通信料金の値下げ、実質0円販売の規制、SIMロック解除など、3キャリアの商売を邪魔するような規制を次々に打ち出す総務省

いつになったらスマホ料金は安くなるんだ!?

昨年、総務省が3大キャリアに対して打ち出した、まさかの「料金下げなさい!」宣言。でもその後、お得になった実感はまったくない…。一体、どうなっているのだろうか?

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安倍首相が「携帯電話料金の家計への負担が大きいことが消費拡大の阻害要因である」として、高市総務大臣に解決を指示したのは一昨年9月のこと。総務省は直ちにスマホ料金の研究会を開催。そして、「月額5000円を下回る料金プランを検討させる」「端末購入補助を規制する」などの方針を打ち出した。

このニュースに「月々の負担が減るかもしれない!」と期待した人も多いだろう。ところが、それから1年以上がたった今、大手3キャリアのスマホ料金をめぐる状況を見ても、ユーザーの負担が減ったとは思えない。

確かに3キャリアは総務省の意向を受けて、昨年1月から4月にかけて、従来よりも料金の安いプランを導入するにはしたのだが…。

「ふたを開けてみたら、通話とパケットの最安プランを組み合わせることができない、データ容量たったの1G、パケットの単価は通常プランよりもかなり割高、といった内容で、使い勝手が悪い。これでは形の上だけの“アリバイ的な導入”と思われても仕方ありません」(スマホ料金に詳しいライターの後藤一泰氏)

その一方で4月以降、それまでスマホ商戦の目玉だった「MNP(番号そのままで他社へ乗り換え)での一括0円販売」はおろか、「実質0円販売」も消えうせ、現金や商品券でのキャッシュバックをアピールする店頭告知もすっかり影を潜めてしまった。

こちらも総務省からのお達しである、端末の値引き規制を受けてのものだが「MNP契約者への大幅な優遇はなくなり、一括0円での購入と比べて、結果的に5万から8万円の負担が必要になりました」(後藤氏)と、逆にユーザーの負担が増えてしまったケースもある。

こうした状況に「総務省さん、全然安くなってないじゃん!」「おい総務省、よけいなことしやがって!」と率直に思っている人も少なくないだろう。

一方、端末価格の負担が上がったことで、スマホの販売台数は鈍化。民間の調査会社「MM総研」の調査では、2016年度上半期(4月から9月)の携帯電話出荷台数(ガラケーも含む)は約1519万台となり、調査を始めた2000年度以来、半期としては過去最低を記録した。

だが、それでも、3キャリアの業績は絶好調だ。なぜ?

3キャリアの業績は絶好調

「10、11月に発表された16年度9月中間決算での3キャリアの営業利益は、NTTドコモが前年同期比26・6%増の約5856億円。au(KDDI)が同18%増の約5326億円、ソフトバンクグループが同3.5%増の約6539億円。この半年間の3社合計の営業利益は約1兆8千億円に上ります。好調の理由は、それまで端末の割引に当てていたコストが、総務省の指導によって削減されたからです」(後藤氏)

つまり、キャリアは総務省の指導により「一括0円」「実質0円」といった“乱売”ができなくなり、その分、浮いたお金が丸ごと利益になったのだ。

…ってことは、総務省は改革に乗り出してみたものの、ユーザーへの恩恵なんてゼロで、3キャリアの懐を温めて終わりってこと? そんなのヒドすぎやしない!?

しかし、そんな見方に異を唱えるのが、総務省の事情に詳しい業界関係者のA氏だ。

「実はスマホ料金をめぐる改革は着々と進んでいます。これまで互いの様子をうかがいながら横並びの料金を続けてきている3キャリアに、正面からの価格競争は望めません。そこで総務省が考えているのが、キャリアから回線を借り受けて小売りするMVNO(仮想移動体通信事業者)、いわゆる『格安SIM業者』の育成です。

格安SIM業者が“音声+データ容量3GBで月額約1700円から”といった格安の料金プランを武器にシェアを拡大できれば、おのずと3キャリアの座は安泰でなくなるからです」(A氏)

その理屈はわかる。だったらなぜ、3キャリアの端末値引き規制なんてしたのか?

「3キャリアは端末と回線の『抱き合わせ販売』を行ない、『実質0円』や『MNP一括0円』といった売り方をすることでお得感を打ち出し、高価な最新スマホを購入しやすくしてきました。

一方、格安SIM業者は3キャリアのような大企業ではないため、端末割引の原資を用意することはできず、同じような商売の仕方は難しい。だから格安SIMを利用するには端末をまっとうな価格で購入する必要があります。最新のハイエンドスマホなら10万円近く、中古でも2万、3万円はかかるでしょう。これでは格安SIM業者に勝ち目はありません。

そこでまず、総務省はMNP一括0円のような販売手法を徐々に改めるよう3キャリアを指導し、端末を購入する際の格安SIMとの価格差を縮めていくことにしたんです」(A氏)

しかし、決算からわかるように、この規制のおかげでキャリアはウハウハだ。「指導」は中途半端だったのでは?

「総務省も本音としては『抱き合わせ販売を禁止し、端末と回線の分離までやりたい』のだと思いますが、さすがに、民間のビジネスに、そこまで政府が手を突っ込むことに躊躇(ちゅうちょ)があるようです」(A氏)

ケータイ研究家で青森公立大学准教授の木暮祐一(こぐれ・ゆういち)氏も、総務省の方針を弁護する。

「こうした規制がなければ、キャリア各社が自ら端末価格の正常化へ動くことはなかったと思います。まずは総務省のコントロール下で格安SIM業者の成長を促し、競争環境を整えていくことが必要でしょう。キャリアの端末の高額化は利用者にとってデメリットと映るかもしれませんが、それは短期的なもの。長期的に見れば業界全体を改革するための大きな一歩です」

格安SIMを選択肢に考えやすい環境を

では今後、3キャリアの莫大な利益がユーザーに還元されることはあるのだろうか?

「単純に大幅な値引きというのは考えにくいと思います。例えばドコモの契約数は、格安SIM業者に貸し出している回線も含めて約7千万件です。その内訳は公表されていませんが、仮に4千万件がドコモと直接契約するスマホだったとしましょう。この場合、利用者の月額料金を一律1千円値引きするのに必要な原資は年間で4800億円にもなります。2016年度に予想される営業利益(9100億円)の半分以上が吹っ飛ぶわけですから、現実的ではありません。

総務省の狙いは、まずはユーザーが、格安SIMを選択肢のひとつとして考えやすい環境を整えることです」(A氏)

ではこの先、格安SIMを使いやすくするため、ほかにもいろんな策が講じられる?

「今、総務省が検討中の新たな『指針』が決まれば、まず、SIMロック解除が可能になるまでの期間がより短くなります。現状では端末購入から6ヵ月程度と定めていますが、今年半ばには端末の一括払いならキャリアが支払いを確認できたその日から、分割払いなら初回の端末代金の支払いが確認できた日からになる見込みです。

また、これまでは月々の値引きで、新品端末の実質価格が中古より安いという“異常な状態”が続いていました。そこで、『新品の実質価格は2年前の端末(同一メーカーで同クラス)の下取り価格を下回ってはならない』という規制も導入されることになります。これで『新品が中古より安い』という売り方はできなくなります」(A氏)

こうした政策が実現すれば、キャリア端末がSIMフリー端末より圧倒的に安いといったことはなくなり、いずれ価格差はなくなる。手頃な格安SIMへの流れはいっそう加速するだろう。

「SIMロックの解除がしやすくなって、格安SIMのユーザーが増えれば、不要になったSIMフリー端末をオークションで売るなど、中古市場の活性化にもつながります。お手頃な価格でさまざまな種類の端末を選べることになるでしょう」(A氏)

★後編⇒見切りをつけるなら今? 3大キャリアを捨て格安SIMへ移るべき理由

(取材・文・撮影/本誌「格安スマホ」取材班)