ロシアの建築メーカー、Apis Cor社の3Dプリンターハウス。サイズは38平方mで、コンクリートを出力できる最大長約8.5mの超巨大3Dプリンターで制作されている

3月1日に、アメリカ陸軍が発表したプレスリリースによりますと……。なんと、3Dプリンターを使用して兵器である「グレネードランチャー」の制作に大・成・功! さらに最近では一軒家まで作れるとか!

そもそも3Dプリンターは、どんなハイテク機材なのか? 企業や個人向けに3Dプリンター事業を展開して、その研究も行なう「DMM.make」の川岸孝輔部長に聞いてみた!

川岸 ゴムやプラスチックをはじめとする樹脂、そして金属でも銅からチタンまで、さまざまな素材から立体物を作り出せるのが、3Dプリンターです。

―え!? 金属までイケるんですか!!

川岸 金属の場合ならレーザービームで焼結する粉末法、樹脂素材ならインクジェット法など。現在ではいろいろな出力方法が開発されています。すでにフィギュアなどはフルカラーで、色分けされた状態で出力することができます。

3Dの立体データがあれば、すぐに製品を出力することが可能なのです。

―現在、どのようなシーンで活用されているの?

川岸 企業が試作品を作ることが多いですね。例えば、指輪をはじめとするアクセサリーです。これまでは樹脂や木を削り出して試作品に何週間もかかっていたものが、3Dプリンターなら数時間で作ることができます。企業にとっては開発と試作の時間、そしてコストを大幅に下げることができます。

また、現在では金属を使用した高剛性の製品、そして鎖帷子(くさりかたびら)のような、金属が複雑に連結されている造形も一発で出力することが可能になっています。

DMM .make3Dプリントではアルミやチタンなど、さまざまな金属素材の出力に対応。もちろん、形状もなんでもアリ!

本来なら素材は約70時間からパーツをひとつひとつ削り出し連結する鎖帷子を一発で出力! DMM.make3Dプリントのすんごい技術!!

グレネードランチャーの本体・弾薬を3Dプリンターで

―なるほど! それでグレネードランチャーのような強度を求められるブツまで制作できるようになっているんですね。アメリカ陸軍の元大尉・飯柴智亮(ともあき)氏。これって、実際にガツンと撃てるんでしょうか?

飯柴 このグレネードランチャーが画期的なのは、本体だけでなく、弾薬も3Dプリンターで制作されたことです。すでに実射試験にも成功しています。つまり、発射時の火薬の爆発による衝撃にも耐えられる強度があることを証明したのです。本体と弾薬、あとは別途で火薬さえあれば兵器の制作も可能なわけです。

米軍が3Dプリンターで制作したグレネードランチャー・RAMBO。全パーツの出力時間本来なら素材は約70時間

トリガーや各種固定部品などの金属パーツ。こちらもすべて3Dプリンターで出力され、実射試験も問題なくクリア!

写真は3Dプリンターでパーツを出力している状態。40mm口径のグレネード弾を発射する銃身やグリップ部分などは、樹脂パーツで制作されている

―今後も続々と3Dプリンターによる兵器が?

飯柴 さすがに精密な加工を求められる狙撃銃の銃身やパーツを、3Dプリンターで制作するのは難しいと思います。ただ、過酷な状況下で使用され、最も強度を求められる“兵器”も制作できるとアメリカ軍が実証したということは、民間でもこれから成長する分野であるのは間違いありません。

ただし、先端技術を悪用する人間は必ず現れます。数年前から拳銃の3Dデータが出回ってアメリカでも問題になりました。今後は警察バッジや硬貨を偽造する犯罪集団が現れる可能性も考えられます。

オスプレイのエンジンパーツを3Dプリンターで

―一方、アメリカ海軍では、あのオスプレイにまで3Dプリンターが大活用されているとか!? 原潜から空母まで乗船し、アメリカ海軍に精通するフォトジャーナリストの柿谷哲也氏、これは本当のお話ですか?

柿谷 3Dプリンターで制作したオスプレイのエンジンパーツを、実際に組み込んで飛行させました。これは現場の兵士にとっては大歓迎なことだと思います。何せ、航海に出た艦艇は補給を常に受けることはできません。なので、今までは過酷な現場対応を求められましたから。

アメリカ海軍はオスプレイのエンジンを固定するパーツを3Dプリンターで制作。パーツ装着後に飛行試験を行ない、その耐久性を実証した

―アメリカ海軍では、どのような現場対応を?

柿谷 アメリカ軍には“MILスペック”という強度面を中心とした製品規格があり、これは修理にも求められます。しかし現状、空母では各種修理を手作業で行なっています。それも職人的な技術を持った兵士がパーツを削り、叩き出すアナログ極まりない現場対応になる。

3Dプリンターのパーツでオスプレイが飛ぶほどですから、強度面でMILスペックをクリアしつつ、アメリカ海軍伝統の職人技術も踏襲しているはず。これは民間の制作現場にもフィードバックできる技術だと思いますね。

―軍隊が認めるってことは強度的には問題ナシと!

川岸 ボルトやナットなどは強度的に一般の製品と変わらないものを制作できます。最近ではバイク、クルマ、家までも3Dプリンターで制作できるほどですから。

―すごい! 3Dプリンター最強!! 家なんて災害時の仮設住宅に最適なのでは?

飯柴 ロシアの企業が開発した3Dプリンターハウスは24時間で完成し、強度も十分です。しかし、災害時はよりスピードを求められます。それを考えると米軍が開発した「ダッシュ」というテントのほうが有利です。

こちらは専用の機材を必要とせずに5分で組み立てられて、拡張性も高い。日本でも警察・消防・自衛隊で採用されています。スピードを求めない住宅やホビーとしてはいいですが、災害時には活躍できないでしょう。

★後編⇒100万円以上する義手が3万円台に? 医療の現場でも3Dプリンターが大活躍

(取材・文/直井裕太 撮影/関純一 写真/DMM.make United States Army United States Navy)

*DMM.make3Dプリントでは、武器等の造形は受けつけておりません