『情熱大陸』出演で話題沸騰、“現代の魔法使い”落合陽一が主宰する「未来教室」。『週刊プレイボーイ』で短期集中連載中、最先端の異才が集う筑波大学の最強講義を独占公開!
今年8月に音楽バラエティ番組『関ジャム完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で、「ピコ太郎さんに続く大ブレイクもあるかもしれません」と紹介された歌謡エレクトロユニット「Satellite Young」。そのボーカルで、作詞作曲からプロデュースまですべてを手がける草野絵美が前回記事に続き、今回のゲストだ。
Satellite Youngのコンセプトは、「80年代歌謡曲の現代的な進化」。30代から上のリスナーなら、初めて聴いてもどこか懐かしく感じられる音だ。しかし草野自身は80年代ネイティブではなく1990年生まれで、その歌詞はスマホとSNSに象徴される現代的な感覚を歌っている。
「ネットのない時代への憧れ」から生まれたユニットが、戦略的にネットを活用することで海外にもファンを獲得し、来るブレイクへと歩を進めていくプロセスは、確実にひとつの未来像を切り取っている。
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落合 でも、大衆の熱狂という点では、ここにいる学生たちはみんな90年代末とか2001年くらいの生まれでしょ。だから物心ついてから、ほぼほぼそういう共通体験を持っていない。
草野 そうなんですよ。ポケモンぐらいでしょう。『ポケモンGO』が去年ヒットしたのも、やっぱりそういうマスなものはちょっと昔のものからとってこないといけないのかなあと思います。
落合 みんな(学生たち)にとって「マスな音楽」はなんなんだろう? ちょっと聞いてみよう。ここ2ヵ月でカラオケ行った人! おお、ほぼ全員。素晴らしい。じゃあ、カラオケでEXILEを自分か、一緒に行った人が歌ったという人、手挙げて!
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学生たちに対し、落合陽一は即席のマーケティング調査を始めた。EXILEからスタートし、次々とアーティスト名を出して挙手を求める。しかし挙がる手のひらは満開にはほど遠く、せいぜい五分咲き、三分咲き。
やがてはこんな提案まで打った。「全員が手挙げそうな歌手名言える人いたら教えて! 当てたら焼肉おごるよ」と。名乗りを挙げる学生多数。しかし――。
落合 だめだ! この世界に今はもうマスはないです。すげー頑張ったけど一個も当てられなかったもん(笑)。
草野 米津玄師(よねづ・けんし)が一番多かったんじゃない?
落合 そうかも。とりあえず、広告代理店でここの学生たちにターゲティングする時は米津玄師を立たせればいいとわかりました(笑)。
これ、音楽が本当に多様化しちゃったってことですかね。以前、小室哲哉さんと対談した時、マス感っていつなくなったんですかって聞いたら「1998年だよ」ってはっきり言われました。宇多田ヒカルが全然わからなかった、と。マスな価値観の上では、みんなで歌える歌以外は歌としての価値が高くない。そうなってくると業界を変えるしかないって言ってましたね。
メジャーかインディーかの区別も難しい
草野 みんなで歌える歌ってなかなか難しいですよね。皆さんはどういうところで音楽を見つけるんだろう。YouTubeかな?
落合 (多数の挙手を見て)ああ、YouTubeですね。
僕らが感じてるマスなものって、意外ともうマスではない。僕らはまだマスだと思ってる妄想があるんだけど、それがない人たちばっかりの社会になっていて。いつの間にか僕らは、おじいちゃんおばあちゃんになってしまったんだって思うなあ。
草野 私もこの前、元SMAPの草彅(なぎ)剛さんがネットで番組やってた時に思いました。草彅剛さんがYouTuberの方たちと共演してたんですね。私はダントツで草彅さん面白いなあ…って観てたんですけど、下のコメント欄見たら、ほとんどYouTuberに言及していて。若い人たちは全然違うんだなあって感じました。
落合 確かに。YouTuberは親近感あるからね。今はInstagramとか、セレブエンパワー装置が増えまくったおかげで新しいセレブは出てくるわ、マイナーかと思ってたら意外とメジャーだわ、みたいなことがあって結構びっくりします。昔ってそんなにコロコロ新しい人は出てこなかったけど。
草野 逆に言うと、有名人と一般人の境がなくなってきてるし、メジャーかインディーかの区別も難しいですね。落合さんはテレビ観ます?
落合 俺、超観るよ。作業用BGMとしてフジテレビとTBSを同時に観てる。
草野 それは特殊能力だ(笑)。落合さんは全体的にホント、漫画から飛び出してきたみたいな感じですよね。落合さんの美意識が形成されるのに、アニメの影響とか入ってるのかなって。
落合 入ってない、逆だよ(笑)。漫画家の人が、僕みたいな人間を好むんです。みんなが想定する“変人像”と似てるんだよ。
草野 あ、そうか。
落合 だって俺、別に他人に言われたり、マネしたりしてグミ食ってるわけじゃないでしょ? ただ好きで食ってるんだけど、そうすると漫画でグミが好物のキャラとか出てくるんですよ。俺が「(何かを発見して)わぁーっ!」とか言ってると、「それ『シン・ゴジラ』の高橋一生のマネですか?」とか言われたりする(笑)。
草野 高橋さんが変人の演技をしてるだけ。
落合 そうそう。『デスノート』の映画ができた頃、俺は当時から目の下が隅だらけのお兄ちゃんだったんだけど「白シャツ着てるとL(エル)みたいだから着ないほうがいいよ」って言われて、それから白い服を着なくなった。メディアが想定できる“変な人”っていうジャンルがあって、そこに納まりやすいんです。だから俺、普通の人ですよ。普通の人が考える範囲に納まってるんで。
マスのない時代には、多面性のあるコンテンツが受ける
草野 よくわかりました(笑)。さっき言おうとしたのは、うちの息子はNetflixで子供番組とか『パーマン』みたいな昔のアニメとかを選んで見てて、そうなると保育園での共通の話題ってなんなんだろうって気になるんです。「昨日のポケモン見た?」みたいな話にはならないと思うんですよね。
落合 ああ、それはないだろうね。みんな最近、どんな番組見てるんだろう? 家にテレビある人、手挙げて。 おお、みんなテレビは持ってるんだね。じゃあ聞くよ?
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今度は学生たちが見ているテレビ番組の調査。しかし、やはり「マスなもの」探しは難航し――。
草野 だから、キムタクが雑誌の表紙で着てた服がバカ売れするみたいな時代に私は憧れてて、それを再現したいんです。
落合 その再現は僕ら以上の年代の人には受けるかもしれない。けど、それ以下の年代とは断絶があるのが今わかって、僕、結構ドキドキしてるんですけど。
草野 Satellite Youngに関しては、みんなそれぞれ違った捉え方をしてくれてます。
落合 多様な世代に応じた受容があるってこと?
草野 年が上の人には「懐かしい」って思ってもらえるんですけど、でも、ほとんどのリスナーは懐かしいって思ってないんですよ。むしろ新しい、みたいな。この曲調すごくDNA的に響くし、キャッチーだし、子供の頃見た再放送アニメのバックグラウンドで流れてた!みたいな。でもなんか全然違うし、踊れるから楽しいみたいな。
落合 俺は完全にフューチャーファンクのつもりで絵美ちゃんの曲聴いてるよ。
草野 ありがとうございます。マスのない時代には、多面性のあるコンテンツが受けると思うんですよ。
例えば『君の名は。』って、プロモーションがすごくうまかったですよね。初めは新海誠ワールド全開の風景画をバンバン出してコアなファンを惹きつけて、マスに広がっていく過程ではRADWIMPSの音楽出して、恋愛シーン出して。公開後も二次創作の絵とかをバズらせて…。
すごくいろんな層に響くようになってました。そうやっていろんな文脈でファンをつくれるかどうかが、これからの時代は鍵になってくると思うんです。
“中二感”みたいなのを味わいたくて、新海誠を観にいく
落合 僕、新海誠のことすごく好きで、一作目から全部観てるんですけど、あのギャグっぽい感じが好きなんですよ。
草野 ギャグっぽい?
落合 そう。「僕は○○したいと思ったけどしなかった、結局雨が降ってどうのこうの、うだうだ…」みたいなのをひとり語りで言う恥ずかしさみたいな。そういう“中二感”みたいなのを味わいたくて、新海誠を毎回観にいくんです。ゲラゲラ笑って「うわー中二が来たー!」「俺のなかの中二を褒めてやりたい!」みたいに楽しんでる。「俺のなかの中二にもポエム書かせてくれー!」って(笑)。
草野 なんかわかります(笑)。落合さんそういう感じ出てますよね。ちなみに、もっと若い頃はまた違った目線で見てたんですか?
落合 いや、若い頃からあの中二感をそれとして受けとってました。僕は中二が好きなんですよ。なんて言ったらいいか…要は、あれはお約束なんですね、新海誠作品の。むず痒い、愛でたい、しかし恥ずかしい、言ってくれてありがとう新海誠!ってやつ。
そうやって観てたんだけど、『君の名は。』がヒットしてから「あれは文学作品だ」みたいなこと言うやつらが増えて。急に高尚なものにされて、居心地悪くなっちゃった。映画館でアニメ好き仲間とゲラゲラ笑いながら観てたら、周りの人たちが泣いてるんです、しとしとと(笑)。僕が感じてる新海誠っぽさとのギャップに恐れおののいて死にそうになった。すみません、ちょっと熱が入っちゃいました。新海誠が好きすぎて。
草野 落合さん目線でもう一回見てみようかな(笑)。そしたらまた楽しめるかも。
■「#コンテンツ応用論2017」とは? 本連載は筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。“現代の魔法使い”こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トーク。学生は「#コンテンツ応用論2017」付きで感想を30回ツイートすれば出席点がもらえるシステムで、授業の日にはツイッター全体のトレンド入りするほどの盛り上がりです。
●落合陽一(おちあい・よういち) 1987年生まれ。筑波大学学長補佐。人間とコンピューターが自然に共存する「デジタルネイチャー」という未来観を提示し、同大助教としてデジタルネイチャー研究室を主宰。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。最新刊は『超AI時代の生存戦略 シンギュラリティに備える34のリスト』(大和書房)。
●草野絵美(くさの・えみ) 歌謡エレクトロユニット「Satellite Young」主宰、ボーカル。1990年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学SFC・環境情報学部卒業。ストリート写真家、ITベンチャー起業、ラジオパーソナリティなどを経て、2013年にSatellite Youngの活動を開始。80年代歌謡を再構築し、テクノロジー社会を描く歌詞を乗せた独特の世界観で欧米を中心にファンを獲得。日本でも“逆輸入”のような形で現在、まさに注目度急上昇中!
(構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博 協力/小峯隆生)