自動運転の実用化が進めば「一日のうち『移動だけ』に費やす時間がなくなって、作業空間がそのまま移動する」と語る落合陽一氏

“現代の魔法使い”こと落合陽一が、人類の未来を予言する『週刊プレイボーイ』本誌の月イチ連載『人生が変わる魔法使いの未来学』

AIとロボット制御の技術はまさに日進月歩。自動運転をはじめ、「これまで人間がやっていたこと」が次々と機械に置き換えられていく時代がもうすぐ到来する。そんななか、次第に焦点となっていくのは「人間ならではのエラー」だと落合陽一は言う。

そして将来は、そこに税金まで課されるようになるかも…って、一体どういうこと!?

* * *

―間もなくアウディが発売(ドイツでは今秋、日本では今年末から来年の見込み)する新型「A8」に、世界で初めて「レベル3」の自動運転システムが搭載されます。これはかなり大きなニュースですよね。

落合 僕は普段運転しないんですが、妻は運転するので、このクルマは欲しくなりましたね。買おうかってお願いしているくらいで。

―ちなみに、A8に搭載される自動運転の機能がどんなものかというと…中央分離帯のある自動車専用道路を時速60キロ以下で走行中なら、自動運転モードに任せてハンドルを離していい。その国の法律でOKとされているなら、車載ディスプレイでテレビを見たり、メールをチェックしたりと、運転以外の作業をしてもいい。

落合 一番使えるのは、いつも渋滞しているような場所ですよね。時速20キロとか30キロで通過に1時間かかるような道が格段に楽になる…というか、法律さえ許せば作業時間として使えるようになるわけだから。

―ただ、欧州ではそうやって実用化が進む一方、アメリカではトランプ大統領が「自動運転は雇用を奪う」と言いだす可能性もあり、法整備の問題がいつ解決されるかは不透明…なんていう報道もあります。

落合 トランプ大統領の支持層を考えれば、それが正しい政策なのかもしれないですね。ただ、欧州だけでなく日本も中国も、自動運転はどんどんやっていきますから。もしアメリカ国内の法整備が遅れても、アメリカの企業はシステムや搭載車を開発・製造して、国外で売ればいいんじゃないですか。トランプ大統領としても、それなら国内に雇用ができるわけだし。

―「自動運転は是か非か」なんていう議論は、いずれ消えてなくなると。

落合 社会全体のコストとベネフィットを考えれば、もう議論の余地はないですよ。あとは技術が実用化へ向かう時間の問題と、法整備の問題だけです。

―人類にとって「移動の時間」というムダがなくなるんですもんね、考えてみれば。

落合 一日のうち「移動だけ」に費やす時間がなくなって、作業空間がそのまま移動するというイメージですね。ひとつの考え方としては、今稼働しているクルマの台数と、一日当たり平均何時間運用しているかをかけ合わせてみればいい。それが、「自動運転によって一日何時間浮くか」のざっくりした答えになるわけでしょ。

自動運転車内での時間の取り合いになる

―仮に適当な数字を当てはめてみます。今、日本にある乗用車は約6千万台。これが一日平均3時間稼働しているとすると、6千万×3=1億8千万。日本だけで一日1億8千万時間も浮く!

落合 GDPで考えたら相当大きいですよね。全人類でいえばもっと大きい。

―しかし、それって個人のコスト的にはどうなんでしょう。クルマをガンガン使える人だけが得をする、みたいなことになる?

落合 いや、ランニングコストはかなり安いと思いますよ。A8のケースで計算してみましょうか。前モデルのA8ハイブリッドタイプの燃費はリッター13・8km。ガソリンがリッター150円とすれば、単純計算で13・8kmを150円で移動できるようになるわけですよね。同じ距離をタクシーで移動すると、東京ならざっと5千円以上かかります。それどころか、鉄道より安いですよ。

―確かに! しかも自動運転ならムダにふかしたりしないし、燃費は向上しそう。

落合 それに、将来的に完全自動運転が実現して、自動運転車をドライバーなしで走らせてもよくなれば、店で食事している間などはそのへんを走らせておけばいい。だから駐車場代もかからなくなりますよね。

―これは特に都市部では大きいですね。

落合 つまり自宅の駐車場とガソリン代、高速道路料金くらいで済むわけです。

―そうやって自動運転車が一般に普及すると、生活スタイルもだいぶ変わってきますよね。

落合 人と直接会うとか、現場での仕事がどうしても必要な人以外は、車内でも仕事ができますからね。たぶん「あの店のメシ」とか、「あそこの温泉」とか、そういうどうしてもフィジカルに入手するしかない予定をベースに動くことになるような気がします。東京に住んでいる人が、平日に普通に山梨にメシを食べに行くとか、そういう感じになるんじゃないかなあ。『食べログ』の今の区分もいったんシャッフルされるかもしれないですね。

―そうなると、新しい産業もいろいろ出てきますよね。浮いた時間を仕事に使う人もいれば、そうじゃない人もいるわけで。

落合 そう。ビジネス的に見た次のポイントは、自動運転車内での時間の取り合いでしょうね。車内のホームエンタメ化。だからテスラは最近、独自の音楽ストリーミング事業を始めようとしたり、ビデオ配信にまで色気を見せているんです。

★後編⇒現代の魔法使い・落合陽一が超高齢化社会の労働力激減で先読み「人間が介在することで価格競争力を失う」

(構成/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)

●落合陽一(おちあい・よういち)1987年生まれ。筑波大学学長補佐。同大助教としてデジタルネイチャー研究室を主宰。コンピューターを使って新たな表現を生み出すメディアアーティスト。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。最新刊は『超AI時代の生存戦略 シンギュラリティに備える34のリスト』(大和書房)