“21世紀の魔法使い”と呼ばれる落合陽一氏。今回は「自動運転」の未来を予言する! “21世紀の魔法使い”と呼ばれる落合陽一氏。今回は「自動運転」の未来を予言する!

コンピューターと人間が当たり前に共生する「デジタルネイチャー時代」を先取りし、“21世紀の魔法使い”と呼ばれる落合陽一氏が、人類の未来を予言する『週刊プレイボーイ』の月イチ連載(前回記事「“21世紀の魔法使い”落合陽一『人間よりAIのほうがまともな判断をする』」)。

今回のテーマは「自動運転」だ。「200ms[ミリセック](0.2秒)の壁」というキーワードをフックに、話題はクルマから戦争やスポーツ、そして「死生観」まで膨らんでいく!

■人間はジャンケンでも人工知能に勝てない

―8月に日産が日本初の自動運転システム搭載車(新型セレナ)を発売します。ただ、これはまだ走行サポートシステムの段階。完全な自動運転カーって、いつ実用化されるんですか?

落合 トヨタなんかはいつでもできると思いますよ、技術的には。

―今すぐにでも?

落合 あとは通信事業者を買えばいい、と僕は前から思ってるんですけど。

―NTTトヨタとか、KDDIトヨタになるってこと?

落合 いや、別にキャリアにならなくてもいいんですけど、安全・確実に自動運転用のデータを送受信できる通信網を自前で持っていないと、自動運転って成立しないんですよ。今の通信事業者は、パケットが出ていくのは確認するけど、ちゃんと届いたかどうかは見てくれないので。

―なるほど。じゃあ、課題はそれだけ?

落合 課題はむしろ法律でしょうね。100パーセント事故が起きないということはありえないので、人を轢(ひ)いてしまったらどうするか、というような法律問題が解決すれば。

―アメリカでも先日、テスラモーターズの自動運転機能搭載車がトレーラーと衝突してドライバーが亡くなりました。自動運転中の初の死亡事故として、日本でもかなり話題に。

落合 でも、もっと強烈な拒否反応があるかと思いきや、世間は意外と冷静に受け止めた印象じゃないですか? 状況的に見て、あの事故はテスラの技術レベルがどうこうっていう話じゃなさそうですし、そもそも完全自動運転でもなかったし。

―テスラはこれまで「オートパイロットモード」で2億km以上走行して、これが初の死亡事故。しかも今後は搭載される人工知能の判断力がどんどん上がるとなれば、むしろ「自動運転、悪くないじゃん」という声もあります。

落合 そうですよね。人間が一番優秀だっていう固定観念がある人は「自動運転は危ない」と言うけど、冷静に考えれば危機管理能力は人間よりコンピューターのほうが絶対に上ですよ。人間は疲れるし、何か見たり感じたりしてから神経伝達して実際に反応するまでに200ms(0.2秒)もかかりますから

今後はいろんな分野で「200msの壁」が崩壊していく

―子供がいきなり飛び出してきたとして、そこから反応するまでに0.2秒。ブレーキを完全に踏み込むまでには約1秒かかるそうです。

落合 時速60キロなら、1秒で約17m進んじゃう。でも、優秀なコンピューターなら1ms(0001秒)とかで反応して、すぐ回避行動をとる。しかも、危ない飛び出しを発見する能力も人間より高い

―なるほど。自動運転って、つい「柔軟性がない」みたいに思いがちだけど、それ以前に反応速度が段違いだと。

落合 これって自動運転に限った話じゃないんですよ。例えば人間は、後ろからいきなり強く押されてこけたら、ちゃんと受け身とれないじゃないですか。でも、米ボストン・ダイナミクス社の「アトラス」という二足歩行ロボットは、押されてから倒れるまでの間に腕を収納してダメージを最小限に抑えられます。

反応の速さがモノをいう株式相場の短期売買の世界は、すでに人工知能が半分支配している。同様に、今後はいろんな分野で「200msの壁」が崩壊していくはずです

―そう考えると、無人戦闘機と有人戦闘機の空戦も、将来的には勝負にならない?

落合 マッハの戦いでこれだけ反応に差があれば、絶対勝てないでしょう。しかも無人機は疲れないし。人間対人間のゲームって、基本的に相手の“ミス待ち”ですよね?

―太平洋戦争で活躍した伝説の零戦パイロット・坂井三郎さんも、「相手のミスを待つ、ミスさせるように持っていく」とおっしゃってます。

落合 でも、コンピューターはミスしないですからね。知り合いの研究室で「卓球ロボット」をつくってるんですけど、近い将来、卓球のチャンピオンもロボットに負けるかもしれない。ボクシングもロボットのほうが強いし。

―確かに、卓球もボクシングも基本は反射ゲームですね。

落合 あと、絶対に負けないジャンケンロボもある(笑)。相手の指の動きでグー、チョキ、パーを瞬時に判別して、それに勝つ手を出してくるんですよ。

―超高速後出しジャンケン! じゃあ、もう人間はどんな勝負でもコンピューターに勝てないってこと?

落合 いや、“運ゲー”なら普通に勝負できます。

―ああ、なるほど。運が左右する勝負。

落合 運って予測できないですからね。例えば麻雀(マージャン)とかポーカーは、いくら最強のコンピューターが確率計算しても、持ち手が弱かったら負ける。だから今後はそういうゲームがはやると思うなあ。

高齢化が進む日本は自動運転カーを導入するべき

■21世紀の人類は死後、ネットの海に還る

―ところで、もし完全自動運転カーが実用化されたら、「クルマ」の意味合いもずいぶん変わりますよね。

落合 公共財に近くなるでしょうね。ていうか、すでにそうなり始めてる。

―公共財?

落合 僕はあんまり運転しないんですけど、ウチの嫁はクルマを使うときはカーシェアリングなんですよ。家から歩いて3分くらいの場所にあるから、そこで乗って、返して、そのまんま。

―買って維持する費用がかからない。乗るときだけお金を払う。確かに公共交通機関みたいです。

落合 これが自動運転化したら、勝手に家の前まで来てくれるでしょ。タクシーと自家用車の中間みたいな存在

―過疎地の高齢者の移動手段がない、みたいな問題もなくなりますね。

落合 そう。だから、高齢化が進む日本は真っ先に導入するべきですよ、絶対。

―でも、例えばバブル世代にとってみれば、「どんなクルマを買うか、乗るか」は女にモテたり、自分の個性をアピールするためにすごく重要だったと思うんですけど。

落合 自分たちは機械ではなく、コピー不能な人類で、それぞれ自分だけのアイデンティティがあって、やりがいのある仕事をして、生きがいのある人生を送って、私らしく死ぬことが最大目標である。……みたいな価値観って、たぶんそのうち消えると思うんですよ。

―前回の最後に出てきた「やりがい消失問題」ですね。なんで消えるんですか?

落合 そもそも、「やりがい」とか「人生の意味」とか考えるのは、人類史のなかでもごく最近だけ。例えば江戸時代の平和な時期は、多くの庶民は農業やったり町で働いたりして、お祭りがあって、あぁ毎日楽しいな、って暮らしてたわけでしょ。人が死ぬのも「じいちゃん死んじゃうんだ」っていうくらいのもので。それを永遠に繰り返していても全然問題なかった。

―前回、人工知能が発達した世の中は「年収2500万円のひと握りのクソ忙しい研究者」と「年収750万円の熟練した肉体労働者」に分かれるって話でしたよね。それは上下関係でもなんでもなくて、肉体労働者は明るく楽しく生きていく、と。イメージは江戸の庶民なんですね。

落合 そうそう。例えば、「俺の名前を永久にこの世に刻んでやるぜえ!」みたいな生き方をしてきたバブル世代の人がいるとすると、きっとウィキペディアに名前が載ったらうれしいですよね?

死後も人工知能が生かし続けてくれる

―そりゃ、間違いなくうれしいでしょう。

落合 でも、今はツイッターもフェイスブックもあるんだから、わざわざウィキペディアに載らなくても、全員の名前が残るでしょ。アカウントを消さなかったら100年後も残ってますよ。死んだ後は子供や孫がそれを見ながら、「じいちゃん若い!」とか盛り上がったりして。

―そうか。ひと旗上げなくてもいいんだ。「やりがい、生きがい、私らしく」が消えた後の世界は、ものすごくフラットなんですね。

落合 人間は土に還(かえ)るんじゃなく、ネットの海に還っていくんです。面白い話があって、この間、レンブラントの“新作”が出たんですよ。

―え? レンブラントって17世紀の画家の?

落合 新作っていうのは変な言い方ですけど(笑)。レンブラントが描いた全作品を機械学習させた人工知能に、新作を描かせるっていうプロジェクトがあって。絵のタッチとか、どう見てもレンブラントなんですよ!

―すごい! じゃあ、もしその人工知能にガンダムも学習させて、「レンブラントのタッチでガンダムを描け」って言ったらできちゃう?

落合 できちゃいますね。

―レンブラントのアニメもできちゃう?

落合 もちろん。で、この話の何がすごいかというと、今後、ネット上にある程度のデータ量を残した人は、死後も人工知能が生かし続けてくれるってことなんです。

―これ、もしレンブラントが「俺は唯一無二のオリジナルな人間だ」っていう“自分らしさ教”の信者だったら、つらい話かもしれない。でも、逆にそこから抜け出してフラットな考え方なら……。

落合 うれしいでしょ。超うれしいと思いますよ。

―なるほど!

落合 だから、これからの人類に大事なのは、「人間性」とか「人間らしさ」っていうところからいかに脱構築されていくかだと思います。

●落合陽一(おちあい・よういち) 1987年生まれ。筑波大学助教。コンピューターを使い新たな表現方法を生み出すメディアアーティスト。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学で学際情報学の博士号取得。デジタルネイチャーと呼ぶ将来ビジョンに向けて表現・研究を行なう。著書に『魔法の世紀』(Planet)、『これからの世界をつくる仲間たちへ』(小学館)がある

(取材・構成/小峯隆生 撮影/本田雄士)