。日本で開催されるわけだから、絶対勝ちたいです。

中川 18年のアメリカのミネアポリスでの大会が初めての出場、銅メダルを獲得しました。

四十住 会場内はすべてが英語やから、いつ始まんのやろなって(苦笑)。友達もおらんし。自分のペースでいけなかったんです。だから、普段なら絶対に失敗しいへんところで2本失敗して、最後の1本をとりあえず滑り切って。力が出せなかった。だから今回は、自分の持てる力を全部出し切ることが目標です。

中川 ちなみに、そのために用意している技とか、新しい技とかは考えていますか?

四十住 新しい技もいっぱいあって、どれを出そうかっていう。10以上あるんですよ。

中川 10以上! 贅沢(ぜいたく)な悩みですね。では、自信はバッチリということですね。

四十住 あります!

中川 「X Games」の先の目標はなんですか?

四十住 次のパリ五輪で2連覇を達成したいです。

中川 いろいろな大会に出場しつつも、やっぱり、次の五輪も出たいというわけですね。

四十住 はい。出られるなら、ぜひ。そして勝ちたいですね。次は自国開催のプレッシャーがないから、もっとリラックスして滑れると思います。

中川 夢はありますか?

四十住 同じ夢を持った子供たちを応援してあげたいです。

中川 「さくらちゃんのようになりたい」という次世代の選手を自らの手で育てたい、と。

四十住 はい、実はもうすでに4人ぐらい弟子がいます!

中川 すごい! 教えるのは楽しいですか?

四十住 めっちゃ楽しいです。子供に教えることによって、自分のこともわかるから。

中川 人に教えることで気づきがあるわけですか?

四十住 はい。例えば、子供たちから「ランのときどこ見てるん?」って聞かれて、そういえば、自分はどこ見てるんやろって、気づかされます。

中川 ちなみに"さくら先生"の教育方針というのは?

四十住 五輪でスケボーが注目されたせいか、スケボーやってる子の親御さんのなかには、スパルタに一変した人もいるという話を聞くようになって。スケボーってそういうスポーツじゃないと思うんです。

私は勝ちたいし、五輪にも出たいけど、あくまで基本は楽しく滑りたい、それだけです。楽しく滑ってきた結果が今の私やから。私のお母さんも「結果ダメでもいいから、楽しく、ケガなく滑りなさい」と。

中川 厳格な指導だと、子供は潰(つぶ)れてしまうわけですね。

四十住 そうです。小学生になるかならんかぐらいの子が、技ができなくて、怒られて、泣きじゃくる姿は見たくないです。うまくはなるだろうけど、そこに楽しさはないだろうって。

中川 その点、四十住選手のお弟子さんは、スケボーの本来の良さを伸び伸びと学んで。

四十住 はい! ある子は、4歳ぐらいのときから5年ほど教えてきて、小学生以下の大会で優勝しました。もし、その子が五輪の代表に選ばれるとしたら28年のロス大会ですかね。

中川 師弟対決になるかもしれませんね!

四十住 どうやろう、でも、まだまだ勝てやんかな、さくらには(笑)。

●四十住(よそずみ)さくら
2002年3月15日生まれ、和歌山県出身。兄の影響で、小6でスケートボードを始める。18年には日本選手権、アジア大会、初開催となった世界選手権の3大会すべてを制して女王に。さらに、21年にはアメリカ・アイオワ州で開催された国際大会「デュー・ツアー」のパーク女子で優勝。同年の東京五輪2020でも金メダルを獲得、紫綬褒章も授与された

●中川絵美里(なかがわ・えみり)
1995年3月17日生まれ、静岡県出身。フリーキャスター。昨年まで『Jリーグタイム』(NHK BS1)のキャスターを務めたほか、TOKYO FM『THE TRAD』の毎週水、木曜のアシスタント、同『DIG GIG TOKYO!』(毎週木曜27:30~)のパーソナリティを担当

スタイリング/武久真理江(中川) ヘア&メイク/小嶋絵美(中川)
衣装協力/TELA ATELIER BRUGGE

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