「現代の魔法使い」落合陽一(右)と「OTON GLASS」を開発した島影圭佑(左) 「現代の魔法使い」落合陽一(右)と「OTON GLASS」を開発した島影圭佑(左)

『情熱大陸』出演で話題沸騰、“現代の魔法使い”落合陽一が主宰する「未来教室」。『週刊プレイボーイ』本誌で短期集中連載中、最先端の異才が集う筑波大学の最強講義を独占公開!

普通の眼鏡と同じように顔につけ、読みたい文字を見ながらボタンを押す。すると書かれていることを音読して聞かせてくれる。さらに、外国語なら翻訳も可能。今回のゲスト・島影圭佑が開発した「OTON GLASS(オトングラス)」は、そんなウェアラブルデバイスだ。

彼がOTON GLASSの開発を始めたのは、プロダクトデザインを学んでいた大学在学中の2012年。父親が失読症になったことがきっかけだった。その後、商品化のために会社を起こし、試行錯誤を重ねる過程で島影は「新しいデバイスを受け入れる社会自体をデザインする」ことに取り組むようになっていく。OTON GLASSを通して見える未来の社会とは――。

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島影 僕の父は脳梗塞で倒れ、脳の言語野が傷ついて、「しゃべることは問題ないけど文字が読めない」という後遺症が残りました。そこで、父の読みをサポートするデバイスができないかなと思って。

どういう風につくっていったかというと、アイデアをスケッチしつつ、父を対象とした行動観察をするんです。どんなときに困っているのか、実際の生活の中で見ていくことで、アイデアが収束していきます。

ある日、父が診察でアンケートを書かなきゃいけなかったんですけど、文字が読めないから隣にいたお医者さんに「これなんて書いてあるんですか?」って指さして聞くんですね。そしたら先生が耳元で読み上げる。

このやりとりを他者に頼まず再現できたらいいなと思い、違和感なく体の一部になるものといったら眼鏡だろう、ということで「OTON GLASS」の原型になるスケッチが出来上がりました。

この名前はオトン(父)と「音」をかけたダジャレです。幸い僕の父は頑張ってリハビリした結果、ほぼ完治してOTON GLASSは必要なくなったというオチなんですけど。

OTON GLASSは現在、主に視覚障害や識字障害(ディスクレシア)を持つ人々を対象に受注生産されている。ユーザーからのフィードバックを生かして性能を向上させるとともに、OTON GLASSが普及することで新たに何ができるかも研究中だ。

OTON GLASSの仕組みとは?

 OTON GLASSを試着する学生。文字をそのまま読み上げるだけでなく、外国語には自動翻訳をかける機能も搭載している。 OTON GLASSを試着する学生。文字をそのまま読み上げるだけでなく、外国語には自動翻訳をかける機能も搭載している。

島影 OTON GLASSの仕組みを簡単に説明しますと、この眼鏡自体がIoT状態になっていて、ネットにつながっています。眉間のところにカメラがあり、読みたい文章に向けてボタンを押すと、その画像がクラウドに上げられる。そこから文字認識を通し、必要なら自動翻訳をかけ、最後に音声合成で音をつくって、返ってきたものをスピーカーかイヤホンで聴く、というプロセスになっています。

だから、ユーザーの方が文章を読みとるごとに画像データが得られるわけです。すると今度は、集まったデータを用いたサービスが展開できるのではないかと思っています。例えば、眼科に通っている視覚障害の方がOTON GLASSを日常的に使っていると、その人の日々のライフログがたまっていく。担当の先生がそのライフログを通じて患者さんのことをもっと理解したら、より適切な治療が行なえるんじゃないか、とか。

あとは純粋に、その人が見ている情景とか位置情報に合わせて適切な情報を送るっていう広告の機能ですね。そういう展開がこの先、あるんじゃないかなと思っています。

OTON GLASSは近い将来の量産販売を目指しているが、そのためには「法」の問題に取り組まなければならないという。

島影 技術的には可能でも、人間社会に受け入れられるかという問題があります。ここにカメラがついていることで、プライバシーの問題をはらんでいると。Google Glassが一度失敗した(※)のはまさにそこなんです。そこで僕らは産学官と協力することで、法制度を設計して実証実験したいなと考えています。

(※)2013年、開発者向けに1500ドルで発売開始されたものの、盗撮の危険性などプライバシーの問題を解決できず結局、一般発売はいったん中止された。

具体的には、新しいものづくりに対して新しい法制度を提案する、法律の専門家グループがあるので、その方たちと議論するのがひとつ。それから、経済産業省の産業構造課という、まさに法の緩和などを行なう部隊ですね。そこの方たちと話して実行していきたい。

おそらくアウトプットとしては、ガイドラインを提示する形になると思うんですよ。「安心のオトン印」みたいなのが最終的にできて、「このマークが付いている眼鏡は、これこれこういうデータ処理をしているので安全です」っていうのをガイドラインとして公開する。ここを今後頑張っていきたいなと思ってます。

最終的にはこのOTON GLASSを世界に届けて、誰もが文字を読める世界をつくりたい。物をつくるのと社会をつくるのを両輪でやっていった先には、理想的な製品と社会が待っているんじゃないかと思ってます。

 OTON GLASSの基本構造。まず画像をクラウドに上げ、Googleの文字認識をかけてテキストを抽出し、それをAmazonの音声変換サービス「polly」で読み上げる。 OTON GLASSの基本構造。まず画像をクラウドに上げ、Googleの文字認識をかけてテキストを抽出し、それをAmazonの音声変換サービス「polly」で読み上げる。

日本が4つに分かれる物語「日本を思索する」

落合 ありがとうございました。ここまではプロダクトと社会の話をしていただいたので、ちょっとアーティスティックな話もしてもらいましょうか。

島影さんはIAMAS(情報科学芸術大学院大学)っていう、真鍋大渡さんとかクワクボリョウタさんとかと同じ大学の出身で、面白い作品をつくっているので、その話をお願いします。

島影 はい。OTON GLASSとはちょっと毛色が違う、政治的な作品なので混乱するかもしれませんが(笑)。『日本を思索する』という、スペキュラティブ・デザインの作品です。

 複数の未来が同時進行するプロジェクト作品「日本を思索する」。鑑賞者は書籍とウェブで提示された4つの「日本」のうち、どの「日本」を選ぶか決める。 複数の未来が同時進行するプロジェクト作品「日本を思索する」。鑑賞者は書籍とウェブで提示された4つの「日本」のうち、どの「日本」を選ぶか決める。

スペキュラティブ・デザインというのは、イギリスのRCA(デザインの大学院)で生まれた潮流で、ものすごく簡単にいうと「未来について考え、議論を人に促すようなデザイン」。この作品で僕は、日本が4つに分かれる物語を考えました。

まず、日本は人口が減っているので移民を受け入れると。そのタイミングで、前回の原発事故をはるかに上回る規模の事故が起きて、日本の東半分には人が住めなくなるとします。

すると、残った西半分の日本は移民を受け入れて多民族化した「新日本」になります。一方、それを受け入れられない人たちは、東半分に移住する。これが「旧日本」です。

また、なかにはそもそも日本の国土にこだわらずに出て行く人たちもいるでしょう。その場合はふた通りあって、自分たちが移民になるという選択肢が「脱日本」で、外国に土地を手に入れてゼロから建国するのが「超日本」

以上4つの「日本」について、それぞれの移動・居住という意思決定自体にその人たちの思想が反映されていると考えました。そして、ひとつの「日本」につき25個ずつ、それぞれの国民性が表れたインストラクション(鑑賞者に指示する行為)をつくりました。

例えば「新日本」は多文化共生社会だから、日本語が主要な言語じゃなくなっているかもしれない。だったらこの国では国歌をどう歌うか。鼻歌で『君が代』を歌う、ということにしよう、と。

参加者(鑑賞者)には4つの「日本」から自分だったらどれを選ぶか決めてもらい、そこからさらに自分がやっていそうな行為を選択し、実行してもらいます。実行するなかで、その人が選んだ「日本」を身体的に想像できる、と。そういうことをやりました。

当時は安保法制問題とかがあって、いま一度日本を考えてもらうためにはどうすればいいかと思って。それで引っ張ってきたのが、昔あった小説ですね。小松左京の『日本沈没』と、その後に筒井康隆が書いた『日本以外全部沈没』。ここから取ってきています。

『日本沈没』では日本が沈没するんですよ。僕の作品で想像した4つの「日本」のうち、3つの選択肢がこの小説に出てきます。日本に残って沈没する人と、移民になる人と、オーストラリアから土地を買って新しい日本をつくるっていう、その3つの選択肢ですね。小松左京はあるインタビューの中で、昔日本が戦争をやめるかどうするかっていうときに、仮に「一億総玉砕」を選択したらどうなっていたかを、「敵国」という概念を使わずにシミュレーションするために『日本沈没』を書いたと言っています。

そこに、筒井康隆が多文化国家になる日本を『日本以外全部沈没』で描きました。これで、小松が描ききれなかった「日本」も含め、ひとつの完成したシミュレーションとしてとらえることができます。ここから4つの「日本」が同時進行している未来という設定を考え、世界や日本の現在の情勢を参照しながら、日本が4つに分かれるまでのシナリオを描きました。

デザインっていうものの一番の本質的なところはなんなのかということが、以上ふたつの実践の重なりの中から伝わればいいかなと思います。

自身が語る島影圭佑のコアな部分

落合 ありがとうございました! では対談パートに移ります。

島影さんは(首都大学東京の)大学3年生の時に進路に悩んで僕のところに訪ねてきてくれたんだけど、その時と、26歳の今とで何が変わりましたか?

ちなみに、当時の島影圭佑を客観的に見ると、何も決まっていなかった。マジで悩んでる人が来たって感じで。僕は人生あまり悩んでないというか、腕力と空気の読めなさで解決するほうなんですけど、そういうタイプじゃないから優しい人なんだろうなっていう印象が僕はあった。

島影 なるほど…。僕はよく「こじらせる」っていう言葉を使うんですけど、当時は完全にこじらせてたんですね。こじらせるっていうのは僕のイメージだと、自分の向き合ってる分野へのクリティーク(批評)がハンパじゃなくなってるような状態。

僕にとってはそれがデザインっていう領域なんですが、例えば普通はプロダクトデザイナーになると、ある家電製品のアップデートとかが主な仕事になるわけですね。一個前のモデルを古く見せるためのデザインとか。でも、「デザインって消費を促すためだけの職能じゃないよね」っていうモヤモヤ感があって、コンピュータサイエンスに専攻変えようかとか、ホントに悩んでて。

それで結局、IAMASに進学したんですが、この学校自体はもともとアートの学校なんで、僕みたいなこじらせてる学生しかいないんですよね。先生たちも社会の情勢とかそういうのもいっぱい見てますけど、それよりも「君の身体(しんたい)から何が出てくるんだ」っていうところを問うてくる。僕はそこで一回吹っ切れた感があったかなと思います。

それを経て、モヤモヤをとにかく割り切らないで、それを糧に実践してきて、今やっと形になってきた。モヤモヤ感が肯定できる状態になってるって感じですね。

落合 なるほど、それはいい成長ですね。島影さんのコアな部分っていうのはどこにあるんだと思いますか?

島影 感覚的には、自分はクリエイターだと思っています。作り手としてのポジションは明確に定義できなくて、例えば10年後に、新しいデザイナーの在り方として後から言語化できたらいいなと。作家的な想像力と、起業家的な実行力と、あとは研究者としての言語化力と、この3つをまわしていく中での創造行為が僕の強みかと思っています。

落合 なるほど。俺ね、自分で会社やって、大学教員やって、アーティストやってるけど、コアとしては映像なり物質なりにものすごく興味があって。何をバーチャルととらえるのか、何を自然ととらえるのか、そういうエコシステムがなんなのかを探してるうちにアーティストやリサーチャーになった。そういうものはない?

◆後編⇒“現代の魔法使い”落合陽一×「OTON GLASS」開発者・島影圭佑「多様性としてテクノロジーで支えられる社会を考える」

■「# コンテンツ応用論2017」とは? 本連載は筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。“現代の魔法使い”こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トーク。学生は「#コンテンツ応用論2017」付きで感想を30回ツイートすれば出席点がもらえるシステムで、授業の日にはツイッター全体のトレンド入りするほどの盛り上がりです。

落合陽一(おちあい・よういち) 1987年生まれ。筑波大学学長補佐。同大助教としてデジタルネイチャー研究室を主宰。コンピューターを使って新たな表現を生み出すメディアアーティスト。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。最新刊は『超AI時代の生存戦略 シンギュラリティに備える34のリスト』(大和書房)。

島影圭佑(しまかげ・けいすけ) 1991年生まれ、新潟県出身。株式会社OTON GLASS代表取締役、「日本を思索する」作家。首都大学東京、情報科学芸術大学院大学IAMAS、慶應義塾大学SFC研究員を経て、スタートアップと作家活動を行なう。経済産業省「IoT Lab Selection」準グランプリ、平成29年度総務省「異能vation」最終選考通過。

(構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博 協力/小峯隆生)