オグマナオトおぐま・なおと
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。
昨季は2年連続でパ・リーグ最下位に沈んだものの、投打共に若手が急成長した北海道日本ハムファイターズ。積極的な補強でオフから話題を振りまく新庄体制3年目の今季、いよいよ逆襲なるか!?
キャンプインが迫るプロ野球。今オフ、12球団で特に選手補強に積極的だったのが2年連続最下位、5年連続Bクラスの北海道日本ハムファイターズだ。エース上沢直之のポスティング移籍こそあったものの、FA戦線では加藤貴之が残留し、6球団による争奪戦の末、山﨑福也(さちや)を獲得。
さらに、新たに6人もの外国人選手と契約し、勝負の3年目に挑む新庄剛志監督を全面バックアップしようという球団の意気込みが感じられる。なぜ、今オフの日本ハムはここまで積極的になれたのか?
「新球場『エスコンフィールド北海道』への移転効果が早速出ました。札幌ドーム時代は経営が厳しく、選手は出ていく一方の"売る側"のチームでしたが、エスコンと周辺施設の『北海道ボールパークFビレッジ』の昨年の予想営業利益は26億円に。
その金額をしっかり補強に回せるようになりました。日本ハムのこの姿勢は来年以降も続いていくでしょう」
こう語るのは本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏だ。では、その補強は「チーム成績」に結びつくのか。新加入選手たちの特徴と共に解説していただこう。まずは背番号18を背負い、エースとして期待される山﨑福也について。
「ここ数年で、軽く投げてピュッと来るフォーシーム、チェンジアップとフォークの投げ分けができるようになり、完成度が上がりました。あと数年は全盛期が続きそうです」
外国人ではMLB球団のオファーを断り、3年ぶりに日本ハムに復帰するドリュー・バーヘイゲンが注目株だ。
「昨季はカージナルスの中継ぎとして60試合に登板して5勝1敗、防御率3.98。ただ、日本ハムでは前回所属時と同じく先発を務めるようです。以前は縦スライダーが武器でしたが、スイーパーも多く投球するように。日本人打者に通用するか注目です」
身長198㎝のバーヘイゲン同様、196㎝の長身右腕として注目なのが28歳とまだ若いパトリック・マーフィー。そして、190㎝、117㎏の巨漢アニュラス・ザバラと、ふたりのパワー系投手が加わった。
「マーフィーはハードカッターを武器に追加し、先発かリリーフか見極めながら起用することになりそう。ザバラは藤浪晋太郎をもう少し丸っこくした感じで最速162キロ。制球とクイックに難があるようで、我慢強く見守れるかどうか。日本流フォークを習得すれば、徐々にリリーフでの起用が増えていきそうです」
投手ではもうひとり、「台湾の至宝」と呼ばれる18歳、最速157キロ右腕の孫易磊(スンイーレイ)を育成契約で獲得した。
「高卒新人と考えればドラ1でもおかしくない。持っている才能は素晴らしいですが、肘の負担が大きそうな投げ方で体の線もまだ細いので、長い目で見る必要のある選手です」
一方、野手の目玉といわれているのがメジャー通算108発のフランミル・レイエスだ。
「196㎝、120㎏のパワーヒッターで、MLBでも好調時は30本塁打、OPS.800超え。彼が順応できるかどうかでDHの使い方が変わってきそうです」
対照的な俊足巧打のイチロータイプが、アンドリュー・スティーブンソンだ。
「昨季は3Aで44盗塁なので足は相当速い。センターやレフト候補として期待できます。左打ちなので、左腕を攻略できるかが鍵になります」
彼らに加え、アリエル・マルティネスとブライアン・ロドリゲスが残留。助っ人外国人はなんと球団史上最多の8人に。今季の外国人枠は5人で、ベンチ入りは4人まで。誰をどう使うか、新庄采配の腕の見せどころとなりそうだ。
「マルティネスは捕手も一塁もDHもできるので使い勝手がいい。レイエス、スティーブンソンが日本の投手にうまく対応できるかどうかで投手陣の運用が決まりそうです」
新加入組を含め、どんな陣容で戦うことになるのか。投手陣では、上述した山﨑福也とバーヘイゲン、残留交渉に成功した加藤貴之、そして伊藤大海(ひろみ)の4人が先発ローテの柱となりそうだ。
「この4人は全員2桁勝てる能力はあります。加藤貴は左の技巧派最高峰レベルですし、伊藤大は15勝する投手に飛躍してほしいです」
ローテ5、6番手を争うのは左腕の上原健太。そして、20歳の根本悠楓(はるか)、2年目の金村尚真、3年目の北山亘基といった若手組だ。
「上原は防御率2点台が期待できる投手ですが、1年間を通じて安定した投球ができるかどうか。そこで注目したいのが、昨秋の侍ジャパンでも活躍した根本です。オリックスの宮城大弥的な投球で7、8勝は期待したい。
金村は昨季、4月途中に肩の張りで登録抹消されるまで、非常にいい投球内容でした。ケガさえなければ2桁勝利と新人王の可能性も十分あります。北山も昨季は6月までいい投球をしていたので、5、6番手を争う力はあり、ロングリリーフの適性もあります」
北山同様、先発もロングリリーフもできそうな存在として、アンダースローの鈴木健矢をピックアップ。加えて、未知数ながら大化け候補として、ドラ1左腕である細野晴希、2021年のドラ1右腕である達孝太、24歳右腕の田中瑛斗を挙げてくれた。
では、救援陣はどんな構成か。クローザー候補筆頭は昨季25セーブの田中正義だ。
「結果を恐れず思い切って投げられるようになり、技術的にも進化。本人が『ジャイロフォークを磨きたい』と言っていましたが、実際フォークが良くなれば、クローザーの地位をより確立できます」
ただ、蓄積疲労も考慮すると、抑え候補が田中だけでは得策でない、と話を続ける。
「杉浦稔大(としひろ)、石川直也、齋藤友貴哉といった復活を期すメンバーから誰か台頭してもいい。それぞれ球速があり、高いポテンシャルは持っています。田中正が30セーブ、もうひとりが15セーブくらいで分担できるのが理想です」
では、その田中正の前、7、8回の投手運用はどうなりそうか。中心になるのは昨季チーム最多51試合に登板した池田隆英。田中正とは創価高校、創価大学の同級生だ。
「さまざまな変化球に加え、短いイニングを思い切って投げることで、昨季は持ち前の球威が出ていました」
中堅・ベテラン組では、左の宮西尚生、右の玉井大翔。そこに河野竜生や山本拓実、新加入のザバラらが加わってくるカタチだ。また、育成選手からもふたりの名を挙げてくれた。
「3年目の柳川大晟と福島蓮は共に身長190㎝台で150キロ台のスピードボールがある。このふたりは支配下登録の可能性があると思います」
続いて野手陣を見ていこう。現状、打順も守備位置も不動、といえるのは昨季25本塁打を放ち、侍ジャパンでも活躍した万波中正の「4番ライト」くらい。ほかは激しい競争になりそうだ。
「万波はパワーだけでなく、頭もいい。今オフは弾道測定器のトラックマンを数百万円かけて自費購入。今季は30本以上を期待したいです」
万波と組むクリーンナップ候補は清宮幸太郎と野村佑希。そして、残留したマルティネス、新外国人のレイエスらが争うことになる。
「日本ハムの打線は清宮、野村がもうひと皮むけるかどうかが重要です。彼らには20本は打ってほしいはず」
1番の打順とレフト、センターを争うのは、昨季も序盤戦で1番を務めることが多かった2年前の首位打者である松本剛、二刀流の矢澤宏太、俊足の五十幡亮汰。そこに新加入のスティーブンソンが割って入ることになりそうだ。
「松本剛は足の状態が良ければ、1番で固定したい選手。矢澤はピッチングもいいけど、肩も足もあり、バッティングもいい。五十幡はスプリント型の選手でケガが多いので、1年間フルに戦えるかどうか。となると、外野手では淺間大基が復活できるかどうかも注目です」
昨季も加藤豪将、石井一成、細川凌平、奈良間大己(たいき)らが争ったセカンド。そして、上川畑大悟、中島卓也、水野達稀、奈良間らが起用されたショートの二遊間はどうか?
「ショートの第1候補は上川畑ですが、守備力だけ考えるなら上川畑がセカンドで、水野をショートに固定するのも面白い。打撃力では引っ張って本塁打も打てる奈良間が魅力的な存在で、身体スペック的にはショートよりもセカンドで固定したいです」
いずれにせよ、二遊間で誰が飛躍できるかが日本ハム最大の課題だという。
「エスコンは天然芝で守りにくい点はあるにせよ、二遊間を固定できずに勝つチームなど見たことがない。日本ハムが強かった2000年代後半もセカンドは田中賢介、ショートは金子誠で固定。昨季の阪神躍進も、中野拓夢のセカンドコンバートの成功と、それに伴うショートの木浪聖也の台頭が大きな要因でした」
以上の陣容を踏まえ、日本ハムの今季展望はどうなりそうか。リーグ優勝も狙えるだろうか。
「いきなり優勝は高望みかもしれませんが、昨季の得失点差は5位の西武とほぼ一緒で、4位の楽天よりも良かったので、実はもっと勝っていてもおかしくなかったチームです。今季はまずAクラス入り、CS進出が目標になります」
ここまで紹介したように、「投打とも選手たちのポテンシャルはかなり高い」と語るお股ニキ氏。その半面、きめ細かさに課題が残る。
「野手はパワーも足もあるけど、三振が多く、守備が粗めな選手が多い。投手陣は逆に、技術や制球力はあるけど細身の選手が多く、平均球速が物足りなかった。そこにドラ1の細野やザバラら、球威のある選手を獲得。パワーやポテンシャルを持った上で、どれだけきめ細かに緻密な野球ができるかが問われています」
そこでお手本となるのが昨季日本一の阪神であり、新庄監督が岡田彰布監督のように"普通"に徹することができるかどうか、だという。
「この2年間を見ても、新庄監督は選手の能力を見いだす眼力はすごい。ただ、天才的なヒラメキで何かやってやろうという思考が強すぎるかもしれません。
普通に考えれば、阪神の大山悠輔と佐藤輝明のように、清宮の守備位置は一塁、野村は三塁で固定したほうがいい。といっても、いちいち奇をてらわず、オーソドックスに"普通"をやり切るのは相当難しい。それができたのが岡田監督なんです」
確かに清宮は昨季、不慣れな三塁守備でリーグ最多の13失策。野村も初めてのレフト守備に戸惑う場面があった。そのほかにも度重なる守備位置変更で、チーム失策数は両リーグワーストを記録した。
「昨季も、打たせて取るタイプの上沢や加藤貴の登板時にあえて新しい選手や、新しい守備位置を試し、結果が出ない試合がありました。そういう守備の冒険は奪三振が多かったり、インプレーが少なかったりするタイプの投手でやるべきです。エースに任せる試合ではあえて動かない采配など、もっとメリハリが必要だと思います」
3年目の新庄監督に求めたいのは、長丁場でのマネジメントと、ここぞの場面でのミクロの動きの使い分けだ。
「大事なのは、ここぞというときにピンポイントで動けるか。WBCで見せた大谷翔平のセーフティバントだって、MLBで本塁打王を獲得することになる選手が相手の守備シフトの意表を突いてやるから効果的なんです。新庄監督の采配次第では、オリックス、ロッテ、ソフトバンクとAクラスを争えると思います」
「日本ハムはこれから強くなる球団」と語ったのは、入団会見での山﨑。その「これから」が今季早速訪れるのか。まずはキャンプでの仕上がり具合に注目したい。
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。